2012/11/18

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#4:麻痺状態の芋虫を調べる



2012年8月中旬

巣坑に貯食する寸前にしつこい寄生ハエに邪魔され、二度も逃げ出したジガバチ♀(水色)は、麻酔した獲物を途中で放置したままどこかへ行ってしまいました。
せっかく個体標識したのに、そのまま蜂は戻って来ません。
獲物も掘りかけの巣坑も放棄して、新天地で一から新しく営巣サイクルをやり直すのが得策でしょう。
一見するとジガバチが寄生ハエに屈したようですが、結局シロオビギンガクヤドリニクバエ♀も産仔に成功しておらず、両成敗となりました。
漁夫の利を得たのがアリです。
地面に見捨てられたご馳走にアリが群がり始めました。

今回、ジガバチ♀と寄生ハエ(シロオビギンガクヤドリニクバエ)との戦いを観察した結果、一度営巣地を見つけられたが最後、蜂に勝ち目はないような印象を受けました。
何か有効な対抗戦略が今後進化してくるのでしょうか?(※追記参照)


新刊の『狩蜂生態図鑑』を読んで驚いたことの一つとして、単独性のカリバチでも交尾後の♂が巣穴に同居する種類の蜂がいるそうです。
♀がせっせと働いている間、一夫一妻の♂が天敵に対するボディーガードに専念するようになるかもしれません。


営巣地の選定も重要で、日当たりの良い裸地ではなく少し薄暗い林縁に営巣するのも天敵対策になるかもしれません。

あるいは暗くなるのを待って獲物を巣穴に搬入すれば、寄生ハエに見つかるリスクは減らせるかもしれません。

例えばキオビクモバチは狩猟後、寄生バエなどの天敵を避けるために日没を待ってから土中に単房巣を掘るらしい。(『狩蜂生態図鑑』p79より)


やがて完全夜行性または好暮性のカリバチが進化してきたら…と妄想すると胸が熱くなります。(†追記2参照)

農作物の害虫として嫌われるヨトウムシ(夜盗虫:ヨトウガの幼虫)が活発に食害するのは夜間らしいので、夜行性ジガバチ(仮称)も獲物に不自由しないでしょう。
新しいニッチとして狙い目かもしれません。
寄生ハエもすぐに寄主を追いかけて夜行性に進化するでしょうけど。


ビニール袋に芋虫を採集して持ち帰りました。
翌日に袋を開けると、飲まず食わずなのに20個も脱糞していました。
随意運動能力は奪われてるとは言え、腸の消化および排泄行動には影響ないことが分かります。

芋虫の麻酔の程度を調べるために、『ファーブル昆虫記』の真似をしてピンセットで突ついてみました。
腹部第4節以降で接触刺激に対して反応性が残っていました。
一方、上半身の胸部第1〜3節および腹部第1〜3節は完全に麻痺していました。
この麻痺は永久的で回復せず、飼育しても植物状態のまま餓死するだけです。
獲物の麻痺の程度が蜂が毒針を刺した部位に対応しているのか自分でも確かめてみたいものです。
(実体顕微鏡に調べれば毒針を刺した跡は検出できるのだろうか?)
ジガバチが狩りを行い獲物を毒針で制圧する瞬間を未だ観察していないのです。


拉致被害者の身元調査

自分でもヤガ科ヨトウムシの一種だと思ったのですが、念のためにいつもお世話になっている「不明幼虫の問い合わせのための画像掲示板」にて問い合わせたところ、atozさんより次のコメントを頂きました。
個人的な印象としてはキリガ亜科やヨトウガ亜科の幼虫っぽいと感じました。

