2022/06/06

メジロの古巣を見つけた!(野鳥)2021年

 

2021年12月上旬・午後13:40頃・晴れ 

冬が来て落葉すると藪が無くなるので、山で道なき道を歩いても「薮漕ぎ」はかなり楽になります。 
里山の山裾で、樹上に鳥の巣を見つけました。 
営巣木の樹種は残念ながら不明です。 
落葉灌木で枝ぶりは互生、冬芽が形成されていました。 

斜めに伸びた細い枝の二股になった部分に丸いお椀状の巣が吊り下げられています。 
古巣の外壁側面にズームインすると、巣材の表面には緑色の苔が使われていました。
反対側を見ると、1本の細いビニールテープ(水色ストライプ)も外壁の巣材として編み込まれていました。 
巣材に混入する人工物が少ないということは、この営巣地は自然度が比較的高いと言えそうです。
所々に使われている白い繊維状の巣材はクモの糸や卵嚢、あるいは蛾の繭の糸なのかな? 

動画を撮りながら左手で枝を手前に引き寄せてみましょう。 
産座には細い枯れ草?が多数使われ、細かい網の目状になっています。

真下から古巣の底面を見上げると、一部はスカスカです。 
雛が巣立った後に風雨に晒されて産座の多くが脱落したのでしょう。 
むしろ、台風や木枯らしのシーズンを経た後でも古巣の保存状態がこれほど良好なのが驚きです。 
親鳥がよほど丹精込めて作ったのでしょう。 

緩斜面の地表にはうっすらと雪が積もっています。 
地上から巣までの高さをせっかく巻尺で測ったのに、その値を記した野帳を紛失してしまいました。
私が手を伸ばせば届く高さなので、約2mぐらいだったと思います。 
枝先を手で手繰り寄せて巣内を覗くと、空っぽでした。 

さて、この巣を作った野鳥の種類は何でしょうか?
大阪市立自然史博物館の「日本鳥の巣図鑑サイト」で検索してみましょう。 
巣の形「お椀形」、巣材「コケ」、巣場所「樹上」という条件で絞り込み、ヒットした標本写真を見比べると、どうやらメジロの巣らしいと分かりました。 
同コレクションを元に書籍化した大阪市立自然史博物館叢書『日本鳥の巣図鑑―小海途銀次郎コレクション』を紐解いて、メジロZosterops japonicus) の巣の詳細を調べ直しました。 
営巣場所:日本各地の平地から山地の林で繁殖する。タケ、カシ、ヒノキ、モミジ、ケヤキなど色々な木の、地上約1.5〜10mの高さにある細い枝先の又になったところに巣をぶら下げる。
巣の特徴:コケ類、細い枯れ草、糸状のビニールなどを使い、蛾の繭やクモの糸で絡めて、小さなお碗形の巣をつくる。産座にはシュロや枯れ草の繊維、樹皮などを緻密に敷き詰める。 
似た巣:メジロと似た巣をつくる鳥は他にいない。 (p267より引用) 

