2024/12/30

野生ニホンザル♀の同性愛行動#2(若い♀同士の抱擁、マウンティング、正常位の擬似交尾など)

 

2023年12月中旬・午後15:55頃・くもり 

夕方に山麓を遊動する野生ニホンザルMacaca fuscata fuscata)の群れを慎重に追跡していたら、太い風倒木(樹種はオニグルミ、隣の立木はハンノキ)の上に並んで毛繕いしているペアを見つけました。 
相互毛繕いではなく、片方の個体が一方的に甲斐甲斐しく毛繕い(ノミ取り)しています。 

気持ち良さそうに目を瞑って毛繕い(頭皮マッサージ?)を受けていた個体が急に顔を上げると、互いに対面したまま抱き合いました。
抱擁(ハグ)したまま相手を押し倒すと、下になった個体が腰を動かして陰部を相手に擦り付けました。 
正常位の性行動(疑似交尾)と思われます。 
倒木上で仰向けに寝た個体は、ゴツゴツして寝心地が悪いと思うのですが、短時間で終わりました。 
続けて、再び対他毛繕いに戻りました。 

このとき私が立っていた地面の足場がとても不安定で、猿の手前にある枝が撮影の邪魔だったこともあり、動画を撮りながら少し移動しました。
(映像がひどく手ブレして申し訳ありません。) 
幸い、ニホンザル♀のペアは私が動いても、すぐには逃げ出しませんでした。 

次にペアの一方が立ち上がると、パートナー♀の背後に回り込み、マウンティングしながら腰を動かしました。(pelvic thrust) 
マウントされた♀は、振り返って相手の顔を仰ぎ見たものの、両手は倒木の上に付いたままでした。 
最後の点が、典型的な異性間交尾時の♀の行動とは違いました。
(片手で♂の体に触れたり引き寄せたりするはず) 
短い疑似交尾が終わると、ペアは倒木上で再び対面で座り抱き合いながら体を軽く揺すりました。 
このとき口を少しもぐもぐ咀嚼しています。 
頬袋の中に詰め込んでおいた食料を食べているようです。 

無粋な出歯亀(私)がじっと見ているせいで落ち着かないのか、倒木上のペアが移動を始めました。 
倒木から地面に降りる際に股間がちらっと見えて、ようやく性別が♀と分かりました。 
尻の色が真っ赤ではなくてピンクだったことから、発情していない若い♀のようです。 

もう1頭も倒木から降りて、パートナーを追いかけました。 
土手の途中で追いつくと、背後からマウンティングしました。 
今回も両足を相手の膝の裏に乗せてマウントし、腰を動かしました。 
マウントした個体の股間に睾丸が見えないことから、やはり♀同士のようです。 
マウンティングを終えた直後に、目を凝らしてよく見たのですが、マウントされた♀の尻に白い精液は付着していないようです。(異性間の交尾ではない) 

土手を登って用水路沿いの小径に移動すると、横に並んで座って一方的な対他毛繕いを始めました。 
手前にあるオニグルミの倒木が邪魔で見えにくいのですが、その背後でニホンザル♀のペアが再びマウンティングしました。 
このとき、マウンティングの攻守交代をした点が興味深く思いました。(異性間では決して見られない?)
今回も、マウントされた個体は振り返って相手を仰ぎ見るだけで、パートナーを片手で掴んで引き寄せる動きはしませんでした。 

マウンティングの次は、また熱い抱擁に戻りました。 
♀同士でよくみられるこの行動を、ニホンザルの研究者は「ハグハグ」と呼んでいるのだそうです。(※ 追記参照)
一素人の擬人化した解釈ですが、ハグハグは♀同士の前戯のようなもので、性的な興奮が高まるとマウンティング(後背位)や正常位に移行するようです。 
ハグハグから相手を押し倒し、正常位になりました。 
今度は倒木の上ではなく地面なので、仰向けになっても安定していて背中が痛くありません。 

私に気づいたようで、警戒した個体が左奥へ歩き去り始めました。 
それを追いかけた別個体が背後からマウンティングしました。 
マウントを止めた若い♀のペアは、用水路沿いに設置された転落防止のフェンス(金網)を相次いで身軽に登り、手摺を伝って歩き始めました。 
ここで群れの仲間と合流したことになります。 
それまで、群れの仲間は若い♀同士の同性愛行動に何も干渉しませんでした。 

 仲間が何匹も手摺に並んでいた。♀aもフェンスを登って手摺へ。 用水路の対岸の林縁から伸びた落葉性広葉樹(クリ?)の枝に飛びつくと、ターザンのようにブランコ遊びをしながら、対岸に渡りました。 

この辺りから私はもう誰が誰だかニホンザルを個体識別できなくなりました。
手摺に座って体を掻いていた個体が振り返って仲良しのパートナーを見つけると、駆け寄りました。 
フェンスから地面に相次いで戻ると、そのまま地上でマウンティングしました。 
フェンスの手摺(断面が丸い、金属の横棒)の上では足場が不安定で、マウンティングしたくてもできないのでしょう。 
マウンティングに続けてハグハグを繰り返したということは、♀同士のようです。 

