2015年9月下旬
トリノフンダマシ♀の定点観察#12
桑の葉裏に吊るされたトリノフンダマシ(Cyrtarachne bufo)の卵嚢3個を採集して室内で飼育することにしました。
同属の近縁種オオトリノフンダマシ(Cyrtarachne inaequalis)の場合、紡錘形の卵嚢に出来る脱出孔は必ず重力と反対側に出来ることが実証されているそうです。
(文葉社『クモの巣と網の不思議:多様な網とクモの面白い生活』p131より)。
中の幼体に負の重力走性(走地性)があり、脱出しようと上に向かって同じ位置を噛み付いた結果、開孔するのだそうです。
▼関連記事(2006年の撮影)
オオトリノフンダマシ幼体の出嚢:前編
トリノフンダマシとオオトリノフンダマシは卵嚢の形状が明確に異なります(球形、紡錘形)。
今回、同じ母クモが産んだと思われる卵嚢を3個手に入れたので、私も真似をしてトリノフンダマシの球形の卵嚢で実験してみることにしました。
採集時の自然状態の向きに対して正立、倒立、横向きと3種類の条件で木工用ボンドやリングなどを使って容器内に固定しました。
採集して4日後の晩、幼体の孵化が始まりました。
出嚢したのは密閉容器内に正立して置いた卵嚢です。
つまり、採集時(自然状態)と上下を同じ向きにしておいた卵嚢です。
初めの2個の卵嚢に関しては母クモが産卵した順番が分かりません。
普通に考えれば産卵順に孵化するのでしょう。
真上ではないものの、確かに卵嚢の上部を食い破って穴を開け、幼体が続々と脱出してきます。
大小2個の脱出孔が並んでいます。
大脱走の様子を3時間、微速度撮影してみました。
60倍速の早回し映像でご覧ください。
【おまけの動画】
早回し速度を変えたバージョンを2本、ブログ限定公開します。
眠れない夜にでもご覧下さい。
「羊が1匹、羊が2匹、… zzz」
↑40倍速映像
↑10倍速映像
つづく→#13:卵嚢から孵化するトリノフンダマシ(蜘蛛)幼体
コガタスズメバチ巣の定点観察@祠・軒下#1
2015年7月中旬・深夜00:05〜00:07
今季のスズメバチ観察で最も興奮した発見の一つを報告します。
祠の軒下に営巣したコガタスズメバチ(Vespa analis insularis)の巣を定点観察しています。
外被はだいぶ立派に育っていました。
夜中に様子を見に行き、赤外線の暗視カメラでそっと撮影すると、巣口から3匹の門衛が外界を見下ろして警戒しながら化粧していました。
この日は外被の夜間増築作業は見られませんでした。
外被を作りかけてポケット状になった部分にゴキブリが1匹潜んでいることに気づきました。
やがてゴキブリは警戒を解いて外被上を徘徊し始めました。
巣口から中に侵入する決定的瞬間が撮れるか?!と固唾を呑んで見守ります。
一方、コガタスズメバチの門衛は外被をガサゴソ歩き回る物音で侵入者に気づいているはずですが、外に出て来て積極的に追い払うことはしませんでした。
目が見えない夜は専守防衛で籠城するようです。
ゴキブリは巣口に差し込んだ長い触角をコガタスズメバチ♀門衛に噛み付かれそうになり、慌てて退散しました。
今回、ゴキブリがスズメバチと居候している決定的な証拠映像がようやく撮れました♪
ゴキブリは夜行性なので、暗視カメラの勝利です!
実は1ヶ月前の夜に、同じ祠でコガタスズメバチの巣の下の板壁を徘徊するゴキブリを観察して以来、共生(居候)しているのではないかと予想して張り込みを続けていたのです。
▼関連記事
夜に外壁を徘徊するヤマトゴキブリ♀【暗視映像】
今回見たゴキブリの種類ですが、前回と同じヤマトゴキブリ(Periplaneta japonica)だとしたら、長翅の♂成虫ではありません。
幼虫または短翅の♀成虫だと思います。
腹端に卵鞘をぶら下げてもいませんでした。
後半はゴキブリを同定するため白色LEDを点灯したのですが、高所まで光が届きませんでした。
しかも夜行性のゴキブリは眩しい光を嫌って外被の上部(死角)に逃げてしまいました。
ストロボ写真を撮ればよかったのですけど、この日は普通のカメラを忘れてきたのです…。
同定のためゴキブリを採集したくても、最強の用心棒に守られているため怖くて手出しができません。
まるでヤクザの事務所に居候しているようなものです。(ワレええ根性しとるの!)
