2014/11/27

モンスズメバチ♀夜の営巣活動(扇風行動・造巣)



2014年8月中旬

▼前回の記事
モンスズメバチ♀の巣を冷やす扇風行動【HD動画&ハイスピード動画】
モンスズメバチの巣の定点観察6

モンスズメバチ(Vespa crabro flavofasciata)は夜も活動するという話を確かめるために、クヌギの樹洞に営巣したコロニーを一晩中観察してみることにしました。
とかく人間から目の敵にされスズメバチの受難が続く昨今、せっかく見つけた巣がいつ駆除されるか分かりません。
このチャンスを逃さぬよう、巣を見つけたその日に気合を入れて徹夜しました。
ちなみに日の入り時刻は18:36、月の出時刻は20:02、月齢17.2。
モンスズメバチ巣の観察だけだと眠くなるので、ついでに雑木林の樹液酒場も巡回しました。
クリアな映像を撮るには強い照明を当てたいところですが、蜂を刺激しないように白色LEDの懐中電灯に赤色のビニール袋を被せて光を少し和らげました。
それでも今回の映像がどこまで自然な行動なのか、どうしても照明の影響が気になります。
(明らかに蜂は懐中電灯の照明を警戒しているように感じました。)
以前、夜も明るい外灯のせいで巣に帰れなくなったと思われる迷子のモンスズメバチを見たことがあります。

▼関連記事
迷子になった夜のモンスズメバチ♀
これを機会に赤外線で暗視可能なビデオカメラを次回まで購入する決心が付きました。

観察してみると、確かに暗くなっても巣に出入りするワーカーが居ました。
モンスズメバチは月明かりでも平気で飛べるようです。
ほぼ常に数匹の♀が巣口付近の幹をパトロール(徘徊)しています。

真夜中に巣口で昼間と同様の扇風行動を始めたときは驚きました。
このとき巣の外の気温は20℃。
外気温が下がる深夜も扇風行動するのは何故でしょうか?
昼間からずっと曇り空で湿度が高いものの、決して寝苦しい熱帯夜ではありませんでした。
樹洞内の巣は断熱効果が高く、夜も温度が上がりがちなのかもしれません。
巣内の温度を蜂の子(幼虫や蛹)の成長に適した温度に保つために、涼しい外気を取り込んで冷却する必要があるのでしょうか。
樹洞内の温度を測定したいところですが、スズメバチ専用の防護服を着用しないと危なくて近寄れません。
もう一つ大胆な仮説を思いつきました。
扇風行動が始まるとブブブブ♪という重低音が長時間響くのですぐ分かります。
樹洞内で反響しているのでしょう。
モンスズメバチの習性を知らない人が真っ暗な森の中でこの重低音を聞いたらきっと不気味に思うでしょう。

暗い森を飛んで帰巣する外役ワーカーに対して巣の位置を知らせるために門衛が羽音を立てている可能性はどうでしょうか。
録音した扇風行動の羽音をスピーカーから流し(プレイバック実験)、外役ワーカーの帰巣能力を撹乱できるか調べたら面白そうです。
まさかコロニー毎に異なる周波数を発していたりして…と徹夜で高揚した脳の妄想は止まりません。
扇風行動の羽音を声紋解析してみる?

夜に扇風役の蜂が見えないときも樹洞内で羽音が聞こえることがあります。
もしかすると、巣内で抱卵のために発熱しているのかもしれません。
創設女王の抱卵行動では確か、羽ばたくことなく飛翔筋を高速に収縮させて発熱することが知られています。
ファイバースコープ・カメラがあれば樹洞内の様子を観察できるのになー、と無い物ねだりしてみる。

夜中に巣材?を咥えたワーカー♀が樹洞の外に出て来ました。(@2:25)
外被を増築する(被膜の閉鎖)のかと思いきや、なぜか幹を歩いてどこかへ行ってしまいました。
やはり照明の悪影響でしょうか。
ところで巣材はどこから集めてくるのでしょう?
遠くへ出かけなくても、樹洞のあるクヌギの幹で樹皮から巣材を調達しているのですかね?

夜になるとクヌギの幹で樹洞の横を小型のクロアリが活発に登り下りしていました。
幹に沿って縦に細長い蟻道のような構造物も見えて気になるのですが、近寄れないのでアリの種類などは調べていません。
モンスズメバチは巣口からアリの侵入を防ぐ対策を何かしているのかどうか、非常に興味があります。

例えば同じスズメバチ科でもアシナガバチ類は巣柄に黒光りするアリ避け物質を塗ることが知られています。
※ 後で読む参考文献。(無料で全文PDFが読めます)

Martin, S. J. "Colony defence against ants in Vespa." Insectes Sociaux 39.1 (1992): 99-111.