シリーズ完。



※【追記】
小松貴『虫のすみか―生きざまは巣にあらわれる (BERET SCIENCE)』p38-39によると、
ハチの巣は寄生性のニクバエに狙われることがあります。ひとたびマークされてしまうと、巣穴が完成してハチが獲物を隠し場所から運搬し、巣内に運び込む一瞬の隙をついてニクバエにウジを産みつけられてしまいます。一度にニクバエが産みつけられるウジは多数個体に及び、餌はウジにすべて食べ尽くされます。結果として、巣内の幼虫は餌が足りずに餓死するのです。 
 こういう敵に目をつけられた場合、狩りの後に営巣するタイプのほうが、すぐに獲物と巣を捨ててそこでの営巣をあきらめ、別の場所でやり直しやすいのです。



†【追記2】
虫好きにとって古典的バイブルである岩田久二雄『自然観察者の手記2』の第4部に「暗闇ずきの狩蜂」と題した章があり、読んでみると参考になりました。
午後狩った獲物のクモを草上に引き上げて監視しつつ寄生バエの活動が無くなる日没後に巣坑を掘って貯食するキオビベッコウ(現在の和名はキオビクモバチ)の詳細な観察記録や、強敵の寄生バエの攻撃を巧みに避けている好暮性のハナダカバチの一種(北米産)の話が登場します。








キショウブに訪花するトラマルハナバチ♀



2012年6月下旬

キショウブ(黄菖蒲)の群落にマルハナバチが訪花していました。
トラマルハナバチですかね?
大型のワーカーが多数訪花し、盛況です。
後脚の花粉籠に黄色の花粉団子を付けているのは小型のワーカー(@1:57-)だけのような印象を受けました。
分業かと思ったのですけど、よくよく考えると花の奥の蜜腺まで潜り込み易いのはむしろ小型ワーカーの方だと思うのですけど…?
たまたまかな?


【参考】
こちらに「花菖蒲とトラマルハナバチ」と題した優れた解説がありました。
共進化の妙に感嘆します。

【追記】
『日本産マルハナバチ図鑑』p168によると、
(アヤメ類に)潜り込むときに花びら状の雌しべをめくり、背中の花粉が雌しべに触れて受粉する。大型のマルハナバチでなければ受粉できない。





2012/11/17

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#3:再搬入失敗



2012年8月上旬

巣穴の横にある木片の上で寄生ハエ♀が待ち伏せしています。
ジガバチ♀が木片に登ると蝿は逃げて行きました。

茂みに隠しておいた獲物の元に戻った蜂は、大顎で大事そうに咥えます。
麻酔が不完全だったようで、たまに獲物の下半身が激しく蠕動します。@1:53-2:12
それを蜂が不思議そうに見つめていますが、再麻酔手術は行いませんでした。
芋虫の上半身は完全に麻痺しているようです。

ジガバチ♀を個体識別するため、遅まきながら標識することにしました。
蜂を一時捕獲・麻酔せずに隙を見て直接、水色の油性ペンでマーキングしました。(映像なし)
腹背を狙ったつもりが手元が狂い、蜂の翅先および獲物の体表もインクで汚れてしまいました。

隠した獲物を後生大事にガード

個体標識直後(水色)
 しつこい寄生ハエをまいた(ほとぼりが冷めた)と判断したのか、母蜂は再び巣坑を目指して獲物を運び始めました。@2:50
先程埋め戻した巣口まで辿り着くと、獲物を地面に置きました。
横に転がっている松ぼっくりが目印です。
しかしすぐに天敵のアリや寄生ハエが獲物に集って来るため、ジガバチ♀は気の休まる暇がありません。
閉塞石を手早く取り除きます。
前回同様、大きな閉塞石は巣口の横に置き、小さな閉塞石はわざわざ飛んで捨てに行きます。
時間がかかるし、貯食後は埋め戻す作業が残っているのに無駄な行動に思えてしまうのですけど、ジガバチなりに何か理由があるのでしょう。
蜂が作業の手を止めると、2匹の寄生バエが歩いて近寄ってきました。@6:01


再搬入
堪らずジガバチ♀はまたもや獲物を持って逃げ出しました。
何という無間地獄…。
前回の逃走とは方角が違います。
3匹の小さな寄生ハエがピョンピョン飛び跳ねるように早足でその後を追います。
蜂が不在の隙に巣坑に幼虫を産仔しておけば良いのにと思うのですが、寄生ハエの方も確実を期して産みつけるタイミングはジガバチが巣に獲物を搬入した後とプログラムされているようです。(※ 下記の参考動画は必見!)

