2025/07/08

平地の二次林で空咳をするニホンカモシカ【トレイルカメラ】

 



2024年6月中旬・午後14:07・晴れ
平地の二次林で最近暮らすようになったニホンカモシカCapricornis crispus)がニホンアナグマの旧営巣地(セット)で頭を下げて地面の匂いを嗅ぐと、コホッコホッ♪と乾いた咳をしました。 

別アングルに設置した監視カメラでも空咳のシーンが撮れていました。(@0:13〜) 
アナグマの巣口Rを見下ろしながら、空咳をしています。 
その後はペロペロと舌舐めずり。 
「咳をしても独り」という尾崎放哉が詠んだ有名な自由律俳句を思い出します。 
最近この巣穴に出入りしているアナグマやタヌキの残り香を嗅ぎつけてむせたのではなく、呼吸系の疾患かもしれません。 


※ カモシカの咳が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


【考察】 
野生のニホンカモシカで空咳をしている個体を観察したのは、今回が初めてです。 
興味深い症例なので、まずGemini AIに相談してみた回答を掲載します。
野生のニホンカモシカで咳をしている個体を見かけられたとのこと、ご心配ですね。カモシカが咳をする原因は、いくつか考えられます。 考えられる咳の原因 感染症: パラポックスウイルス感染症: ニホンカモシカでは、口唇や眼瞼周囲に発疹ができ、咳やくしゃみなどの呼吸器症状を伴うことがあります。特に、過去に国内で発生した事例があり、注意が必要です。 他のウイルス性・細菌性感染症: パラポックスウイルス以外にも、様々なウイルスや細菌が原因で呼吸器系の感染症を起こす可能性があります。 肺虫症: 肺に寄生虫が寄生することで、咳や呼吸困難などの症状が現れることがあります。 環境要因: 大気汚染: スモッグや排気ガスなど、大気汚染物質を吸い込むことで、呼吸器系が刺激され、咳が出ることがあります。 花粉症: 春先など、特定の時期に花粉を吸い込むことで、アレルギー反応を起こし、咳が出ることがあります。 異物混入: 草や木の枝などを誤って吸い込んでしまい、咳が出る場合があります。 その他: ストレス: 環境の変化や他の個体との争いなど、ストレスによって免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。 老衰: 高齢個体では、呼吸器系の機能が低下し、咳が出やすくなることがあります。
AIの回答はもっともらしくても出典や情報源を示してくれないことが多いので、どこまで信用できるのか、素人には判断できません。 

次にカモシカに関する専門書籍を紐解いてみました。 
大町山岳博物館『カモシカ:氷河期を生きた動物』は出版が1991年で古い本ですが、死んだニホンカモシカ(野生または飼育個体)を計474件も病理解剖した結果がカラーの病理写真とともに詳細にまとめられていて、貴重な資料になっています。 
カモシカの呼吸器系疾患として、以下の病名が列挙されていました。
肺炎(繊維素性胸膜肺炎、誤嚥性肺炎、気管支肺炎、線維性肺炎、化膿性肺炎、ウイルス性肺炎、外因性肺炎、他)、肺充血、肺水腫、感冒、熱射病、日射病、肺出血、胸膜炎、肺壊疽 (p102 表17より引用)
肺炎は呼吸器系の病気の中で最も生じやすい病気で、特に幼獣にとって重要である。(中略)肺炎にかかったカモシカは発熱し、呼吸があらく早くなり、呼吸困難の状態を示す。体力が弱り下痢を併発するものもいる。また、生前はそれと分からず、死亡後の検査で肺炎と診断される場合もある。(中略)肺炎は微生物による感染のほか、寒さやストレスによる体力の低下、異物を吸いこんだり他の病気に併発して発病したりする。幼獣は、成獣に比べ外界の変化に対して抵抗力が弱いから、肺炎にかかりやすいのも当然である。 (p106-107より引用)
他には、肺虫症の症例が多かったそうです。
肺虫は宿主であるカモシカを死に至らせない程度に肺の一部に宿借りし、自分たちの「種」を保存している。肺虫病変は年齢を問わず、検索したカモシカの70%以上に観察された。(p115より引用)
トレイルカメラの映像や音声だけから呼吸器系疾患の診断をするのは無理ですが、専門書籍で得た知識を頭に入れつつ経過を見守るしかありません。 
ただの一時的な軽い症状で、心配いらないかもしれません。
上記AIの回答は、明らかに本書または同一著者(大町山岳博物館館長の千葉彬司 氏)による関連文献を学習した内容が含まれているようで、それほど的外れなハルシネーションではなさそうです。


つづく→

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