2023/05/29

ケカビの生えたタヌキの溜め糞を食べるセンチコガネ

 

2022年10月下旬・午後12:45頃・晴れ 

里山の西斜面を直登する細い山道が廃れ、藪が生い茂る獣道となっています。 
ここにホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残したと思われる溜め糞場kがあり、私はときどき通って定点観察しています。 

黒土と化した古い溜め糞場には、糞虫の羽化孔と思われる穴がたくさん開いていました。 
その少し下に、比較的新しい溜め糞がありました。 
地面には枯れた落ち葉が散乱し、その上に排便したタヌキの糞の表面に毛羽立った白カビがびっしり生えていました。 
点々と散らばった獣糞の全てが白カビの菌糸(?)で覆われています。 

そこにセンチコガネPhelotrupes laevistriatus)が1匹だけ来ていました。 
センチコガネは白カビの生えた獣糞の下に頭を突っ込んで、小刻みにグイグイ押しています。 
「糞ころがし」のように巣穴に向かって獣糞を運んでいるのではなく、その場で食糞しているようです。 
そもそもセンチコガネは糞玉を巣穴へ運ぶ際には後ろ向きに転がすはずです。

関連記事(1ヶ月前の撮影)▶ タヌキの溜め糞を崩し、後ろ向きに転がして巣穴に運ぶセンチコガネ

もしかすると、センチコガネは獣糞そのものよりも、それに生える菌糸やカビの方を好んで食べているのかもしれません。
我々ヒトの衛生感覚では不潔極まりない物ばかり食べても病気にならない悪食のセンチコガネは、よほど強力な抗菌作用をもっているのでしょう。

関連記事(1.5ヶ月前の撮影)▶ 白い菌糸塊?を食べるセンチコガネ

同定のため、動画撮影後に糞虫を採集しました。 
不潔なので、持参したビニール袋を手袋のように使って採取。 
標本の写真を以下に掲載予定。 
センチコガネの性別は? 

この地点にはトレイルカメラを設置しにくいこともあり、本当にタヌキが通う溜め糞なのかかどうか証拠映像を未だ撮れていません。 

秋になると、他の地点の溜め糞場にも白カビが生えるようになります。 
この時期以外では白カビの発生した獣糞を野外で見かけた記憶がありません。 
秋の長雨によるものか、それとも気温が下がって糞虫や蛆虫(ハエの幼虫)の活動が低下することで白カビが優勢になるのかと、素人ながら勝手に推測していました。 
興味深いことに、溜め糞に生えたモサモサの白カビは数日後に消失します。 
さすがにセンチコガネが白カビを全て食べ尽くすとは思えません。
インターバル撮影で獣糞上に生えるカビやキノコ(糞生菌)の遷移(栄枯盛衰)を観察するのも面白そうです。 

相良直彦『きのこと動物―森の生命連鎖と排泄物・死体のゆくえ』という名著を読むと、知らないことばかりで興奮しました。
特に筆者の専門である「排泄物ときのこ」と題した第4章がとても勉強になりました。
ど素人の私は漠然と「白カビ」と呼んでいましたが、専門的にはケカビというらしい。
・(採取した馬糞を培養して1週間後には:しぐま註)たいていケカビ類(Mucor、接合菌)もいっしょに生えていて、糞塊が綿でくるまれたように見えることが多い。(p74より引用)
・ 接合菌のケカビ類はセルロースを分解する能力がなく、糖類のような可溶性炭水化物を必要とする。その胞子は発芽しやすく、菌糸の生長は早い。このような性質によって、糞に糖類やヘミセルロースなど消費されやすい可溶性物質が存在する初期のあいだは、ケカビ類の増殖期となる。(p78より)
・糞には、蛋白質が半ばこわれたペプトン様の物質が含まれていて、それがケカビ相を産んでいるのではないかと(筆者は:しぐま註)想像する。(p82より)
・(京都で見つけたホンドタヌキの糞場で:しぐま註)比較的新鮮なふんにはケカビの1種とスイライカビの1種が生えていた。(p95より)
・タヌキの溜め糞場に生えるキノコ(アンモニア菌類など)についても詳しく書かれています。(p94〜98)

