2011年10月中旬・気温15℃
クズとススキが生い茂る堤防の草むらで夕方になるとコガネグモダマシがあちこちで店開きします。
縦糸を張っているクモを一匹見つけたものの、三脚を準備している間にどんどん次の作業に移ってしまいました。
(次回はチャンスを逃さぬよう、取りあえず手持ちカメラで撮ろうと思います。)
放射状の縦糸の次は、網の中央から外側へ足場糸を螺旋状に張ります。
横糸に比べて一時的な足場糸は粗いのですぐ張り終えてしまいます。
次に外側から中心に向かって螺旋状に粘着性の横糸を張り始めました。
このとき足場糸を切りながら作業を進めます。
クモはこちらに背面を向けています。
網の外側部分では螺旋運動の向きを何度か変えていました。
後半になると一定の向きで回ります。
曇り空で夕方のせいか(薄暗い)、自然光では細い糸があまりよくカメラに写りません。
網と糸を可視化するためにもし霧吹きしたらクモは造網作業を中断してしまうだろうか?と思いつつも動画で長撮り。
早回し映像の部分は15倍速です。
クモは途中まで横糸を張り終えると甑に戻って網を引き締め、下向きに占座しました。
このとき一匹の虫を網から取り逃がしています(追い払った?)。
これで完成なのかと思いきや、少し休むと再び横糸を張り始めました。
最後の仕上げが残っていたらしい。
螺旋運動の向きは変わらず(背面を向け反時計回り)。
今度こそ横糸を張り終えました。
クモは完成した円網全体を歩脚で引き締め、ようやく落ち着きました(下向きに占座)。
甑の処理は網の裏側(クモの腹面)から観察しないと分かりませんね。
完成した垂直円網の甑の高さは地上約110cm、枠糸は周囲のススキに固定されています。
撮影後にクモを一時捕獲してみると、体長8mmの♀成体でした。
2年前の観察よりは少し進歩したものの、なんとか造網過程の一部始終を動画に記録したいものです。
2011年10月下旬
里山でつづら折りの山道を登っていたら、スズメバチにそっくりなアブが羽音を立てて飛来しました。
なぜか私のウェストポーチに興味を示し、二回もまとわり付いて来ました。
一瞬スズメバチかと焦って身を固くしましたが、すぐに擬態(虎の威を借る狐)と気づきました。
アブは近くのクズの葉に止まり、身繕いを始めました。
胸部背面後半にハの字型の黄色紋があり、スズキナガハナアブ(Spilomyia suzukii)と判明。
左右の複眼が接していないことから♀と思われます。
ベーツ型擬態の見事な一例ですね。
スズキナガハナアブ♀は化粧が済むと飛び去りました。
スズメバチのように刺す真似をするか(行動擬態)確認したかったのに、生憎この日は捕虫網を持参しておらず、指を咥えて見送りました。
クワコの飼育記録#4
2011年10月下旬・室温22℃
二頭のクワコ(Bombyx mandarina)終齢幼虫から飼育を始め、繭を紡いでから53日後にようやく一頭の成虫(先に営繭した個体a)が室内で羽化しました。
羽化の過程を撮影したかったのに見逃してしまい残念。
それまで繭の中で蛹がひとりでにガサガサ動く音がときどき聞こえていたものの、羽化の前兆などは気づきませんでした。
実験室の自然日長条件で(クワゴの:しぐま註)羽化時刻を調べると、♂と♀でまったく異なる。♂は午前8時〜10時を中心に羽化し、♀は午後2時〜5時を中心に羽化した。筆者は、今までこのように♂と♀で羽化時刻の異なる昆虫を知らない。ちなみにカイコは雌雄同時に羽化する。 (桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』p57より引用)
繭の上側の絹糸をコクナーゼという酵素で溶かしてから穴を押し広げて脱出したようです。
『繭ハンドブック』p29によると、クワコの羽化前の繭上部には予め出口は開いていないらしい。
午前中に気づいたときは既に翅が伸び切っており(前翅長〜20mm)、繭の下にぶら下がって静止していました。
直下に垂れた赤い液体は、翅伸展後に排泄した蛹便でしょう。
櫛状触角の形状に性差があるらしいのですが、私にはよく分かりません。
(♂の触角は♀より櫛歯が長いらしい。)
幼虫期はあれほど大食漢だったのに、クワコ成虫の口器は退化しています。
やがて繭に掴まって静止したまま、腹端から何やら黄色い内臓器官を出し入れし始めました。
ヘアーペンシルの形状ではありませんが、フェロモン放出のコーリングを連想しました。
クワコはカイコの原種(交雑可能)※ですから、よく調べられているカイコの配偶行動を参照してみることに。
科学のアルバム『カイコ:まゆからまゆまで』を紐解くとp14に解説が載っていました。
「♂の蛾を激しく引き寄せた、特別の匂いは、♀の腹の中にある、誘引腺という黄色い袋から出されます。♀は羽化するとすぐに、この誘引腺を腹の先から出して、特別の匂いを辺りにまき散らします。♂はこの匂いを辿って♀を見つけるのです。」
これでようやく私にも♀だと分かりました。
クワコの雌性フェロモン(カイコと同じボンビコール:bombykol)を嗅いでも私の鼻には無臭でした。
空中に拡散する微量なフェロモンを検知するために♂の触角は♀よりも発達しているのです。
しかし『ファーブル昆虫記』の有名なエピソード「オオクジャクヤママユの夜」のように、室内に囚われた♀の元に窓の外から♂のクワコが殺到するということはありませんでした。
そのまま♀を飼い続けると後日、産卵シーンも観察できました。
(つづく→シリーズ#5)
※【追記】
鈴木知之『さなぎ(見ながら学習・調べてなっとく)』によると、
カイコは中国のクワコを品種改良したものらしく、日本のクワコとは染色体の数やDNA配列が異なるようです。 (p83より引用)
【追記2】
桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』によると、
(カイコの)未交尾の♀(処女♀)を♂と交尾できないように隔離しておくと、♀は腹部末端を斜め上後方に突き出し、先端の産卵管壁に一対ある黄色球状の側胞腺(フェロモンを分泌・発散する部分。フェロモン腺)を突出させる。この時、側胞腺は数秒毎の周期的な膨張と収縮をくり返す。この行動はコーリング行動(求愛行動)とよばれ、フェロモンの分泌発散行動である。(p23〜24より引用)
クワゴの♀はカイコと同じように、昼間に腹部末端にある側胞腺を膨らませてコーリング(求愛行動)し、性フェロモンを分泌する。 (p47より引用)
クワゴは野外の自然状態では、おそらく前日の午後羽化した成熟♀に、翌日午前に羽化した♂が求婚するのではないか (p57より引用)
コーリング中の♀を嗅いでも微量のためフェロモンの香りはまったくない。化学合成したフェロモンは、高濃度の時だけ人間に、弱い油臭さとして感じられる。当然であるが人間には何の作用もない。 (p239より引用)