2012/08/01

地中の初期巣に出入りする(シダ)クロスズメバチ♀



2012年6月上旬


里山の静かな池の畔で地面から出入りする蜂を発見。
地中に営巣するクロスズメバチの仲間のようです。
巣穴の位置はスギの大木の下で、多少の雨は上の枝葉で凌げます。
地面はスギの枯葉に覆われています。
すぐ近くにはスギの倒木もあり、樹皮から巣材を調達できそうです。
(実際には他所で巣材を集めていたもよう。)
人の目からは巣口の位置が非常に分かりにくいので、横に生えたナルコユリの茎に目印として白テープを巻きました。



カメラを三脚に固定し、巣穴に出入りする蜂を監視撮影してみました。
出巣した蜂は毎回同じ方角へ飛び(池を横断)、数分後に同じ方角から帰巣していました。
蝿のようなブーンという羽音で毎回接近に気づきます。
小さな蜂が帰巣時に巣材や肉団子を運んでいたかどうか、このアングルではよく見えませんでした。
個体識別できていませんが、一匹またはごく少数の♀が出入りしているようです。
おそらく創設女王の単独営巣期だろうという印象を持ちました。
帰巣時に撮れた写真から、クロスズメバチまたはシダクロスズメバチと絞り込むことが出来ました。
ツヤクロスズメバチは除外できます。


クロスズメバチの仲間(Vespula属)はどれも外見が似ており、採集して頭楯の模様を精査しないと正確な同定は困難です。
出入りする蜂(創設女王?)を一時捕獲して炭酸ガス麻酔下で接写することも可能です。

しかし、ストレスに感じて女王が営巣を打ち切ってしまう事態を恐れて我慢しました。

地中に営巣するクロスズメバチの巣を見つけたのはこれが初めてでした。

てっきり、もっと日当たりのよい場所に営巣すると思っていたので意外です。
モグラやネズミの古い坑道を利用するらしい。(『狩蜂生態図鑑』p96より)
意気揚々と定点観察に通ったものの、日を追うごとに蜂の活動が弱まり、残念ながらコロニーとして定着しませんでした。
誰かに初期巣を駆除されてしまったのか、創設女王に何か不慮の事故が遭ったのか、天敵に巣を荒らされたのか、より良い営巣地に引っ越したのか、色々考えられますけど原因は不明です。
あるいは私が巣の近くで歩き回る振動を嫌ったのだろうか?

ワーカーが多数羽化してきたら一時捕獲して同定するとともに個体識別のマーキングを施そうとか、シーズン終了後は巣を発掘しようとか、色々計画していたのに残念!




2012/07/31

ヤマトシリアゲ♂同士の喧嘩(獲物の争奪戦)




2012年6月上旬

一匹のヤマトシリアゲ♂(Panorpa japonica
)がクロモジの葉裏で何やら獲物を捕食中。
もう一匹が葉表に着陸すると、獲物の争奪戦が始まりました。
2匹の♂が互いに羽を動かしているのは威嚇のディスプレーでしょうか。
獲物を放置して葉表で激しい喧嘩を始めました。
シリアゲムシ(英名:scorpionfly)の♂に特有のカールした尾部が互いに絡み合っています。
サソリの毒針のように刺す武器としての機能があるのでしょうか?
単に格闘でもつれて絡まっているだけ?
虫の喧嘩は一般に口器を使うことが多いですけど、噛みついているようには見えません。
ようやく勝負がついたようで、二匹が別れ一匹が葉表に退散しました。
勝者が追い立てると、敗者は遂に飛び去りました。
敗者も特に致命傷を負ったようには見えません。
激しい肉弾戦で誰が誰だか分からなくなりました。
獲物の前所有者が防衛出来たのか、獲物強奪の成否は、不明です。


落ち着いてから獲物を接写してみると、ガガンボの死骸のようでした。
これは元々クモの巣にかかった獲物の食べかすかもしれません。
「シリアゲムシはクモの網に引っかかった虫を横取りする」ことが知られています(wikipediaより)。
喧嘩中に、獲物は見えない糸で葉裏からぶら下がっていました。
実は、両雄の格闘中にクロモジの葉から1匹のクモが懸垂下降で脱出したのを目撃しています。
勝ち残った♂は興奮が収まらないのか、しばらく羽を上下しつつ獲物の元に戻りました。
しかし獲物に口は付けているようには見えません。
♀への求愛餌として価値のある獲物をライバル♂からガードしているのでしょうか?
もう少し待てば♂が捕食したかな?

この日は雨もパラつき、成り行きをじっくり見届ける余裕がありませんでした。


獲物を巡って争う2匹のヤマトシリアゲ♂

ヤマトシリアゲ♂側面@ガガンボ死骸

ヤマトシリアゲ♂@ガガンボ死骸

【追記1】

シリアゲムシの口器は細長い頭部の先端にある。
咀嚼型だが、かなりの退化傾向を示すらしい。
第9腹節が変形した交尾器には大きな把握器がある。(毒針や武器として使うという記述は無し)
『昆虫の誕生』p168-170より

【追記2】
「日本産シリアゲムシ図鑑」という素晴らしいサイトを見つけました。
ヤマトシリアゲの項を参照すると、

他の種に比べ雄同士の争いが激しく、その際、ハサミ(パラメア=雄のハサミにある二又状の器官)を使って相手を追い払う行動が見られる。


交尾鉤 paramere
昆虫の腹部の第九体節の対になった構造.