同じ夜に、少し離れた樹液酒場を訪れるモンスズメバチの姿も観察しました。
(どの巣から来たのか不明ですけど。)

▼関連記事
夜にミズナラの樹液を吸うモンスズメバチ♀
他種のスズメバチ類は夜になると樹液酒場で全く見かけなくなりました。
モンスズメバチの複眼や単眼には何か秘密があるのでしょうか?
ネット検索で調べてみると、興味深い文献を見つけました。(ここで全文が読めます。)

Kelber, Almut, et al. "Hornets can fly at night without obvious adaptations of eyes and ocelli." PloS one 6.7 (2011): e21892.
モンスズメバチの複眼や単眼には解剖学的に何も秘密は無かった、という意外な結論のようです。

天気予報が外れ、深夜3:30には小雨が降ってきたので慌てて避難。
少し仮眠してから早朝に様子を見に行くと、樹洞の下に寄生アブが止まっていました。
すぐにモンスズメバチ♀に追い払われ、撮り損ねました。

▼関連記事
寄主モンスズメバチ♀の巣の近くに産卵するムツボシベッコウハナアブ♀

涼しい早朝から扇風行動が見られました。
このときの外気温は22℃。
もうコロニーの活動は昼間と変わりません。
夜の間に樹洞を覆う外被状の被膜が増築され、巣口が更に狭くなっていました。(※追記参照)
モンスズメバチも徹夜で突貫工事を行ったようです。
本種ワーカーの寿命は他種よりも短いのではないか(過労死?)と心配になります。
モンスズメバチのワーカー♀は昼夜を問わず不眠不休で死ぬまで働くのか、それとも交代で休息しながら一日中働くのか、興味があります。
つまり、夜勤と昼勤に分業しているのでしょうか?
個体識別のマーキングを施せば分かる筈です。

つづく→シリーズ#7:寄生者ハネカクシの侵入を阻止



※【追記】
『都市のスズメバチ』p25によると、モンスズメバチは
巣への出入り口付近に立派な目張りをする習性があり、同じような場所に営巣するキイロスズメバチやヒメスズメバチなどと区別できる。

夜の飛翔(出巣)
夜の飛翔(帰巣)
外被状被膜の増築
巣内の様子
全景

深夜の扇風行動(写真では羽ばたきが止まって見える)
翌朝:巣口を塞ぐ被膜が下に伸びた

ミズナラの幹で休むカブトムシ♂



2014年8月中旬

里山の雑木林で定点観察に通っているミズナラの木bは樹液の分泌が涸れてしまったようです。
もう樹液の発酵臭も無くなり、ほとんど虫が来ていません。
ところが幹の根元付近にカブトムシ♂(Trypoxylus dichotomus)が静止していました。
雨上がりの日光に照らされて黒光りしています(焦げ茶色)。
角の発育状態があまり宜しくない個体でした。

木登りしたりせず動きに乏しいのは、カメラを警戒しているのか、それとも昼間は寝ているのかな?
幹から浮かせた右後脚の爪先だけをかすかに動かしています。
口元を接写するとときどき口吻が動いているのですが、樹液を舐めていないと思います。
樹皮をよく見ても樹液は滲んでいません。
触角と口髭がわずかに動いています。

※ マクロレンズで接写したシーン(@1:37〜)のみ動画編集時に自動色調補正を施してあります。



【追記】
小島渉『わたしのカブトムシ研究』p24によると、
カブトムシは、樹液の出ていない木でも自ら口器で傷をつけ、樹液を出すことがある。(中略)日本のカブトムシでもときどき観察される。
しかし映像の個体がそれをやってるとは思えません。




2014/11/26

モンスズメバチ♀の巣を冷やす扇風行動【HD動画&ハイスピード動画】



2014年8月中旬

▼前回の記事
寄主モンスズメバチ♀の巣の近くに産卵するムツボシベッコウハナアブ♀

モンスズメバチの巣の定点観察5

クヌギの樹洞に営巣したモンスズメバチ(Vespa crabro flavofasciata)のコロニーを観察していると、途中からワーカー♀が扇風行動を始めました。
巣口の上半分を塞ぐ被膜にぶら下がったり樹洞の縁に掴まったりしながら激しく羽ばたき、巣内に新鮮な外気を送風して冷却しています。
これまでミツバチやアシナガバチでは同様の扇風行動を観察していたのですけど、スズメバチ類では初めてでした♪
扇風役の顔はいつも必ず外を向いて巣内に送風しています。
これはニホンミツバチの扇風行動と同じ向きでした。
ニホンミツバチの場合はオオスズメバチの襲撃を警戒し、巣内の匂いが外に漏れないように注意しているそうです。
(ちなみにセイヨウミツバチの扇風行動は逆向きで、熱気を巣から排気します。)
モンスズメバチが扇風行動を始めるとブブブブ…♪という重低音の羽音が長時間響くので、離れた所からでもすぐに分かります。