にわか仕込みの知識を踏まえて、私は次のように想像してみました。
秋になってタヌキが熟した柿の実を食べるようになると、糞には未消化の柿の種が含まれるようになります。
タヌキが甘い熟柿を食べると糞に含まれる糖分の濃度が上がり、ケカビの生育に適した条件が整うのではないでしょうか?
獣糞の糖分が消費され尽くされるとケカビは消失し、次の遷移状態に進みます。
タヌキの溜め糞で見つけた白カビを顕微鏡で観察したり培養したりしてケカビとしっかり同定できていないので、あくまでも素人の推測です。
野生動物がせっかく摂取した果肉から糖分を完全に消化吸収できないまま無駄に排泄するのかどうかも疑問で、実際に調べてみないと分かりません。
タヌキの尿に糖が含まれるとしたら、糖尿病に罹患していることになります。
まさか獣糞が甘いかどうか舐めてみる訳にもいきませんし、フィールドで得た試料から糖分をかんたんに検出する試薬のキットが欲しいところです。
高校化学で習った昔懐かしのベネジクト溶液で調べるしかないのかな?




↑【おまけの動画】
"The Life Cycle of the Pin Mould" by the British Council Film Archives
『ケカビの生活史』
モノクロの古い教育映画ですが、ケカビの一生を顕微鏡で丹念に微速度撮影した労作です。


2023/05/28

給餌したオニグルミの堅果を1個ずつ持ち去る野ネズミ【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年10月下旬

雑木林の斜面に自生するカラマツ大木の湾曲した幹の根元に木の実(堅果)を給餌して、野生動物の採食行動を観察しています。 
ドングリのストックが無くなったので、今度はオニグルミの堅果を拾い集めてきました。
関連記事 ▶ オニグルミの落果を採集(クルミ拾い)
カラマツの根元の地面の窪みに殻付きのクルミ40個を山盛りに並べて置きました。 
ここは雨も落ち葉もからからない場所で、地面は常に乾いています。
今回はオニグルミの果皮を予め取り除いておいたのですけど、皮付きのまま与えても良かったかもしれません。 







給餌場を監視するトレイルカメラを新機種に変更しました。 
センサーの守備範囲(画角)が旧機種よりも広いので、野生動物がクルミを持ち去るシーンの撮り損ねが減ることを期待します。 
気温データや月齢を画面に焼き込んでくれるのも助かります。


シーン0:10/31・午後・気温22℃(@0:00〜) 
新機種のトレイルカメラを設置した直後の現場の様子です。 
高画質のフルカラーで初めて見る現場の景色は新鮮です。 
餌場に置いたクルミの山が見えます。 
昼間のうちにリスに来て欲しかったのですが現れず、給餌した当日の夜に野ネズミ(ノネズミ)がクルミを全て持ち去りました。 


シーン1:10/31・午後20:30・気温7℃(@0:03〜) 
夜になると気温が一気に下がり、10℃を切りました。 
野ネズミが給餌場でクルミの匂いを頻りに嗅いでいました。 
赤外線の暗視映像でクルミは黒々と見えます。 (付着したタンニンの色?)

ようやく選んだ1個のクルミが、うっかり斜面を転がり落ちてしまいました。 
野ネズミは慌てて追いかけたものの、なぜか拾い直そうとしません。 
ピョンと大跳躍してから林床でフリーズしました。 
何か怪しい物音を聞いたのか、それともトレイルカメラの存在に警戒しているのでしょうか? 
何かの罠だと思っているのかな? 


シーン2:10/31・午後20:54・気温7℃(@0:40〜) 
右斜面をトラバースするように探餌徘徊していた野ネズミが餌場に辿り着きました。 
どうも餌場の存在を初めて知ったような素振りなので、さっきとは別個体の野ネズミなのかもしれません。 
餌場でクルミを選んでいる間に録画が打ち切られてしまいました。 

次にカメラが起動すると、野ネズミは餌場からクルミを右に運び出す途中でした。 
カラマツの根元でクルミを地面に置いて一休みしています。 
口元でクルミをクルクル回し、咥えやすいアングルを探すと右にヨタヨタと運び去りました。
野ネズミの体に対して大きなオニグルミの堅果を首の力で持ち上げながら前に運ぶのは大変そうです。 
見るからにドングリの運搬よりもはるかに過酷な重労働ですね。 


シーン3:10/31・午後20:57・(@2:00〜) 
暗視映像を連続で撮ると、トレイルカメラ自体が発熱するせいで気温のデータが異常値を示します。 
外気温でカメラが充分に冷めるまでは、最初に得られた測定値しか信用できません。 