近隣の家から害虫駆除で迫害され続けた結果、半野外で究極のボディーガードを見つけたのかな?
コガタスズメバチの巣内を内視鏡カメラで覗いてみたら、もしかするとゴキブリが何匹も見つかるかもしれません。(ワクワク♪)
駆除したスズメバチの巣内にゴキブリが見つかった事例は報告されているのでしょうか?
(即効性のある強力な殺虫剤を使わないと、巣を採集する前にゴキブリは逃げてしまいそうです。)
スズメバチ関連の本を何冊も読んできましたが、ゴキブリに関する記述は記憶がありません。
在来種ヤマトゴキブリを飼育した経験から、雑食性で朽木を好んで食べることが分かっています。
コガタスズメバチの巣材は樹皮ですから、ヤマトゴキブリは居候しつつ巣を食害していても不思議ではありません。
あるいは巣内のスズメバチの食べ残し(虫の死骸)や排泄物が目当てなのかもしれません。
明るい昼間だとゴキブリはスズメバチに見つかったら殺されて幼虫の餌にされてしまうでしょう。
昼間も外被ポケットに潜んでいるのでしょうか?
外被の増築に伴いポケット内に閉じ込められても齧って脱出するのは容易でしょう。
スズメバチから攻撃されないようにゴキブリが体表を化学擬態しているとしたら面白いですね。
アリの巣の中では蟻客(好蟻性昆虫)と呼ばれる多種多様な生きものたちが非常に繁栄しています。
好雀蜂性昆虫(しぐま造語)も同じぐらい面白いテーマかもしれないと、以前から密かに思っていました。
参考サイト:スズメバチの天敵@都市のスズメバチ
しかしスズメバチの巣は毎年一から作り直すので、好蟻性昆虫ほど寄主と親密な共生関係は築けずあまり繁栄していないのかもしれません。(あまり研究が進んでいないだけなのかな?)
ゴキブリがスズメバチの巣を食害するシーンを撮りたくて、その後も夜な夜な定点観察に通いました。
しかし残念ながらゴキブリの姿は二度と見つけられませんでした。
もし私の予想通り巣内でコガタスズメバチと同居しているとしたら、外から見つけ難いのは当然です。
ゴキブリは物陰に潜む性質があるので、今回の事例も冷静に考えれば「ゴキブリが徘徊中に偶然コガタスズメバチの外被ポケットに迷い込んだだけ」という可能性を排除できません。
素人でもできそうな実験としては、採集したスズメバチの古巣を餌にしてヤマトゴキブリを飼育できるかどうか、試してみる価値はありそうです。(ゴキブリはスズメバチの巣に誘引されるのか?)
【追記】
翌年に飼育実験しました。
コガタスズメバチの古巣を餌にヤマトゴキブリの飼育は可能か?
2015年9月上旬
トリノフンダマシ♀の定点観察#11
前回の観察から5日後に営巣地を訪れるといつもの隠れ家(桑の葉裏)にトリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)の姿が無く、焦りました。
辺りを探すと、右下の低い桑灌木の葉裏に隠れていました。
幼体が未だ孵化していないのに母クモが卵嚢ガードを放棄して移動したのは何故なのか、非常に気になります。
隠れ家を移動したことのメリットを考えてみると、造網の基礎となる水平の枠糸や放射糸が短く節約できるはずです。
予想が正しければ、前回よりもこじんまりした網になりそうです。
造網する営巣地は茂みにギャップがあることがポイントなのでしょう。
ところが夕方から深夜2時まで粘って観察しても、トリノフンダマシ♀は隠れ家に篭ったまま造網を始めてくれませんでした。(映像なし)
産卵準備なのか?という気がしてきました。
クモを採集して飼育下で観察するべきか迷ったのですが、この時期は他のことで忙しくて飼育する余力が無いので、諦めて帰りました。
※ クモに個体識別のマーキングを施した訳ではないため、隠れ家を引っ越したトリノフンダマシ♀が同一個体である確証はありません。
しかし生息密度が低いので、同一個体とみなして話を進めます。
2015年9月上旬
それから更に8日後に再訪すると、♀クモが失錯していました。
前回隠れていた桑の葉裏に新たに卵嚢が1個作られていました。
♀は計3個の卵嚢を作って寿命を迎えたのかもしれません。
やはり飼育下で卵嚢作りを観察したかったです。
つづく→#12:トリノフンダマシ幼体(蜘蛛)の出嚢【微速度撮影】