2023年12月中旬・午後15:05頃・くもり
山麓を流れる水路沿いに遊動してきた2頭のニホンザル(Macaca fuscata fuscata)のうち、先頭個体(発情した♂成獣)に注目して下さい。
2頭は谷を渡る水路橋のたもとまでやって来ました。
後続個体については別の記事しました。
関連記事(同所同日の撮影)▶ 痛々しく3本足で跛行するニホンザル♀の木登り能力
先行♂個体は橋の下の谷を覗き込んで、群れの仲間の動向を気にしています。
特に、この時期はニホンザルの交尾期ですから、♀成獣を探しているのかもしれません。
関連記事()▶ 谷の落葉した樹上で警戒するニホンザルの群れ(首輪装着個体など)
先行する♂が谷の対岸から水路橋の手摺を伝い歩きでこちらにどんどん渡って来ます。
このとき私は谷の此岸で突っ立ったまま撮影に集中していました。
遊動中のニホンザルにしてみれば、私はまるで「この橋渡るべからず」と意地悪に通せんぼしているように見えたはずです。
さあ、近づいてくるニホンザル♂はどうするでしょうか?
「猿に道を譲ってあげたら良いのに」と言われそうですが、遊動する野生ニホンザルの群れを見つけた途端に私はその場にフリーズ(静止)し、心を無にして(気配を消して)撮影観察を始めたのです。
今までの経験上、私が少しでも動くとニホンザルはてきめんに警戒して逃げ出してしまうはずです。
先行する個体は、橋の手摺から横の落葉高木(樹種不明)にひょいと跳び移りました。
このとき股間に紅潮した立派な睾丸が見えたことから、発情♂と判明。
樹上で落葉後の枝を激しく揺すりながら大声で吠えました。
猿が乗って激しく揺すっている枝がボキッと折れたら谷底に落ちるのではないかと心配になります。
明らかに私の方を向きながら木揺すりしたことから、進路をふさぐ私に退いて欲しくて、威嚇してきたようです。
橋の下の谷に散開して採食遊動している群れの仲間(特に発情♀)に向けての存在アピールも兼ねているのかもしれません。(ヒトに立ち向かう俺って勇敢だろ? 見て見て!)
しかし木揺すり行動は過去にも見ていて想定の範囲内だったので、私は何も反応しませんでした。
私はニホンザルとは決して目線を直接合わせず、少し俯いてカメラのバックモニターをひたすら注視していました。
私を追い払うどころか無視されたので、発情♂の威嚇誇示はわずか7秒間で終わりました。
その木揺すりを見ていた群れの他のニホンザルたちの反応が気になります。
しかし、私は発情♂にズームインしてその行動を撮影するのに集中していたので、遠くに居る他個体の反応を同時に知ることが出来ませんでした。
後続の若い♀(跛行個体)は、木揺すりに驚いたり怯えたり感心するなどの反応を特に何も示しませんでした。
発情♂は樹上から再び水路橋の手摺に戻ろうとジャンプしたものの、着地に失敗してあやうく落ちかけました。(猿も木から落ちる?)
手摺に無事登り直すと、伝い歩きで更に近づいて来ます。
水路橋を渡り終えそうになると、発情♂はまたもや手摺から横の落葉性高木へと身軽に飛び移りました。
そのまま木を下って地上に戻り、邪魔な私を無事に迂回できました。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@1:46〜)
この♂個体は右耳の耳介が無いことに気づきました。
過去の喧嘩で食いちぎられたのかな?
木揺すり威嚇誇示するニホンザルはいつも♂なのか?(男性ホルモンが関わる攻撃性なのか?)という疑問がわきました。
文献検索すると岡山県の餌付け群で長期観察した研究成果の学会発表がヒットしたので、ありがたく抄録を読んでみました。
中道正之; 山田一憲. ニホンザルの木ゆすり行動. In: 霊長類研究 Supplement 第 39 回日本霊長類学会大会. 日本霊長類学会, 2023. p. 34-34.
♂の方が頻度が高いものの、♀も木揺すり行動をすることはあるそうです。
中心部オスは、交尾期だけでなく、非交尾期も木ゆすりを行ったが、音声を伴う木ゆすりは交尾期に多く、非交尾期では少なかった。他方、周辺部オスや集団外オスの木ゆすりは交尾期に集中し、しかも、音声を伴った木ゆすりの割合が中心部オスよりも有意に高かった。(中略)尚、28歳の高齢αオスは木ゆすりを全く行わず、目立つ攻撃行動もわずかであった。メスの木ゆすりのほとんどは、αメスとその娘たちによって、非交尾期に行われ、音声を伴うことはほとんどなかった。以上の結果から、目立つ攻撃行動をメスに行うことが困難であった周辺部オス、集団外オスは、音声を伴う木ゆすりを行うことで、メスに自身の存在を知らせ、引き付ける木ゆすりの効果(広告効果)をより高めていたと思われる。他方、中心部オスはメスに対する目立つ攻撃行動が可能だったので、音声を伴う木ゆすりの割合が低くなったと思われる。
下線部を元に素人が勝手に解釈すると、今回、交尾期に鳴きながら木揺すりした発情♂は、群れ内の順位が高くない個体(周辺部♂)で♀にアピールしていた、という可能性もありそうです。
しかし今回は明らかに対ヒト(観察者)の木揺すり威嚇行動に見えたので、ニホンザル同士のディスプレイに注目した研究結果を当てはめるのは不適切かもしれません。
ポイントとなるのは、猿は近くで観察する私のことなど実は眼中になくて木揺すり行動したのか?、という点です。
当地のニホンザルは餌付けしなくても、ときどき遭遇する私に少しずつ慣れてくれたので、私を無視して自由に振る舞ってくれたのなら観察しやすくて助かります。
この後も同じ群れで遊動するニホンザルが次々に水路橋を渡ってきたのですが(動画公開予定)、木揺すり威嚇した個体は他にいませんでした。
だとすれば、唯一木揺すりした♂個体はいわゆる「ボス猿」的なα♂だったのかもしれない、と考えたくなります。
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