必死に逃避行する蜂が獲物を地面に置いて再麻酔手術を行いました!@6:52
獲物の背側から跨り、腹部を強く曲げて芋虫の腹面を走る中枢神経系をめがけて毒針を突き刺しました。
その様子を近くで寄生ハエが見守っています。

ここで残念ながらカメラのバッテリーが切れてしまいました。(痛恨のミス…)
ほとぼりが冷めるまで待ったのに、寄生ハエに待ち伏せされて、ジガバチ♀の持久作戦も水の泡でした。

ジガバチvs寄生ハエの知恵比べ、根比べに震撼しました。
息詰まる死闘です。

同定してもらうために、寄生ハエ♀1匹を採集しました。
素人目にはドロバチヤドリニクバエとは別種のような気がします。

いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂」掲示板にて問い合わせたところ、茨城@市毛さんより次の回答を頂きました。

恐らく,ドロバチヤドリニクバエと同じニクバエ科のヤドリニクバエ亜科の1種だと思います.Fauna of Indiaを見ると,この仲間は交尾器の他に腹部斑紋にも種の特徴が出るようなので,専門家が見ると種まで解るのではないかと思います.
また,額が広いのも特徴的に見え,Kurahashi(1970)に図示されたSphenometopa matsumurai シロオビギンガクヤドリニクバエの♀の頭部と酷似しているように見えます.

さんごさんからも以下のようにご教示頂きました。
私もSphenometopa matsumurai に1票入れたいと思います.
本種の♀は見たことがないのですが,♂はこれとよく似た腹部の斑紋をしています.ただし♂は腹部の白の部分がもっと純白な感じですが.
ぜひ交尾ペアを採集していただいて,♂の画像を再び投稿してください.たしか本種のホストは未知ではなかったでしょうか(知らないのは私だけ?).もし本種と特定できれば大変貴重な記録ではないかと思います.
♀が歩いてハチを追尾するのですね.何かかわいい感じですね.アナバチヤドリニクバエやシリグロヤドリニクバエの場合は飛行して追尾します.とても面白いものを見させていただきました.どうもありがとうございます.

写真の個体は,頭部が茨城@市毛さんのご指摘のとおり,Kurahashiのレビジョンのシロオビギンガクの♀にドンピシャで,私の持っている同種の♂にも斑紋が酷似していますが,市毛さんがご指摘のように,♀から種の判定まで持ち込むのは専門家でないと厳しいです.

日本には同属は1種のみとされていますが,ときどき本邦から記録がなかった種がみつかったりしますので,現時点でシロオビギンガクとは言い切れないです.産仔の場面に遭遇しても,その時点で種がなかなか確定できないのが,このグループの生態を研究する上でブレーキになっています.
「おそらく」シロオビギンガク♀だろう,という程度と認識していただけたらと思います.
ぜひ♂をゲットしていただいて,その映像(交尾器を含め)をご投稿くださることを願っています.



つづく。

胸背


側面

側面

右翅

左翅

腹背

単眼

顔(左右の複眼は離れている)

腹面



【参考動画】by UraniwaKansatsukiさん


サトジガバチがイモムシを巣穴に運びこむ隙に寄生バエが産仔する瞬間が見事に記録されています。



【追記】
『日本動物大百科9昆虫II』p150によると、
ヤドリニクバエ類の♀は、巣づくり中のジガバチやハナバチ類のあとをつけ、巣の入り口に空中から1齢幼虫をばらまいて侵入させる。



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