水野仲彦『野鳥のくらし:卵から巣立ちまで』でメジロの営巣習性を調べると、
 山地の森の中に営巣、細い横枝の二股にクモの糸を張り、雌雄協力してハンモック形の巣をかける。枯草、樹皮などで椀形の巣を作り、周りには苔をたくさん貼り付け、産座には草の穂、獣毛などを敷く。完全に枝の間にぶら下がっている巣(p101より引用)
すっかり忘れていたのですが、メジロの古巣は以前にも見つけたことがあります。
関連記事(8、9年前の撮影)▶  
メジロの古巣を見つけた【野鳥】2013年 (2月に見つけた古巣は風化崩壊が進んでいます)
巣材の苔を集めるメジロ【野鳥】
古巣の造形や保存状態があまりにも素晴らしいので、記念に枝ごと切り取って採取し持ち帰りました。 
採集時にひとつ心配だったのは、もしかすると古巣ではなくてエナガが最近新しく作りかけた巣ではないか?という可能性です。 
エナガも巣材に苔を使うことで有名です。 
うろ覚えでしたが、エナガは確か冬に営巣を始めるそうです。 
帰宅後に復習してみると、エナガの完成した巣の形状はこれとは全く違っていました。 
また、12月上旬はエナガの造巣開始には未だ早過ぎます。
エナガの巣造りは、2月とか3月といったかなり早い時期に行われる(中村登流『エナガの群れ社会 (信州の自然誌)』p78より引用)
エナガ以外の野鳥が作った古巣だとしても、巣材に使われた苔が初冬にも青々としているなんてことはあり得るのでしょうか? 
野鳥は古巣を再利用しませんから、春から夏の繁殖期に作られた巣のはずです。
こけは全く奇妙な素材で、適度の湿り気をたくわえていて、いつまでも緑色を失わず弾力も失わない。その上まことに通気性がよい。すき間に空気を蓄えるので、温度の急変をやわらげる。その上、形をあまりくずさないので、手っとり早い充填剤になる。充填、保温、保湿、弾力にこの上ない材料である。(同書p68より引用)
ときどき雨が降って古巣が濡れれば、その水分と日光で苔は光合成を行い、青々と生育を続けることができるのでしょう。 
古巣の中には雛が食べ残した餌の欠片や羽毛、雛の糞などが詰まっていたはずですから、それを栄養分にしていたと考えられます。
柔らかい産座としてではなく外壁に緑の苔を使うのは、灌木林(藪の中)で天敵に巣が見つからないようにカモフラージュ(偽装)する効果があるのでしょう。

室内で乾燥させた古巣を採寸してみると、外径7.6×7.5cm、厚さ4.5cm、内径(産座)5.0×4.2cm、産座の深さ3.7cm。
図鑑に掲載されたメジロの巣の実寸値の範囲内でした。
 

2022/06/04

雪深いリンゴ園で遊ぶ野生ニホンザルの群れ

 

2022年1月上旬・午前10:45頃・晴れ 

山麓に広がるリンゴ園に野生ニホンザルMacaca fuscata fuscata)の群れが来ていました。 
おそらく深い雪の下に埋もれたリンゴの落果を探しにやって来たのでしょう。 
私が来るのが一足遅かったのか、採食シーンを撮れなかったのは残念です。 
猿害対策として果樹園の敷地全体をぐるりと囲んでいた電気柵やネット類は、根雪が積もる前に全て撤去されています。
さもないと雪の重みで春までに全て潰れてしまうからです。
そのため、冬になるとリンゴ園にニホンザルが自由に出入りできるのです。


完全に落葉したリンゴの樹上で2頭の若い個体が細い枝にぶら下がって遊んでいます。 
カメラを向けた私を警戒したようで、新雪の雪面に飛び降りると、雪原を遊動し始めました。
先行する個体が残したラッセル跡を辿り、ノシノシと土手を斜めに登って行きます。
深雪を先頭切ってラッセルするのは猿も疲れて大変なのでしょう。 

※ 遠くで鳴いている猿の鳴き声を聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。







2022/06/03

夜の雪山でトレイルカメラを気にするも、日が経つと馴れるタヌキ【暗視映像:トレイルカメラ】

 

2022年3月上旬〜中旬

杉を植林した低山の林道を監視するトレイルカメラに写ったホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の映像記録をまとめました。
夜行性のタヌキが一晩に1〜2回登場します。(登場しない日もあります。)
 
前回の記事:▶ 珍しく日中に雪山の獣道を歩くホンドタヌキ【トレイルカメラ】

シーン1:3/1・午前5:05・晴れ 
カメラの目の前に獣が立ってカメラの匂いを嗅いでいます。 
あまりにも至近距離のため、全身像どころか顔も写っていません。 
闇夜に赤く光る2個の赤外線LEDが気になって仕方がないようです。 
やがて右に立ち去りました。 
林道のガリガリに凍った雪面にスギの落枝が散乱しています。 