樹洞で羽音が反響するのかもしれません。
巣口が狭いため、扇風役は必ず1匹のようです。
(樹洞の奥に引っ込むと暗くて羽ばたきが見えなくなります。)

扇風行動の動画を撮る度に外気温を測ると、初めは30℃で以降は26℃、25℃まで下がりました。

剥き出しの巣盤を作るアシナガバチではこの程度の気温(暑さ)で扇風行動を始めることは無いので、不思議な気がしました。
森の中なので体感でもそれほど暑いとは思いませんでした。
また気温の下がる夜になってもモンスズメバチの扇風行動は続いたので(映像公開予定)、もしかすると巣内の空冷というよりも、二酸化炭素(CO2)を換気するための行動なのかもしれません。
樹洞内の温度を測定したいところですが、防護服を着用しないと危なくて近寄れません。
ついでにファイバースコープ・カメラがあれば巣盤の様子を観察できるのになー、と無い物ねだりしてみる。

扇風役がぶら下がる被膜の左部分を別個体が増築し始めました(@1:57〜)。

扇風役の蜂が巣造りの邪魔になっているのですけど、横にどかずに居座っています。
巣造りよりも扇風行動を優先するようです。
考えてみれば、樹洞を被膜で完全に密封するのではなく出入りする巣口を残す必要がある訳ですから、これで上手く行くようです。




扇風行動を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。
1/8倍速のスローモーションでも扇風役の羽ばたきは未だ速過ぎて見えません。
しかし帰巣する蜂が近づくと、扇風役の♀は警戒して羽ばたきを一瞬だけ止めることが分かりました。
狭い巣口ですれ違うには扇風の羽ばたきを止める必要があるのでしょうか。
扇風役は門衛としての役目も兼ねていて、出入りする外役♀を誰何(すいか)しているのかもしれません。
帰巣した♀と口移しの栄養交換をすることもありました。
また、扇風を止めて自ら出巣することもありました。
空腹になり栄養補給に出かけたのかな?


この樹洞はモンスズメバチの引越巣なのか?

『スズメバチの科学』p171より用語の解説

巣の引っ越し(nest relocation)
モンスズメバチとキイロスズメバチにおいて越冬後の女王蜂によって狭い空間に巣が創設された場合、巣の発達に応じて広い場所に新たな巣を造り移動すること。最初の巣を母巣(primary nest)、後の巣を移動巣(第二次巣:secondary nest)という。

※ 巻末の用語集が充実しているところが、この名著の素晴らしい点のひとつです。

モンスズメバチの巣を初めて見つけたこの日、どうして蜂がこれほど興奮したように巣の回りを飛び回り忙しなく巣に出入りしているのか、不思議でなりませんでした。
この状態がモンスズメバチでは普通なのかな?
味方同士の空中戦が頻発するほど興奮しているのは外敵に対して極度に警戒しているのでしょうか。
それにしては撮影する私を攻撃する様子は全く見られませんでした。

実はこの樹洞に引っ越してきたばかりの移動巣なのではないかという気がしています。
理由は以下の3点。

  1. 私が観察を始めた当初は扇風行動をしていなかったのに途中から扇風行動を始めた。以降は交代しながら昼夜を問わずほぼ絶え間なく扇風を続けている。
  2. 並行して外被の被膜を増築して巣口を狭くする突貫工事をしている。
  3. 9日前に近くで別の撮影を長時間した時には、クヌギ樹洞にモンスズメバチの巣があることに気づかなかった。(私が見落としていた可能性もありますが…。)

母巣から続々とワーカーが引っ越してきて巣内の個体密度が上がって暑くなり、女王が産卵を始めたので蜂の子のために巣内温度を適切に保つ必要が出てきたのではないでしょうか。
母巣から続々と移って来るワーカーを迎え入れたり、新たに巣の位置を記憶する定位飛行を繰り返したりしていたために、
樹洞の周囲で激しく飛び回りコロニー全体が興奮したように見えたのではないか、という解釈です。
あれこれ好き勝手に想像するのは楽しいですけど、タイムマシンに乗って時間を遡らない限り真相は不明ですね…。
せめて半日早くから観察を始めたかったです。
斥候役が移動巣(第二次巣)の樹洞を選定して母巣からコロニーの仲間を呼び寄せる際にもし集合フェロモンを使うのであれば、樹洞の縁で逆向きに止まって(顔を樹洞内に向け)フェロモン拡散のための扇風を行ったかどうか興味があります。
ミツバチではそのような「匂い扇風」行動も知られています。

▼関連記事
ニホンミツバチの匂い扇風?

更にこの夏はキイロスズメバチの移動巣(二次巣)を観察する僥倖に恵まれたのですけど(こちらは確実に引越巣)、その記録はまた記事を改めて報告します。

つづく→シリーズ#6:夜の営巣活動(扇風行動・造巣)




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