餌場に戻っていた野ネズミが選んだクルミを右に搬出しました。 
2回目はもう慣れてきたようで、今度は動きも早くスムーズになりました。 

近くで貯食したようで、野ネズミはすぐに右からまっしぐらに餌場へ帰って来ました。 
クルミをもう1個選ぶと、再び右へ運び去りました。 


シーン4:10/31・午後20:59・(@2:27〜) 
給餌場からクルミを右に搬出。 


シーン5:10/31・午後21:04・(@2:36〜) 
餌場で選んだクルミを今度は左に運び去りました。 
貯食する場所を毎回少しずつ変えているのでしょう。 


シーン6:10/31・午後21:30・(@2:49〜) 
餌場に来るまで少し時間が開きました。 
どこかで小休止(食餌?)していたようです。 
餌場からクルミをクルミを左に搬出。 


シーン7:10/31・午後21:41・(@3:05〜) 
また少し餌場に来る間隔が開きました。 
重いクルミの運搬は疲労が激しいのかな? 
クルミを右に運び出す途中で立ち止まり、咥え直しました。 


シーン8:10/31・午後21:52・(@3:20〜) 
小休止後に貯食活動を再開。 
右から餌場に戻って来ると、クルミの選定に手間取っています。 
何を基準に選り好みしているのでしょう? 
ドングリと違ってクルミの実の中には寄生虫は潜んでいないはずです。 
疲れてくると、軽いクルミから順に運ぶようになるのかもしれません。 
少しでも持ちやすい(咥えやすい)形状のクルミを選んでいるのかな? 
ようやく選んだオニグルミ堅果を左に搬出。 


シーン9:11/1・午前0:08・気温6℃(@4:18〜) 
野ネズミがどこか安全な隠れ家(巣穴?)で大休止している間に日付が変わりました。 
オニグルミ堅果の子葉を食べるには、硬い殻をガリガリ齧って穴を2つ開ける必要があるので、夜食を食べるのも一苦労なのでしょう。 

活動を再開した野ネズミが餌場でクルミをじっくり選んでいます。 
なぜか空荷で餌場から右に少し離れ、すぐに戻って来ました。 
何か周囲の物音に警戒しているようです。 
ようやく選んだクルミを咥えると、カラマツの根際を右に回り込んでから斜面の上に運び去りました。 


シーン10:11/1・午前2:16・気温6℃(@4:56〜) 
餌場に残ったクルミの数がなぜか急に減っています。 
カメラの電池が消耗したせいか、撮り損ねた回があるようです。 
あるいは、野ネズミの体温が冷え切ってしまい、トレイルカメラのセンサーが検知しにくくなった可能性もありそうです。

大休止で英気を養った野ネズミが空荷で餌場の周囲をウロチョロと探餌徘徊しています。 
斜面に落ちていたクルミを見つけると拾い上げました。 
初回(シーン1)に餌場から運ぼうとして転がり落ちてしまったクルミを回収したようです。 
それを左へ運び去ってから、すぐにまた左から餌場に戻って来ました。 
餌場の下の斜面を探餌徘徊してから餌場に駆け込みました。 
匂いを嗅いで、クルミはもう残っていないことを確認しています。 


シーン11:11/6・午前7:10・気温5℃(@5:40〜) 
5日後の明るい日中に撮れた現場の様子です。 
餌場にオニグルミは1個も残っていません。 


※ 暗視映像が暗かったので、動画編集時に自動色調補正を施して明るく加工しています。 



ヤマボウシの熟果を舐めるニクバエの一種

 

2022年10月下旬・午後15:25頃・晴れ 


河川敷に植栽されたヤマボウシの生垣が紅葉し、果実も赤く熟しています。 
ニクバエ科の一種がヤマボウシの熟果に止まり、その表面を口吻で舐め回していました。 

私もヤマボウシの熟果を味見してみることにしました。 
果皮がシワシワになった熟果を選んで摘果します。 
触れるとブヨブヨした触感でした。 
果皮を指で裂くと、柔らかくねっとりしたクリーム状の果肉が現れました。 
中には複数の種子が含まれています。 
味見すると薄っすらと甘かったのですが、品種改良された果物の甘さには到底及ばず、喜んで食べる気にはなれません。 

地面にはヤマボウシの落果が大量に散乱していました。 
トレイルカメラで監視すれば、タヌキやハクビシンなどの夜行性動物が落果を食べに来る様子が撮れたかもしれません。

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