2016年2月上旬
農村部で一頭のホンドタヌキ(Nyctereutes viverrinus)が歩いていたので、追跡することにしました。
ビデオカメラを手に忍び寄ってみると、タヌキは針葉樹の根本をうろついています。
地面(雪面)の匂いを嗅ぎまわって食物を探し当てたようで、何かを口にしました。
雪面を歩き始めたタヌキを見ると、全身がずぶ濡れで毛並みがとても悪い個体です。
頻繁に身震いして、ボサボサで油気のない毛皮から水気を飛ばそうとしています。
明らかに病気のタヌキです。
この症状は疥癬にかかって毛が抜け始めたのですかね?(間違っていたらご指摘願います。)
撮影は2月ですから、タヌキの毛が冬毛から夏毛に自然と生え変わる換毛期(5〜7月)ではありません。
たんに老齢で脱毛している可能性もありますかね?
参考資料:「タヌキの脱毛症状(疥癬症)について(2010年7月暫定版)PDFファイル」
雪面に残るタヌキの足跡はフィールドサインの本に書いてある通りで、確かに狐と異なり左右の幅があります。
雪囲いされ冬は使われていないログハウスにタヌキは向かうと、その周囲をぐるっとひと回りしました。
一度は中に侵入しかけたものの、すぐ外に出てきました。
ログハウスを一周したタヌキが反対側の軒下で身震いしました。
私の方を見ても、さほど驚いた素振りはありませんでした。
衰弱しているのか、それとも本来タヌキは視力が弱いのかな?
タヌキは再び雪面を歩き始めました。
大木の根元で露出した地面の匂いを嗅いでから、また身震いしました。
私が急いで先回りして待ち伏せしていると、タヌキが右手から雪原を歩いて来ました。
除雪されて雪の無い舗装路に飛び降りると、道の真ん中の匂いを嗅いで立ち止まりました。
こちらを振り返ってもそれほど驚かず、トコトコと歩き去りました。
仮に目が悪いにしても、イヌ科の嗅覚で私の存在には気づいているはずです。
大胆なのかと思いきや、路上の枯葉が風で動いたのに反応して振り返りました。
やはり衰弱しているのか、あるいはよほど人馴れした個体なのではないかという気がしてきました。
建物の角を曲がるとスギ疎林の方へ向かい姿を消しました。
慌てて追いかけると、沢に近い杉の木の下でタヌキと再会。
地面が露出した林床の匂いを嗅ぎ、身震いしていました。
後で思うと、杉林にタヌキの溜め糞の有無を確認すべきでしたね…。
もしかするとタヌキは縄張りをパトロールしてから杉林に溜め糞(共同便所)をチェックしに来たのかもしれません。
実はタヌキは私の存在に気づいていて目を合わさないように木陰に隠れたり私をまこうとしているのかと思いきや、また戻って来ました。
左脇腹の毛が抜けているように見えますが、毛皮が水で濡れているだけなのか、素人目には分かりにくいです。
やっぱり疥癬症の軽症例なのかなー?
疥癬とは、ヒゼンダニ類のダニが皮ふに寄生しておこる、かゆみを伴った伝染性皮膚疾患である。タヌキから発見されたヒゼンダニは、センコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)であった。(中略)重篤な状態になったタヌキの大部分が、細菌の二次感染や冬季の体温維持不全などにより死亡する。
(現代日本生物誌3『フクロウとタヌキ:里の自然に生きる』p104より)
タヌキは雪原をどんどん歩いて車道の方へ向かっています。
果たしてどこへ行くのでしょうか?
つづく→後編(衝撃の結末を見逃すな!)
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
2015年10月中旬
石灯籠内で営巣するムモンホソアシナガバチの定点観測記録#5
ムモンホソアシナガバチ(Parapolybia indica)のコロニーは解散していました。
結局、この巣はあまり大きくなれませんでした。
創設女王が何らかの原因で早死したのかもしれません。
7日後に再訪し、やはりコロニーが解散していると確信したので、古巣を採集ました。
ナイフで巣柄を切り落とし採集してみると、巣盤の上部が何者かに食い荒らされていました。
野鳥が石灯籠内に侵入して巣盤の上部だけを啄むことは不可能です。
天敵のヒメスズメバチに襲われたのか、それとも寄生蛾の幼虫の食痕かな?
