2018/05/28

壊されたヒメスズメバチの巣穴を深夜に覗いてみると…【暗視映像】



柳の根際に営巣したヒメスズメバチの記録#5


前回の記事#4

2017年9月中旬・午前3:00頃・気温14.5℃、湿度75%

柳の根際の土中に作られたヒメスズメバチVespa ducalis)の巣が掘り返された(崩落した?)形跡があり、残り少なくなった蜂もなんだかよく分からない行動をしていました。

そこで、巣盤の破壊状況を自分の目で直接確認してみることにしました。
しかし、スズメバチ用の防護服は高嶺の花です。
いくらヒメスズメバチが穏健な(攻撃性の低い)種類のスズメバチだとは言え、防護服を持っていない私はなかなか巣に近づけません。

それでもできるだけ安全に巣を調べる作戦を思いつきました。
モンスズメバチと異なり、ヒメスズメバチは昼行性です。
夜になると外役に出ていたワーカー♀も全員巣に帰って寝ていますし、暗闇では目が見えませんから攻撃性も更に低下しているはずです。
暗視ビデオカメラと赤外線投光機を取りに一旦家に戻り、日付が変わった深夜に現場を再訪しました。

明け方に決行したのは、気温が低い方がスズメバチの活動性が下がるからです。(赤外線投光機の充電に手間取ったせいでもあります。)
ナイトビジョンカメラで巣穴の奥の様子をそっと撮ってみました。

約12時間前の昼間には日光浴や謎の定位飛行、扇風行動を繰り返していたのに、真夜中の巣前庭には一匹も蜂は居ませんでした。
巣穴の入り口に、植物の細根が上から暖簾のように垂れ下がっています。
穴の左奥の下に、スノコのような人工物が見えます。
遊歩道が造られてから長年の間に土が堆積し柳の木や藪が育ったせいで分かりにくいのですが、ここは舗装された遊歩道の路肩で、雨水などを排水するための排水溝(暗渠)がスノコの下に流れているようです。

私がビデオカメラを持ってゴソゴソしていたら、巣穴の右奥から寝起きのヒメスズメバチ♀が1匹歩いて来ました。
焦りましたが、すぐに引き返してくれました。
計3匹の蜂が興奮したようにウロウロと歩き回っています。

そのうちの1匹が翅を半開きにした警戒姿勢になったものの大顎を開閉しただけで、カチカチ鳴らす警告音は聞き取れませんでした。(なので私も身の危険は感じませんでした)
蜂は目覚めていて明らかに警戒していましたが、暗闇では決して飛び立ちませんでした。

巣前庭にも出てきませんでした。

空洞になった柳根際の地面に巣の外皮の破片が散乱しています。
ヒトに駆除されたのか天敵に襲われたのか分かりませんが、巣を破壊されたのは間違いありません。

それでも壊された巣で夜を過ごし、巣を守ろうとする蜂が健気です。

巣盤が上から吊り下げられているはずだと予想してビデオカメラを上に向けてみても、空洞が写るだけで巣盤は見つかりませんでした。(もっとじっくり調べるべきだったと後で悔やむことになります)

壊された巣を再建している形跡もありませんでした。
巣穴の奥には更に多くの蜂が休んでいたのかもしれませんが、確かめられませんでした。
防護服が無いおっかなびっくりの調査では、これが限界です。
ファイバースコープのような暗視カメラをそっと差し込んで撮影するのがスマートかもしれません。(これまた高価な機材で、私には手が出ません)

ヒメスズメバチの巣を発見したその日に、未だ壊されていない巣盤の状況をこの方法で夜に調べなかったのが、一番悔やまれます。

つづく→#6







【追記】
松浦誠『社会性ハチの不思議な社会 (自然誌選書)』を読むと、熱帯のインドネシアで調査したエキゾチックな蜂の話が序章から出てきて面白いです。
「豪雨のなか、ヒメスズメバチと格闘する」と題したエピソードが壮絶でした。(p12〜17)
巣に近づいただけで襲われる、その激烈な攻撃性、凶暴性に震撼し、私が知る日本産ヒメスズメバチの穏やかな性質とあまりにも違うので驚きました。
この記述を額面通りに信じていたら、とても恐ろしくて防護服なしでは私もヒメスズメバチの巣に近づこうとは考えもしなかったことでしょう。
本書は1988年に刊行され少し古い(30年前)のです。
このスズメバチは、東南アジアの各地に15亜種にも分化していて、日本にも、本州以南に3亜種が生息している。(p13より引用)
どうもおかしいので読み直すと、
体長3センチを越える大型のスズメバチが、さかんに飛びまわっている。全身、真っ黒で、腹部の中央にオレンジ色の太い帯を一本巻いたそのハチは、スズメバチのなかでもオオスズメバチにつぐ体躯をもった、ヒメスズメバチであった。(p13より引用)
本文には和名だけで学名が記されていないのですが、この特徴から、筆者の松浦先生が記録したインドネシアの蜂の学名はVespa tropicaであり、日本のヒメスズメバチ(Vespa ducalis)とは別種であることに気づきました。
古い図鑑を見ると、確かにかつては日本産ヒメスズメバチの学名はVespa tropica pulchraとされていて、分類上の混乱が生まれたのです。
アシナガバチ類の巣を専門に襲撃して幼虫や蛹を奪い、自分の巣の幼虫の食物とするユニークな生態はV. tropicaV. ducalisで共通らしく、研究の初期には亜種の関係にあると考えられていたのでしょう。
名著でも古い文献を参照する際は、現在の知見と違っている可能性があるので注意が必要です。 




