2020/05/05

キボシカミキリ♂同士の喧嘩(強奪した♀と交尾)



2019年10月下旬・午後16:30頃(日の入り時刻は午後16:41)

▼前回の記事
キボシカミキリ♂同士の喧嘩(配偶者防衛に成功)

寄主植物ヤマグワの幹のあちこちでキボシカミキリPsacothea hilaris hilaris)の配偶者防衛(交尾後ガード)が繰り広げられています。
この記事では、♂が防衛戦に破れライバル♂が♀を強奪した1例を紹介します。

桑の幹に下向きになり産卵加工および交尾後ガードしている♀♂gペアの背後から独身のあぶれ♂hが迫って来ました。
配偶者♀を守る♂gは振り返らず、♀の背に覆いかぶさるようにマウントしたまま対抗します。
長い触角を振り立ててライバル♂hを払いのけようとしました。
今回のあぶれ♂hはすぐに♀♂gペアの間に割り込むのではなく、珍しい戦法を繰り出しました。



なんと、あぶれ♂hが交尾♂gの左触角の根元に背後から噛み付いたのです。(@0:20)
鋭い大顎で対戦相手♂gの触角を力任せに噛み切るのではなく、咥えた触角を上に引っ張り上げようとしているようです。
♀から♂gを引き剥がそうという作戦なのでしょう。
触角を咬まれた♂gは急に戦意喪失し、なんとか振りほどくと逃げ出しました。
勢いに乗った♂hは長い触角を使って♂gを♀から押しのけます。
このとき対戦相手♂gを一瞬見失った♂hが、顔を♀の下から潜り込ませて♀の腹端をグイグイ押し上げたのが興味深く思いました。
闘争中の興奮状態とは言え、キボシカミキリの視力は良くないことが改めて分かりました。

一旦離れて体勢を整え直した♂gが振り返って♂と正面から対峙しました。
触角の根元を使ったスタンダードな押し相撲になっても、♂hが勝ち切りました。
負けを悟った♂gが配偶者♀を残して敗走すると、勝者♂hはしつこい追撃をしませんでした。
交尾後ガードする♂が喧嘩に負けて♀を奪われるシーンを初めて目撃した私は、とても興奮しました。
キボシカミキリ♂同士の喧嘩では体長の大きな個体が勝つらしいのですが、今回対戦した♂2匹の体格が本当に敗者♂g<勝者♂hかどうか定かではありません。
マクロレンズで接写したことで大迫力の格闘シーンが撮れたものの、逆に♂の全身の長さ(体長)がよく分からなくなってしまいました。
独身♂gの作戦勝ちという可能性もありそうです。
背後から襲いかかる戦法を卑怯と非難しても仕方がありません。
もし少しでも勝率の高い必勝法だとすれば、いずれこの戦法が広まるでしょう。
相手触角への噛みつき攻撃を見たのはこれが初めてです。
触角が途中で欠損したカミキリムシをたまに見つけるのは、こうした激しい♀争奪戦の結果でしょうか?
♂の触角は♀を探索したり♂同士で戦ったりするのに必須ですから、片方でも失っては大変です。

カミキリムシの触角は、匂い、接触化学感覚、圧力、接触感覚などを受容する多種感覚情報受容器官なのである。 (『カミキリムシの生態』第5章p162より引用)
あるいは喧嘩中に相手の触角を噛み切ることはしないという紳士協定(武士の情け)があるのかもしれません。

♂同士が争っている間も♀はひたすら樹皮齧って産卵加工を続けていました。
♀としてはどちらが勝とうがお構いなしで喧嘩に勝った強い♂と交尾して精子を受け取ればそれで良いのかと思ったのですが、『カミキリムシの生態』という専門書を読むとそんな単純な話ではありませんでした。

 昆虫の♀は体が小さい♂を好まないことが多い。カミキリムシにおいても同様である。キボシカミキリの♀は、♂をマウント時に蹴飛ばす、逃走するなど交尾拒否行動を示すことがある。 (深谷緑『キボシカミキリの配偶行動と生態情報利用、体サイズ』p171より引用)
今回の観察で私はキボシカミキリ♀が交尾拒否する例を見ていません。


・一般的に♀をめぐる♂同士の闘争においては体サイズが大きい方が有利なことが多いとされている。(中略)キボシカミキリでは、特にサイズが近い雌雄同士で交尾が成立しやすいということもなかった。(p172より)
大きな♂よりもむしろ小さな♂の方が積極的に♀にアプローチする(中略)一方大きな♂は鈍く、♀に反応しないことが多い。 (p172より)
・小さな♂はそのフェロモン感受性を高め敏感にすることで、♀に対して活発に接近、交尾試行を行うと考えられた。交尾の機会を増やすことで、繁殖上の不利を挽回することにある程度成功していると予想された。 (p173より)


勝ったあぶれ♂hが♀と体軸の向きを揃えてマウントすると、直ちに交尾開始。(@0:55)
♂hは♀の背中を口髭で舐めています。
リッキングが効いたのか、♀は従順に新しい♂を受け入れました。
焦げ茶色で先が尖っている♂腹端が割れると、体内からおそろしく長い黄色の交尾器が伸びてきました。
その先端は♀の腹端にある産卵管?(褐色の円筒状)に挿入しています。
交尾中も♀はひたすら樹皮齧って産卵加工を続けていました。
♀の前傾姿勢は交尾を受け入れやすくするためかもしれません。

♂hが交尾器を引き抜くと、細長くねじれた黄色いペニスはくるくると縮んで腹端に格納されました。(@2:16)
♂交尾器は最大限伸ばすと、ほぼ♂腹部と同じ長さになり驚きました。
一方で♀の方は交尾後もしばらくは腹端から産卵管?が伸びたままでしたが、最終的には体内に格納されていました。

新しく誕生した♀♂hカップルの交尾は意外にも短時間で終わりました。
これは本当の交尾ではなく、前の♂gが残した精子を♀の体内から掻き出す「精子置換」行動だと思われます。
キボシカミキリ♂は短時間の精子置換を何度も繰り返してから、長時間の交尾で自分の精子を♀に送り込む(射精)のだそうです。
しかし予備知識がなかった当時の私は、激戦の余韻を味わいながらも満足してしまい、この♀♂hペアから目を離してしまいました。

つづく→交尾後ガード中のキボシカミキリ♂は浮気できない


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