シミ(紙魚)やワラジムシ、ゴキブリ、ナメクジなどの仕業かもしれません。
採集した古巣を密閉容器に入れて保管します。
冬を越しても今のところ寄生蛾の成虫は羽化してきません。
調べたサンプル数が未だ少ないのですけど、同じ地域に生息するPolistes属のアシナガバチに比べてParapolybia属のホソアシナガバチの巣は寄生蛾による攻撃(産卵・食害)を免れている印象があります。
例えば以下の写真は、今年定点観察してきたセグロアシナガバチ?(キアシナガバチ?)の古巣を同じ日に撮った写真です。
ムモンホソアシナガバチの営巣地に近い軒下に巣を作っていたのですが、夏に寄生蛾♀(おそらくマダラトガリホソガの一種Anatrachyntis sp.)に産卵された結果、幼虫に巣材を食い荒らされ育房内は寄生蛾幼虫の糞や糸でひどく汚れています。
育房からアシナガバチ成虫の死骸の脚が覗いて見えるのが不気味ですね。
羽化に失敗したのか、育房に頭を突っ込んで休んでいるまま死んだのでしょう。
巣材の違いによる好き嫌いなのか、在巣のワーカーの対寄生者防衛法に違いがあるのか、そもそもホソアシナガバチ類の生息数が少なく巣を見つけにくいためか、とても不思議です。
シリーズ完。
2016年1月中旬
▼前回の記事
高圧線に就塒前集合するカラスの群れ(冬の野鳥)
高圧線から飛び立ったカラスの大群が鎮守の森へ向かったので、私も雪道を歩いて追いかけました。
神社に到着して暗闇に目を凝らして待っていると、遅れてやって来たカラスの群れが杉林の樹冠に着陸する様子がシルエットで辛うじて見えました。
※ 冒頭の塒入りシーンのみ動画編集時の自動色調補正で映像を無理やり明るく加工しています。
午後17:30には群れの塒入りがほぼ完了したようです。
カラスの塒となったスギの大木の下にこっそり行って樹冠を見上げると、普段あまり聞かない奇妙な鳴き声で騒いでいました。
見えない物の例えで「闇夜にカラス」という表現があるように、真っ暗な映像で音声だけの記録です。
音量を上げると私の防寒具が衣擦れする音が耳障りかもしれません。
次第に鳴き声が収まり、寝静まりました。
赤外線の暗視モードに切り替えればよかったのに、私も寒さで頭が回りませんでした。
真っ暗で静かな鎮守の森の雰囲気だけでも最後に暗視映像でお伝えします。(@3:05〜)
空から雪がチラチラと降っていて、林床には雪が積もっています。
当然ながら塒は赤外線投光機の光も届かない高い枝にあるため、カラスの姿は見えません。
映像の撮影時刻は午後17:23〜17:41。
ちなみに、この日の日の入り時刻は午後16:41、月齢は5.1(三日月)。
午後17:39に測定した気温は4.3℃、湿度47%。
照度計も持参したのですけど、撮影に忙しくて手が回らず、あまり測定できませんでした。
そもそも街なかでは夕方から外灯が点灯するので、照度計の値は場所によって異なり、あまり意味がないかもしれません。
ついさっきまでカラスが就塒前集合していた高圧線や鉄塔に引き返してみると、カラスの大群は一羽も居ませんでした。
後日また見に来た時にはなぜかカラスは居なかったので、近所トラブルになって鎮守の森から追い払われたのか、あるいは一時的な集団塒だったのかもしれません。
就塒直後のカラスの鳴き声を声紋解析してみる?
『ネオン街に眠る鳥たち―夜鳥生態学入門』という隠れた名著(バイブル)で復習してみました。
・カラスは夜間、塒にしている木の下に人が侵入するのを極端に警戒する習性がある。(p79より)
・カラスの塒は一分の例外を除いて、照明もない、人も入らない、真っ暗な環境の中にある。月も出ない闇夜に黒い鳥影をみつけるのは至難の業だ。(p82より)
・集団塒をとるカラス、ムクドリなどでは、冬季に塒が大型化し、一カ所に集中する傾向が強い(p145より)
『Birder 2012年8月号 特集:鳥たちの夜の世界』p36-37 中村純夫「カラスはねぐらで何をしているのか?」より引用。
(夜の塒で)カラスたちは割とおとなしくしており、若い♂のカラスたちも周囲の「目」をはばかってか、♀にちょっかいを出したりはしない。周囲から攻撃されるためなのかどうか、興味深い点である。
【追記】
彼ら(ハシブトガラス)の生活が、ねぐらである森に影響を与えていることが分かってきた。彼らは森林でおびただしい数のフンをする。
(中略)ハシブトガラスは、町中で生ごみを食べて森林でフンをすることで、日本の森が今まで経験したことのなかった栄養、肥料を与えているのだ。
ハシブトガラスの生ごみという肥料の投入によって森は大きく変化しているかもしれないのだ。
(直江将司『わたしの森林研究―鳥のタネまきに注目して』p107より引用)
私にとってこれはなかなか新鮮な考え方でした。
【追記2】
藤岡正博、中村和雄『鳥害の防ぎ方』によると、
夕方、カラスはねぐらに使っている林に戻って来ます。そこで、休んでいる間に、カラスは食べたもののうち消化されなかったものを吐き出します(吐き出された未消化物の固まりをペリットといっています)。(p64〜66より引用)
カラスの集団塒の林床でペリットを拾い集めて内容物を調べてみるのも面白そうです。