カキノキで実を採食する2羽のツグミ(野鳥)



2016年11月下旬

郊外の庭木として植栽されたカキノキの枝に実った果実を2羽のツグミTurdus eunomus)が、採食していました。
熟柿というほど熟れておらず、未だ少し硬そうな果実です。

食事の合間にツグミが脱糞しました(@0:53、1:59)。
糞に柿の種が含まれていれば、種子散布に貢献したことになります。

実を嘴で啄んでいるときに、食べ損ねて果肉を落とすことがありました。
食後は嘴を足元の枝に擦り付けています。
横の道を車が通りかかると、ツグミはカキノキから飛び去りました。


※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



2018/05/27

ヒメスズメバチ♀の奇妙な扇風行動【HD動画&ハイスピード動画】



柳の根際に営巣したヒメスズメバチの記録#4

前回の記事#3

2017年9月中旬・午後15:27〜15:35・気温28℃

前庭で巣穴の方を向いて休んでいたヒメスズメバチ♀(Vespa ducalis)が突然、その場で羽ばたき始めましたので驚きました。
実際は飛翔時のように猛烈な勢いで羽ばたいているのですが、映像ではストロボ効果の錯覚により羽ばたきが遅く見えています。
休息を挟みながら扇風行動を断続的に繰り返していました。

後半は、定位飛行および扇風行動の羽ばたきを240-fpsのハイスピード動画でも撮影してみました。(@3:01〜)
♀αが扇風行動を止め前庭で休んでいると、別個体♀βが飛来しました。(@4:04)
それに反応して飛び立つと、すれ違う際に接触し、♀αはバランスを崩して一瞬着地。
♀βはさっさと巣に入りました。
♀αは低空で定位飛行を続けます。
スローモーションで見ると、空中でホバリング(停空飛翔)している間も頭がキョロキョロと油断なく動いていました。
アシナガバチとは異なり、飛翔中は空気抵抗を減らすために脚を縮めて体に引きつけています。

スズメバチ類は真夏に気温が約30℃を越えると、育房内の幼虫や蛹を守るために巣を冷やそうとワーカーが巣の外被上で羽ばたいて扇風行動を行います。
巣口に風を送り込んで巣内の温度を冷やすのです。
しかし、今回の個体は巣の外被から離れている上に頭を巣に対して斜めを向けています。
したがって、いくら羽ばたいても風が巣には送り込まれず、体力の無駄でしかありません。
扇風による巣の冷却や換気の効果は全く期待できないことになります。
撮影しながら気温を測ると28℃でした。
日向の地面はもう少し暑くて30℃を越えていた可能性があります。
前庭の地表温度を測りたかったのですが、この個体が居座っているために近づけませんでした。
日光浴して暑くなったのなら日陰に移動すれば済む話なのに、わざわざ体力を消耗する扇風行動を行う意味が分かりません。
むしろ日向で定位飛行や扇風行動などの激しい運動をすれば体温は更に上昇するはずです。
もし捕獲したスズメバチを飼育中に室温を上げたら、たとえ巣がなくても簡単に扇風行動を誘発できるのか、確かめてみたいものです。

昆虫は変温動物なので、飛び立つ前に飛翔筋の入念な準備運動をして体温を上げる必要がある種もいます。(体重の重い昆虫や、気温が低い夜に活動する種など)
しかし、日向で日光浴をしているヒメスズメバチの体温は充分に高いはずです。

巣の前庭で扇風しながら腹端をやや持ち上げているため、もしかすると交尾前の新女王が雄蜂を誘引する性フェロモンを積極的に拡散しているのだろうか?と素人が勝手な妄想を逞しくしてみました。(私の知る限り、スズメバチでそのような行動は報告されていません)
この仮説は、ミツバチによる「匂い扇風」から連想したものです。
しかし、観察をしばらく続けても、営巣地の周囲にヒメスズメバチの雄蜂♂が殺到することはありませんでした。

柳の根際の土中に作られた巣が掘り返された(崩落した?)形跡があるため、そもそも異常な行動を見ているだけ、という可能性もあります。
巣が壊され女王蜂を失うとコロニーの統制が喪失し、ワーカー♀が呆然と様々な異常行動を示すようになるのかもしれません。
以前、山中で観察したチャイロスズメバチの巣が壊された後の行動も、巣を再建せずに呆然と無為に過ごしているようでした。

▼関連記事
破壊された巣とチャイロスズメバチ♀残党

謎の行動を繰り返している個体が1匹だけというのが、とにかく奇妙です。
一見無駄に見える定位飛行や扇風行動を繰り返しているのは、とにかく元気が有り余っている個体なのでしょうか?
それとも異常行動なのでしょうか?
ネジレバネなどに寄生された個体が異常行動を取るようになったのか?とか、巣を駆除する際に使われた殺虫剤(神経毒)が残留していて、その影響で異常行動をするようになったのか?などと想像してしまいます。


ヒメスズメバチのコロニーが解散したら初冬にでも巣の発掘調査をしようと計画していたのに、どうも何者かに巣を壊されてしまったようなのです。
巣の破壊状況を早く自分の目で確認したいのはやまやまなのですが、高価な防護服を持っていない私はなかなか巣に近づけません。
それでも安全に巣を調べる工夫を思いつきました。

つづく→#5:壊されたヒメスズメバチの巣穴を深夜に覗いてみると…【暗視映像】


ランダムに記事を読む