【追記3】
『スパイダー・ウォーズ』p164-165によれば、
クモの網に盗みに入るシリアゲムシは♂ばかりで、♀は決して侵入しません。餌を奪われまいと、クモはシリアゲムシを追い出そうとしますが、シリアゲムシは餌をくわえてさっさと逃げます。餌が網からなかなか外せない場合には、サソリのように尻尾を高くあげて、クモを威嚇します。 クモが本気で捕らえにくると、シリアゲムシは「タバコ・ジュース」と呼ばれる黒っぽく苦い液体を口から吐き出し、クモをたじろがせます。この「ジュース」にはクモの糸を溶かす成分が入っており、シリアゲムシは網の粘着糸やクモが投げかける「トリモチ」から逃れることができます。

参考図書:『クモのはなしII:糸と織りなす不思議な世界への旅』 第16章:クモの餌を横どりする虫たち



2012/07/30

ムツモンオトシブミの揺籃が出来るまで【微速度撮影】



ムツモンオトシブミの揺籃と飼育1


2012年6月上旬

ムツモンオトシブミ♀(Apoderus (Leptapoderus) praecellens)がクロバナヒキオコシの葉で挟裁型の揺籃を作る様子を微速度撮影してみました。
5秒間隔のインターバル撮影を行い、早回しの映像を作成しました。
同一個体の♀で作業の一部始終を見届けることは叶いませんでしたが、延べ2日間かけて撮った断片的な映像素材を再構成して、なんとか一つのストーリーに完結しました。
主演女優は計2匹のダブルキャスト。
天候が急変したり、ムツモンオトシブミ♀がなぜか揺籃作りを中絶したりと、大変でした。(苦労話の詳細は割愛。)
撮影は野外ではなく完全に飼育下で行った方が楽なのかもしれません。

観察の結果、ムツモンオトシブミの挟裁型揺籃は以下の工程で作られるようです。
  1. ♀が葉表を徘徊し始める。揺籃に適した葉かどうか確認(※)。
  2. ♀が葉柄を左右両側から噛み始める。葉表に乗り頭は茎に向ける。みるみる葉が垂れていく。最後は葉の重みで(+♀の体重で)一気に折れ曲がる。
  3. 葉の主脈に向かって両側から内側に折り畳む。
  4. 萎れた葉の先から巻き上げる。
  5. 途中で産卵。(未確認)
  6. 最後の一巻きは全体がほどけないように折り返す。
  7. 葉柄を噛み切って完成した揺籃を落とす。(落とし文を葉に残す場合もある)

※ 『オトシブミ観察事典』p10によると、同じく挟裁型の揺籃を作るヒゲナガオトシブミでは葉を切り始める前に点検して歩く道筋(軌跡)が決まっているそうです。測量して歩き、葉を切る位置などを決めているらしい。


♀が揺籃を作っている間に♂が飛来して交尾したりライバル♂から♀をガードしたりというような行動は見られませんでした。


折り紙職人の仕事ぶりを実際に観察してみると、各工程がいちいち理に叶っていて無駄が無く、本当に感動します。
「一寸の虫にも五分の魂」と言いますが、ムツモンオトシブミ♀の体長はわずか8mmほどで、一寸にも足りません。
これほど精緻な一連の本能行動が昆虫の微小脳で一体どのようにプログラムされているのか、解明できれば素晴らしいですね。

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近年ロボット工学の発達が目覚ましいですけど、これだけ小さい完全自律型の落とし文作製ロボットを実現するにはあと何年かかるでしょうか?
揺籃作りの行動がどのように進化してきたのか、という問題も興味深いです。
太古の昔の落とし文が奇跡的に丸ごと琥珀に閉じ込められて化石として残っていたりしないのかしらん?


完成した揺籃を下の草叢から探し出して採集しました。
風で落ちたのではなく、♀自ら葉柄を噛み切っていました。
周囲のクロバナヒキオコシ群落を探すと、同じ形状の揺籃で葉から切り落とされずに残された落とし文も見つかりました。
計3個採集し、持ち帰って飼育開始。

つづく

【追記】
8月下旬、この植物群落で咲いた花を確認すると、その正体はオドリコソウではなく、同じシソ科でもクロバナヒキオコシと判明しましたので訂正します。


【追記2】
Eテレでカルト的な人気を誇る番組『植物に学ぶ生存戦略』の第9回で興味深い話が取り上げられていました。
揺籃を作るムツモンオトシブミと寄主植物との間で熾烈な進化競争が繰り広げられていることを知りました。

(詳しいPDF版はこちら
Higuchi, Yumiko, and Atsushi Kawakita. "Leaf shape deters plant processing by an herbivorous weevil." Nature Plants 5.9 (2019): 959-964.  (原著論文)
ハクサンカメバヒキオコシという植物はクロバナヒキオコシと同じくシソ科ヤマハッカ属で、本来ムツモンオトシブミ幼虫の食草となり得るのですが、葉の切れ込みを深くしています。
その結果、ムツモンオトシブミ♀は揺籃を作る前に葉を調べる行動で混乱し、揺籃作りに適してないと忌避するのだそうです。

凄いエキサイティングで面白い研究なのですが、私のフィールドでは残念ながらハクサンカメバヒキオコシは自生していないので、自分では追試できません。
それよりも切れ込みの深くないカメバヒキオコシが自生しています。
とりあえずムツモンオトシブミがカメバヒキオコシの葉で揺籃を作るかどうか、観察してみたくなりました。
カメバヒキオコシの葉の先端部に「亀の尻尾」状の突起?があるのも、何か意味がありそうです。

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第8章 葉の形による被食回避:葉を巻く甲虫オトシブミが利用しにくい葉の形








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