2016年10月上旬
農道(堤防)沿いの草地に咲いたムラサキツメクサ(=アカツメクサ)の群落でキムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)が訪花していました。
クマバチ♀の後脚を見ると、花粉籠は空荷でした。
ムラサキツメクサの花は鞠状の集合花序です。
筒状の小花の一つ一つに丁寧に舌を差し込む(正当訪花)のではなく、クマバチは小花を掻き分けるとその根本を噛んで穿孔盗蜜していました。(※追記参照)
この吸蜜法では雄しべの花粉に触れませんから、クマバチの後脚の花粉籠が空荷なのは当然です。
クマバチはハナバチ類の中でも舌が短いため、盗蜜の常習犯なのです。
(もしかすると、クマバチの舌はムラサキツメクサの小花に差し込むには太過ぎるのかもしれません。)
同一個体をひたすら追跡して撮影しました。
3年前にはほんの一瞬しか撮影できず悔しい思いをしたのですが、今回ようやくじっくり観察することができて感無量です。
▼関連記事
ムラサキツメクサを訪花するクマバチ♀
藤丸篤夫『花の虫さがし』という私の大好きな本によると、
(ムラサキツメクサの花で)蜜を吸いに来るハチの種類が、シロツメクサより少ないわけは、花の長さがシロツメクサより長いために、舌の短いハチでは、蜜が吸えないからです。(p29より引用)
石井博『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学』を読むと、アカツメクサは長花筒花、シロツメクサは短花筒花という用語で呼ばれていました。(kindle版 p141より)
【追記】
鈴木和雄『蜜を盗むハチ:マルハナバチの盗蜜行動』によると、
盗蜜には二つのやり方があります。一つは蜜を吸うために花の一部に穴をあけたりする破壊行為を伴う場合で、「略奪」(Nectar robbing)、もう一つは破壊が起こらない場合で、「窃盗」(Nectar theft)といいます。略奪は短く丈夫な口吻をもったオオマルハナバチ、クマバチなどが行う場合が多く、窃盗は細長い口吻をもったガやハチドリなどにみられます。(ポピュラーサイエンス『動物たちの気になる行動(1)食う・住む・生きる篇』p66-67より引用)
これらのハチは口吻が短い代わりに丈夫にできていて、穴をあけやすくなっています。穴は顎で噛んであける場合もありますが、多くは口吻を突き刺してあけているようです。(同書p69より)
実は今回の映像でも、クマバチはムラサキツメクサの花の基部を大顎で噛み切ったのではなくて口吻を突き刺して穿孔したような気がしました。
そのように記述してある専門家の総説にようやく巡り会えたので、引用しておきます。
最後のスナップショットでは珍しく正当訪花している? |
比較のために、舌の長い他のハナバチの吸蜜シーンをご覧ください。
・アカツメクサに訪花するトラマルハナバチ♀
・アカツメクサを訪花するシロスジヒゲナガハナバチ♀の羽ばたき【HD動画&ハイスピード動画】
田中肇『昆虫の集まる花ハンドブック』でアカツメクサの項を参照すると、
シロツメクサよりは花の筒状の部分が長いため、ミツバチより大きいハナバチだけが蜜と花粉の両方を利用することができる。(p39より引用)
確かに言われてみれば、ムラサキツメクサの花で採餌するミツバチを一度も見たことがありません。
▼関連記事(4年後の撮影:シロツメクサには正当訪花)
シロツメクサの花で吸蜜するクマバチ♂の羽ばたき【HD動画&ハイスピード動画】
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