シーン2:3/2・午後21:31・晴れ 
翌日はカメラから離れ、雪道の反対側を通りかかったようです。 
杉の木の下で立ち止まり、トレイルカメラを凝視しています。 
やがて左へ立ち去りました。 


シーン3:3/3・午前2:30・晴れ 
5時間前に登場したタヌキと同一個体なのか、別個体なのか、私には確証が持てません。 
カメラの真正面に立ち、カメラ目線で静止しています。 
やがて身を翻すと左に去りかけたところで立ち止まり、2回も振り返ってカメラを気にしています。 
雪道を右から左へ歩く巡回ルートが前回と同じなので、同一個体なのかもしれません。 


シーン4:3/14・午前0:23・晴れ 
カメラを気にしながら、珍しく左から右へゆっくりと歩いて横切りました。 


シーン5:3/14・午前4:02・晴れ 
3時間40分後の深夜にタヌキが再登場。 
雪道を左から右へゆっくり歩く巡回ルートが同じなので、同一個体なのかもしれません。 


シーン6:3/15・午前0:25・晴れ 
タヌキが脇目も振らず右から左へ立ち去りました。 
今回は珍しく、カメラを見ませんでした。 


シーン7:3/15・午前5:13・小雪 
4時間50分後の夜明け前にタヌキが再登場。 
トレイルカメラの電池が消耗しているせいで起動が間に合わず、タヌキは同じルートで左へ立ち去りました。 
小雪(みぞれ?)がチラついています。 


この場所は晩秋には溜め糞場sとなっていたのですが、根雪が積もるとホンドタヌキは雪道に排便しなくなったようです。 
そもそも積雪期になると、タヌキの通行頻度がぐっと下がりました。 
林道上に点々と並ぶ糞塊の全体像をカメラの画角内に収めるのが難しいために、タヌキの排便シーンが撮れていないだけかもしれません。 (画角の右外で脱糞した?)
林道上に大雪が積もるとカメラの設置位置が雪面に対して低くなり、画角が狭くなってしまいました。 
カメラの電池を交換するために私がときどき現場入りしたときにも、雪道にタヌキの糞を見つけたことは一度もありません。 (タヌキの糞が雪の下に埋もれていた可能性はあります。)


ホンドタヌキの学名変更について余談。
私はこれまでWikipedia日本語版の情報を元に、ホンドタヌキの学名をNyctereutes procyonoides viverrinusとしてきました。
ユーラシア大陸産タヌキNyctereutes procyonoidesの本州亜種という見解です。
ところが私のYouTube動画に最近、海外の方からコメントを頂きまして、ホンドタヌキの学名はNyctereutes viverrinusとのご指摘がありました。
これはWikipedia英語版の情報と同じで、ユーラシア大陸産のタヌキNyctereutes procyonoidesとホンドタヌキは明らかに別種であるという見解です。(亜種名から種小名viverrinusへ昇格)
外見や解剖学的な違いは素人目には見分けがつかないのですが、ミトコンドリアDNAを解析した結果、そうなるのだそうです。
もし別種だとしたら、雑種は生まれないか不妊になるはずです。
そのような雑種形成実験を飼育下で試したという話を私は聞いたことがありません。
細胞の染色体の数や核型がそもそも異なるそうなので、種間交雑はまず無理だろうという話です。
また行動にも違いがあり、例えばエゾタヌキ(北海道産のタヌキ≒ユーラシア大陸産のタヌキ)は冬ごもりしますが、ホンドタヌキは冬でも元気に活動します。
ただし、冬ごもりの行動が遺伝的な違いかどうか、私は知りません。
以上の新しい知見を得た私はあっさり改宗しました。
むしろ、日本国内のタヌキ学者がどうして未だに古い学名に固執しているのか不思議です。(日本人ゆえのプライド?)
これを機会に、当ブログやYouTube動画に登場するホンドタヌキの学名を全て変更しました。




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