私が少し移動してペアに近づき、なんとか撮影アングルを確保しました。 
(ちょっとだけ目を離して空白時間があったので、さっきと同一の♀ペアかどうか確証がありません。) 
ペアは相変わらず水路横の小径に座り、対面でハグハグしていました。 
立ち上がると背後からマウンティングしました。 
このとき♀の外性器はピンク色でした(未発情)。

マウントを解除した2頭は、相次いで横のフェンスによじ登り、手摺から頭上の落葉樹の横枝に飛びつきました。 
先行個体は、枝にぶら下がったままターザンのように対岸のフェンスに移り、地面に降りました。 
ところが後続個体は体重が軽いのか、ブランコの振幅が小さくて対岸のフェンスには手が届きませんでした。 
どうするのかと思って見守ると、臨機応変にそのまま横枝をよじ登ってから、対岸のスギ横枝に飛び移りました。 
無事に対岸の地上に降りると、先行するパートナーの後を追って遊動を続けます。 
ニホンザルの群れは、全体としてねぐらとなる森を目指しているようでしたが、私が追いかけるので警戒してどんどん逃げているのかもしれません。 

ニホンザル♀同士の同性愛行動を観察したのはこの日が始めてでした。
しかも、同じ山系の少し離れた地点で同じ日に何度も観察できたので、とても興奮しました(interestingという意味で)。 

関連記事(同日の撮影)▶  

もしかすると、発情期なのにこの群れには成獣♂が居なくて(♂不足)、交尾相手の♂が見つからない♀たちが性的に欲求不満になっているのかと、現場では安直に推測しました。
猿害対策でなぜか♂ばかりが駆除されてしまったのか、などと先走って考えたりもしました。 
ところが、この日に撮れた動画をすべて見直すと、発情した成獣♂(αアルファ♂?)も群れと一緒に遊動している様子がしっかり写っていました。 
この日♀の同性愛行動を初めて撮影できて夢中になっていた私は、♂の存在が目に入らなかった(記憶に残らなかった)ようです。 


※ 夕方で薄暗いので、動画の画質が少し粗いです。 


※【追記】
今回見られた前戯のような抱擁は、ハグハグ行動と呼ばれるのだそうです。 
少し長いのですが、文献検索で見つけた学会発表の抄録を引用させてもらいます。
中川尚史, et al. ニホンザルにおける “ハグハグ” 行動パタンの地域変異. In: 霊長類研究 Supplement 第 22 回日本霊長類学会大会. 日本霊長類学会, 2006. p. 28-28.

 

【抄録】演者のひとり下岡は、金華山のニホンザルの“ハグハグ”行動について報告した(下岡、1998)。“ハグハグ”は、「2個体が対面で抱き合い、お互いの体を前後に揺さぶる行動」であり、以下のような特徴が認められた。1)2個体の行動が同調する、2)リップスマックを伴う、3)平均持続時間は17秒である、4)主にオトナ雌によって行われ、血縁の有無によらない、5)グルーミングの中断後や闘争後に見られる。以上の特徴から下岡はこの行動には、個体間の緊張を緩和する機能があると考えた。本発表では、金華山の“ハグハグ”行動と相同と思われる行動が屋久島のニホンザルでも観察されたので報告する。 当該行動は、2005年9月から12月、屋久島西部林道域のニホンザルE群を対象に、演者を含む総勢8名で行った性行動の調査中に観察された。 観察された行動は、下岡が報告した1)~5)の特徴、および機能を持っており、“ハグハグ”と相同の行動とみなすことができた。しかし一方で、行動パタンにわずかな変異が認められた。屋久島の“ハグハグ”も「2個体が抱き合い、お互いの体を前後に揺さぶる行動」であるが、必ずしも「対面で抱き合」うのではなく、一方の個体は他方の側面から抱きつく場合があった。さらに、屋久島の“ハグハグ”は、他個体を抱いた手を握ったり緩めたりいう動作を伴ったが、金華山ではそうした動作は見られていない。 行動の革新が見られ、集団中に伝播し、世代を超えて伝承することを文化と定義すれば、文化の存在を野生霊長類で証明することはかなりの困難を伴う。そこで、1)行動の地域毎の有無、2)行動を示す個体の増加、3)行動のパタンの一致などがその傍証として用いられてきた。金華山の“ハグハグ”とは微妙に異なるパタンで屋久島においても相同の行動が発見されたことは、上記3)の文化の傍証に相当する。今後、1)、2)の傍証についての情報を収集していく予定である。

今回の私の撮影地は山形県で、鹿児島県の屋久島よりも宮城県の金華山にずっと近いです。 ハグハグ行動のパターンが、金華山の個体群と近い事がわかりました。 
屋久島の個体群で記述されたハグハグのバリエーションとは全く違います。
ハグハグが緊張緩和のための行動という解釈には、個人的に納得できません。
今回、私の耳には、同性愛行動に耽るニホンザル♀の鳴き声やリップスマック(唇で鳴らす音)をまったく聞き取れませんでした。 


【追記2】
観察に不慣れな私が若いニホンザル♂を♀と誤認しているだけかもしれません。
だとすれば、同性愛でない可能性が出てきます。
子猿♂は睾丸が未発達だとしたら、私には性別を見分けるのはお手上げです。

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