ヒメクモバチの飼育記録6
梅雨空で虫撮りに出かけられないので、昨年からの懸案だった実験をやってみることにします。
ヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)は葉の裏面や石の窪み、コンクリートの庇(オーバーハング)の下など雨が直接かからない場所に泥で巣を作ります。
ファーブルはフランス産のヒメベッコウが泥で作った壺(=育房)の耐水性について調べ、考察しています。
『ファーブル写真昆虫記2:つぼをつくるかりうど:トックリバチ・キゴシジガバチほか』によると、
・キゴシジガバチの巣の部屋の中に、一滴の水を垂らしてみると、水はすぐに壁の中に吸い込まれてしまいます。しかし、ヒメベッコウバチの部屋では、水は、中にたまったまま、滲みこむことはありません。
ヒメベッコウバチの巣の、内側の壁を作る材料の土の中には、何かが混ざっているのです。それは、ヒメベッコウバチの唾に違いありません。
・(ヒメベッコウの)壺を水の中に浸してみると、外側の壁はどろどろに崩れてしまいます。でも、内側の壁の薄い部分だけは、溶けずに最後まで残ります。(p36より)
・トックリバチの巣は雨に濡れても崩れないのに、ヒメベッコウバチの巣には、水を防ぐ力はありません。トックリバチの巣が水に強いのは、獲物の体液のためだろうと考えられます。ヒメベッコウバチが吐き出す水には、そのような体液が含まれていないのでしょう。(中略)また、ヒメベッコウバチの巣の内壁が水に強いのは、はっきりとはしませんが、ハチが内壁の表面を丁寧にならしたためではないかと考えられます。(解説編p47より)
ファーブルに習って、ヒメクモバチが作った泥巣の耐水性を実際に調べてみましょう。
実験の材料に使う泥巣について、これまでの経緯を復習します。
2013年6月中旬にタニウツギの葉裏でヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)の泥巣を見つけ、営巣行動を観察しました。
6月下旬に泥巣を採集し、羽化した成虫が泥巣から脱出する直前に水を吐いて土壁を軟化する瞬間を観察しました。
全ての成虫が羽化した後の古巣を大切に保管していました。
この充分に乾燥した泥巣にシャワーの水を浴びせかけてみました。
梅雨時の集中豪雨を再現したつもりです。
水の勢いで育房の一部はすぐに崩れ溶けたものの、意外に長持ちしています。
6分間シャワーをかけ続けても「完全に溶けて無くなる」ことはありませんでした。
巣の残骸を指で潰し、改めて泥を丁寧に洗い流すと繭の薄皮のみが残りました。
蜂が羽化した後なので、各繭の袋には穴が開いています。
「泥巣を水に静かに浸す」だけでは溶けるまでにもっと長時間かかったことでしょう。
古い泥巣は羽化孔で穴だらけのため、育房内壁の耐水性は調べられませんでした。
(壁を少し壊してから実験すればよかったかも。)
ファーブルの実験をそのまま再現した訳ではありませんが、原始的な実験ながら試しに自分でやってみるとファーブルとは違う見解に至りました。
温故知新。
確かに泥巣を水で溶かすことができました。
しかし、葉裏に流れてくる雨水の量ならば濡れても持ちこたえられそうです。
ヒメクモバチの泥巣内壁の耐水性は母蜂が唾を混ぜて強化したのではなく、蜂の幼虫が絹糸で紡いだ薄い繭によるものだと私は思います。
(ファーブルともあろう人が果たしてこんな単純な見落としをするのか疑問ですが。)
幼虫が育房内で営繭する前後で泥巣の耐水性に差があるかどうか、更に実験すれば決着がつくでしょう。
ファーブルがどの営巣段階の泥巣を用いて実験したのか(記述が不十分で)よく分かりませんでした。
実はファーブルはヒメクモバチの巣材集め行動を観察していないようで、キゴシジガバチの泥巣を用いた実験観察からヒメクモバチについて推測しているだけみたいです。
私が過去に直接観察したところによると、ヒメクモバチ♀は古い泥巣の巣材を再利用したり湿った土を新たに採ってきたりします。
ヒメクモバチ♀が採土の前に葉に溜まった朝露の水滴を飲む行動も私は観察しました。
逆に私はキゴシジガバチを一度も見たことがありません。
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