2016/01/18

網にかかったトンボには目もくれず花を食べるイシサワオニグモ♀(蜘蛛)



2015年10月上旬

花を食べるイシサワオニグモ♀(蜘蛛)の謎#3:


このイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)がゲテモノ食いに走ったのは、ひどく飢えているからでしょうか?
空腹状態を調べるために、何か普通の獲物(昆虫)を網に給餌してみましょう。

2年前の観察によれば、イシサワオニグモ♀は食事中にもし網に新たな獲物がかかれば食べかけを置いて新しい獲物を確保しに行くはずです。
梱包ラッピングして網に吊るしてから食べかけの獲物に戻りました。

▼関連記事
網にかかったオツネントンボ♂を捕帯でラッピングするイシサワオニグモ♀(蜘蛛)

この時期はめっきり虫の数が減り探すのに苦労したのですが、なんとか近くでアキアカネ♀(Sympetrum frequens)を生け捕りにしました。



ところが私の予想に反して、給餌したトンボが円網上で暴れても隠れ家のクモは完全に無視していました。(午後15:18)
甑から隠れ家に伸びる信号糸が切れている訳ではありませんし、クモは網の振動を感知しているはずです。

活きの良い虫よりもアメリカセンダングサの花に夢中!という驚くべき結論になりました。

※ 映像では網に付けたトンボが擬死したようにおとなしく、クモが気づかないのは当然と思うかもしれません。
撮影を止めてから(両手を使って)念の為に網上のトンボをつついたりして刺激してもクモは無反応でした。

イシサワオニグモ♀が虫と花のどちらを欲しているのか嗜好性を調べるのであれば、その2つを網に同時に付けてやりクモに選ばせるべきでしょうか?

次は音叉で網に振動刺激を与えてみました。(午後15:25)
残念ながら動画ファイルが破損してしまいお見せできませんが、実験をしつこく繰り返してもクモは騙されず無反応でした。
音叉をかなり強く叩いて鳴らしてから網に触れたのにクモは隠れ家から網に降りて来ず、相変わらずアメリカセンダングサの花を手放しませんでした。

以上の結果から、この悪食の個体は飢えているせいで止むなく花を食べたのではなく、花の味がよほど気に入って病みつきになったのでしょう。
造網性のオニグモの仲間が自然状態で花を常食しているとは考え難いのですが、それでも花を与えれば副食として食べることがあるというのは衝撃的で興味深い知見です。

※ 素人臭い実験でネガティブな結果が出た時(クモが無反応)にいつも解釈に悩むのですけど、私が続けざまに変な物を網に付けるのでクモがいじけてしまったり、学習して「狼少年にはもう騙されないぞ!」と不信感を強めてしまった可能性もありますかね?
もっと時間間隔を開けて実験すべきなのか、こうした実験の正式な作法を知りたいところです。


いつになったらクモが花を捨てるのか、花がどこまで体外消化されるのか、見届けたかったのですけど帰る時間が迫り、泣く泣く観察を打ち切りました。
最後に見た午後15:30にもイシサワオニグモ♀は花を食べ続けていました。
夜まで待てば円網の張り替えを観察できたかもしれません。

網に残されたトンボ1匹とアメリカセンダングサの花2個をクモは結局食べたのか、捨てたのか、どちらでしょうね?

花を食べるクモというのは非常に興味深く、更に追求する価値がありそうです。
私も未だ半信半疑なので、とりあえず追試が必要です。
同一個体のイシサワオニグモ♀に後日もう一度アメリカセンダングサの花を給餌すると、今度はすぐに捨てるでしょうか?
もし再び捕食すれば、本当に花の味が気に入ったと言えるでしょう。
花の種類を変えてみたらどうなるでしょうか?
また、イシサワオニグモ以外の造網性クモは花を食べるのか?などの対照実験もしてみたいですね。

これ以来、クモの網を見つける度に花を投げつける日々が始まりました。

つづく→#4:隠れ家でアメリカセンダングサの花を噛むイシサワオニグモ♀(蜘蛛)


側溝に出入りするネコ



2015年10月上旬

道端で寝そべっていたネコFelis silvestris catus)がようやく立ち上がり、悠然と歩き去りました。
私も慌てて追いかけると、ネコが道端でこちらを振り返っていました。
警戒しているようで、水涸れした側溝に降りて身を隠しました。
側溝の中を少し歩いてまた振り向きました。
そのまま暗渠(トンネル)に潜り込むかと思いきや、外に出てきて物置小屋の角を曲がり草むらに姿を消しました。

猫は一挙手一投足が見ていて面白いです。

野良ネコをひたすら追跡して観察するのも楽しそうですが、すぐに撒かれてしまうのが難点です。

三部作完。



2016/01/17

隠れ家でアメリカセンダングサの花を食べ続けるイシサワオニグモ♀




花を食べるイシサワオニグモ♀(蜘蛛)の謎#2:微速度撮影


2015年10月上旬・午後14:32〜15:02

動画の冒頭でまず、花を採取したアメリカセンダングサの群落を写しました。

キイチゴ?の葉を数枚糸で綴って作った隠れ家に花を持ち帰ったイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)が歩脚を舐めて身繕いしています。
化粧が済むと、アメリカセンダングサの花を引き寄せて吸汁を始めました。(@1:15〜)
ラッピングした花をくるくると回しながら調べ、噛む場所を変えているようです。
昆虫の獲物を捕食するときの振る舞いとなんら変わりません。
花に噛み付いたらすぐに「これは獲物ではない!」と過ちに気づき、吐き出して捨てるだろうと予想しました。
ところが花を落とす瞬間を記録するつもりで長撮り※しても、クモは一向に花を手放しません。
※ 映像の後半(@4:59〜
)は10倍速で微速度撮影しました。

おそらく生まれて初めて口にしたであろう花の味がよほど気に入ったのでしょうか?
アメリカセンダングサの頭花を抱え込んだクモは主に緑色の総苞を噛んでいます。
牙の開閉を映像で確認できました。

クモはいつまで経っても花を手放さず、噛んで吸汁しているようです。
このゲテモノ食いの♀個体が寿命間近だとしたら、老化のせいで一種の味覚異常(異食症)になったのでしょうか?
果たしてクモは植物を体外消化できるのでしょうか?

