2021/06/15

繁殖池の岸に上陸して産卵場所を探し回るヤマアカガエル♀♂の抱接ペア(その4)崖から滑落・ライバル♂を撃退

 


2021年3月中旬・午後15:00頃・晴れ 

繁殖池Hの水中をヤマアカガエル♀♂(Rana ornativentris)の抱接ペアが対岸に向かって泳ぎ始めました。 
撮影順序からすると、直前に撮った抱接ペアと同じかもしれません。 
しかしヤマアカガエルを個体識別できていない私は、本当に同一ペアかどうか自信がありません。 
抱接ペア♀♂を見つけたら目を離さずにひたすら動画を撮り続けるべきなのですが、池のあちこちで様々な事件が次々に起こるために、どうしても目移りしてしまいます。 

対岸に泳ぎ着いた抱接ペアは、水面から顔を出してしばらく辺りの様子を安全確認しています。 
岸辺に沿って右へ右へ移動しながら産卵に適した場所を探索しているようです。 
沢の水(雪解け水)が池Hに流れ込んでいる地点に上陸した♀が露出した崖を登り始めたので私はびっくりしました。 

♂を背負った♀が流水で濡れた崖で向きを少し変えた途端に滑落し、池にポチャンと落ちてしまいました。(@2:16) 
抱接ペアはそれでもめげずに岸辺を左に少し泳ぐと、再上陸する地点を探しているようです。 

あぶれ♂が待機していた岸辺に抱接ペア♀♂がたまたま接近してしまいました。 
気づいたあぶれ♂がすかさずペアの背中にとびかかってマウント・抱接を試みます。 
水中で激しい蛙合戦が始まりました。 
配偶♂が背後からしがみついてくるライバル♂を足蹴にしながら、♀は慌てて潜水で逃げます。 
産卵地探索を邪魔された抱接♀♂ペアは深い池の底に潜ったまま静止しました。 
あぶれ♂はいつものようにあっさり諦めてペアから離れ、自分の縄張り(岸辺)に戻りました。 
独身♂が抱接ペアに挑みかかって♀を強奪するシーンを私は一度も見たことがありません。 
私が見た限り、抱接ペアの♂は常にライバル♂に勝って配偶者ガードに成功します。 
そもそも強い♂が♀を獲得してペアを形成し、非力な弱い個体があぶれ♂となって岸辺に並ぶようになるのかもしれません。 
個人的な妄想ですが、あぶれ♂の繁殖戦略はスニーカー型で、抱接ペアが産卵を始めた瞬間に卵塊に跳びついて(抱接に参加して)放精するのではないかと予想しています。

今回、池の水面からの眩しい反射光を抑えて水中の様子がよく見えるように、カメラのレンズに円偏光(CPL)フィルターを装着しました。 
比較的近い水中の被写体を撮る分には確かに効果的なのですが、対岸の遠いカエルを撮るために望遠側にズームインすると像が不自然に滲む(ピンぼけ?)副作用が現れてしまいます。 
現場でこの症状に気づかずにCPLフィルターを付けたまま撮影を続けたのがつくづく悔やまれます。 
私は池から離れた雪面に立って撮影したので、直射日光だけでなく雪からの照り返しもあって非常に眩しい状況でした。 
カメラのバックモニター(液晶画面)がほとんど見えず、オートフォーカス(AF)にお任せで適当に撮ったのです。 
横着せずにカメラのファインダーを覗いて確認すべきでしたね。 
この動画をお蔵入りにしようか迷ったのですが、記録された行動自体は興味深いので、不本意ながら公開しておきます。
安物買いせずにカメラメーカー(Panasonic)純正品のCPLフィルターを買っておけば、こんな副作用は出ないのですかね?

さて、池畔の崖を登ろうとした抱接♀の行動をどのように解釈したらよいでしょう?
繁殖池を離れて山に帰りたいのであれば、既に産卵を終えた♀が冬眠場所に戻ろうとしているのでしょう。 
しかし池の周囲は未だ残雪で一面覆われています。 
雪解けして地面が僅かに露出した所で地中に潜り込むのかな?
♀に未練がましく抱きついている♂は、女心が分からない野暮な♂ということになります。 
変温動物のヤマアカガエルが冷たい雪面を長距離移動するスクープ映像が撮れるか!と期待に胸が高鳴りました。
(雪山踏破なんてカエルには無理だ!というのが私の予想・先入観です。) 
捕獲したヤマアカガエルを池から離れた雪面に放せば再び池に向かって移動してくれるか、低温耐性を実験で確かめたくなりました。 
(途中で低体温になり動けなくなるか? 活動限界を迎えるか?) 
一方で、産卵後のヤマアカガエル♀は再び池の底で冬眠する、という説もあります。 


無料で閲覧できるPDF文献をネット検索で調べてみると、ヤマアカガエルの抱接ペアは産卵が済むと直ちに別れてしまうのだそうです。
したがって、今回観察した抱接ペアは未だ産卵前で、産卵適地を探索中だったことになります。

 ♀は、産卵の準備ができた個体だけが調査地内に現れ、出現直後には♂とペアを形成した。♀が現れてからペアを形成するまでの過程は、残念ながら断片的な観察しかできなかった。ペアはあちこち移動を繰り返してから産卵したが、その際、既に産みつけられた卵塊の脇を産卵場所として選ぶ傾向が強かった。産卵そのものに要する時間はきわめて短く、せいぜい1〜2分程度であった。産卵が終了すると♀♂は離れ、♂は再び活発な活動を始めたが、♀はしばらくその場で浮かんでいることが多かった。産卵後の♀が翌日以降に再び発見されることはなかった。(下山2001より引用)


 一般に両生類の♂は繁殖期間中は水中に留まり、♀の到着を待つ。一方、♀は産卵直前の状態で産卵場所に現れ、産卵をすますとすぐに上陸してしまう。(中略)(アカガエル類の:しぐま註)産卵は1分ほどで終わり、♂はすぐに抱接を解いて♀から離れる。(倉本ら2000より引用)

 

【参考文献】 
・倉本満, 石川英孝. 北九州市山田緑地におけるアカガエル類の繁殖生態. 爬虫両棲類学会報, 2000(1), 7-18.(PDFファイル) 
・下山良平.ヤマアカガエルの繁殖活動.茅野市八ケ岳総合博物館紀要2001(9), 1-5. (PDFファイル) 長野県茅野市の水田で4月に調査した記録です。

ただし、これら専門的な文献を読んでもどうしても納得できなかった箇所があるので、自分の目で産卵の一部始終を観察しない限り、参考にしつつも鵜呑みにはできません。
日本国内でも調査地によって気候が異なりますから、ヤマアカガエルの繁殖生態が微妙に変わってくる(適応進化)ことは充分に考えられます。




以下に掲載するのは、自動色調補正した崖登りシーンの写真です。

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