虫などの獲物は強力な消化酵素で溶かされて黒いタール状になります。
▼関連記事(2013年撮影)イシサワオニグモ♀(蜘蛛)の体外消化
クモの消化酵素で植物のセルロースを分解できるのか、気になります。
花そのものを体外消化しているのではなく、花蜜を舐めたり花粉を食べているのかもしれません。(下記の参考資料PDFを参照)

アメリカセンダングサを訪花する昆虫を色々と見てきましたけど、花蜜や花粉が特に豊富で虫に絶大な人気を誇る植物という印象はありませんし、花外蜜腺も無いです。

この個体がよほど飢えていたとすれば、花を網に投げつけたときに隠れ家からすぐ飛び出して来そうなものです。(警戒していたのかな?)
花を食べている(ように見える)のも獲物が網にかかるまで手持ち無沙汰を紛らわせる暇潰しで、おしゃぶりのような物(食餌の代替物)ですかね?
別の可能性として、クモは自分の失敗に気づいているものの、花をラッピングした捕帯の糸だけでも食べて貴重なタンパク質を回収しているのかもしれません。

このイシサワオニグモ♀の空腹状態を調べるために、何か普通の獲物(昆虫)を網に給餌してみることにしました。

つづく→#3:網にかかったトンボには目もくれず花を食べるイシサワオニグモ♀(蜘蛛)



【参考】
『クモの科学最前線』という専門書の第3章で「クモと餌 植物食」を扱っています。

・ハエトリグモやカニグモの仲間が花や花外蜜腺に訪れる。p55 
・蜜食いの直接証拠となるのが、植物の蜜や果実に由来するフルクトース(果糖)の存在である。野外でクモを採集し、胃のなかにフルクトースがあれば、クモが植物から蜜を得ている証拠となる。※p56 
・円網に付着した花粉をクモが網糸ごと摂取している。p56
※ 例えばミツバチを捕食した直後は間接的に花蜜を摂取したことになり、胃内容物に果糖が検出されるのでは?

オニグモ類が花を食べるという記述は見つかりませんでした。


次はインターネット検索で見つけた総説の資料です。

上記の本『クモの科学最前線』に書かれた内容のエッセンスがまとめられています。
公開してくださっている池田博明氏に感謝。
・日本蜘蛛学会のプレゼン資料「クモと植物(簡略版)」クモの食餌としての植物(PDFファイル) 
・東京クモゼミのレジュメ:"Herbivory in Spiders"(pdfファイル)


【追記】
YouTubeのコメント欄にて、「ひどく喉が渇いたクモが花から水分を摂取しているのではないか?」というアイデアをいただきました。
給餌したアメリカセンダングサの花を摘んだときに濡れていると思った記憶はありません。
この時期の日本は乾季ではありませんし、クモが水分補給に困ることはないと思います。
朝晩に気温が下がると、網に結露した夜露をクモは摂取できるはずです。


【追記2】
『クモのはなしI:小さな狩人たちの進化の謎を探る』(第23章 池田博明「クモのメニューの量と質」)によると、
宮崎県の石野田辰夫さん(1974)が、アシブトヒメグモがトベラの花の近くに造網し、その花粉や蜜を食べていることを発見して、NHKが撮影し、そのフィルムを東亜クモ学会第六回大会で上映しているのです。このフィルムは大会の参加者にショックを与えたようですが、その後、これに続く発見は現れず、九州のアシブトヒメグモに特有な例外的現象と理解されてしまったようです。しかし、スミスとモムセンの研究からすると、例外どころか、もっと新しい照明をあてるべきことがらのように思えます。(p201より引用)



【追記3】
「命をつなぐ生きものたち 第3集 ギリギリの恋」という動物番組を視聴していたら(2022年9/4放送)、性的対立の一例として、イギリスでBBCが撮影したキシダグモの一種の求愛給餌行動が見事な映像で紹介されていました。
徘徊性のキシダグモ♂は獲物を捕まえてラッピングした物を♀に贈り、気に入ってもらえれば♀がプレゼントを食べている間に交尾できます。
獲物が取れないと♂は花など食べられない物を糸でくるんで♀に差し出します。
もし騙しがばれてしまうと交尾を拒否されたり性的共食いされてしまいますが、結構交尾に成功していたのが驚きでした。
♂の騙しを厳しく見破るように♀の対抗戦略がこれから進化してくるかどうか興味深い、と番組内で長谷川眞理子氏(動物行動学者)はコメントされていました。
しかし「クモは花を食べないはず」と思うのはヒトの偏見(思い込み)で、実はクモは結構花が好き(悪くない味)なのかも知れない…と個人的に思いました。



【追記4】
平松毅久「網に落下した花をラッピングして食べたオオシロカネグモ」という論文をダウンロードして閲覧することができます。
ムラサキシキブの落花を食べたという観察記録です。
KISHIDAIA, No.77, Aug. 1999
Behaviour of wrapping and feeding a flower dropped on the web by Leucauge magnifica Yaginuma 1952

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