2025/09/30

群れの最後尾を歩き山道で私と堂々とすれ違うニホンザル♂(最後に威嚇?)

 



2024年7月上旬・午後13:55頃・晴れ 

里山で雑草が生い茂った細い林道を下からニホンザル♂(Macaca fuscata fuscata)がノシノシと歩いて登って来ます。 
先行する群れの仲間は林道から外れて藪の中に入り、私を迂回してすれ違いました。 
ところが、この個体♂は臆せず私にどんどん近づき、山道に突っ立ったまま撮影している私の横を通り抜けようとしています。 
すれ違う際に私が上半身をねじって流し撮りしようとしたら、さすがにニホンザル♂は警戒しました。 
横の笹薮に入って最小限に迂回し、無事にすれ違いました。 
(私が振り返らずにじっとしていれば、そのまま林道を歩いて横をすれ違っていたはずです。) 
このときニホンザルの股間に睾丸がちらっと見えたので、性別が♂と判明。 

私の横を迂回したニホンザル♂が、林道に戻ってきました。 
ちらちらと振り返りながら、群れを追って山道を登って行きます。
後ろ姿の股間を見ると、発情期にはまだ早いのですが、発達した睾丸が紅潮していました。
短い尻尾をピンと立てて威厳を持って堂々と歩いていますし、私とすれ違うときのあまり恐れない態度も他の個体とは明らかに違いました。
この群れで最上位のα♂ではないかと推測しました。 

最後にニホンザル♂は口を大きく開けてから、道なりに曲がって姿を消しました。(@1:51〜) 
生理現象の欠伸ではなくて、私に対して犬歯を誇示する威嚇だったのかもしれません。 
このα♂個体が群れの最後尾を遊動していたようで、これ以降は猿と出会えませんでした。 



【考察】
今回登場したニホンザルの♂個体が「群れのしんがりを務めていた」と言えるかどうか、微妙です。
ChatGPTと相談してみると、
日本語の「しんがり」はもともと軍事用語で「退却時に最後尾で敵を防ぎつつ味方を守る役目」を指します。つまり本来は 「退却時」限定の任務名 です。
ですので「しんがりをつとめる」という表現を厳密に使うと、ただ単に通常の行進や行列で最後尾にいる人には使いません。

もちろん私は猿の群れを攻撃したり挑発したりしませんでしたが(※ 追記参照)、何かあればこの最後尾の♂個体は、本来の意味でしんがりを務めたのではないでしょうか。
日本語の「しんがり」は「撤退時の後衛」という軍事用語に由来しますが、比喩的に「群れや集団の最後尾にいて、いざというとき仲間を守る役割を担う」ことも表せます。

ニホンザルの群れに当てはめれば、「最後尾にいたα♂が、もし人間などからの危険があれば群れを守る立場にあったのでは」という解釈は自然です。

これまで私が野生のニホンザルを観察してきた経験では、群れの遊動中にどの個体が先頭を歩き(斥候)、どの個体が最後尾を歩くか(殿しんがり)、決められた役割分担はないようです。
つまり、野生ニホンザルの行動の一般論として「α♂はいかにもボス猿らしく、常に群れのしんがりを務める」という訳ではありません。
たまたま今回はそうだった、というだけです。

ニホンザルに限らず、多くの霊長類では「誰が常に先頭」「誰が常に最後尾」という固定的な役割分担は確認されていません。個体の順位・性格・状況(採食地の位置、危険の有無など)によって柔軟に変わります。

今回特に、α♂が去り際に口を大きく開いた行動が興味深いです。
欠伸ではなくて、犬歯を私に見せつけて威嚇した可能性があります。
しんがりとして群れを守る行動の片鱗を見せた、と解釈するのは無理があるでしょうか?
結論から言うと、「しんがりを務めた」と断言するのは少し踏み込みすぎですが、「そのように解釈できる可能性はある」と書く余地はあります。

行動学的な整理

口を大きく開ける行動
ニホンザルの成体♂が口を開けて犬歯を見せるのは、あくび(生理的行動)とは異なり、しばしば威嚇 displayとして用いられます。特に相手に対して「自分は強い」「近づくな」というシグナルになり得ます。

群れの最後尾での威嚇
群れが退却・通過しきるタイミングで最後尾の個体が振り返ったり威嚇したりするのは、「自分と群れの間合いを守る」行動と解釈可能です。

「しんがり」の解釈
軍事的な「殿(しんがり)」のように計画的・役割的に守ったとまでは言い切れません。ニホンザルには固定的な殿役は確認されていないからです。
ただし、「たまたま最後尾に位置した高順位個体が、通過後に人間へ威嚇行動を示した」という事実は、結果的に群れを守るような機能を果たしていたと見ることはできます。

書き方の工夫

もし観察記録に書くなら:

事実:最後尾を歩いていたα♂が、通過の際に口を大きく開いて犬歯を見せた。

解釈の余地:「単なる威嚇 display かもしれないし、結果的に群れの“しんがり”として防衛的な役割を担っていたとも考えられる」


※【追記】
野生のニホンザルと遭遇した際に、目を直視してはいけません。
ヒト同士のコミュニケーションでは「目を見て話す」ことがエチケットとして重要視されますが、ニホンザルの世界では真逆なのです。
ニホンザル同士の行動を観察していると、気になる相手を横目でチラチラ見るだけなのが分かるはずです。
相手の目をじっと見つめるのは「睨みつけた」と解釈され、敵対的・挑発的な行動とみなされます。
群れ内で劣位の個体は、上位の個体に睨まれると、悲鳴を上げて逃げていきます。
もしあなたが小柄な体格の女性や子供の場合は、無意識に(悪気なく)猿の目をじっと直視するだけでも、「無礼者! 舐めとんか!」と猿が怒って攻撃してくる可能性もあるので危険です。

たとえ餌付けされていない野生群でも、ニホンザルを怖がらせずに至近距離から長時間撮影するには、コツがあります。
私は常にデジカメの液晶画面(バックモニター)を見るようにして、猿の目を絶対に直視しないようにしています。
できれば、デジカメのファインダーを覗きながら撮影すれば、顔が隠れて猿に無用な恐怖心を与えません。
「見ざる・言わざる・聞かざる」という戒めの諺は、両手で目・耳・口を塞ぐ「三猿」として表されます。
猿を刺激しないためには、こちらが目を塞いで接することが大切です。

我々ヒトがサングラスを着用する効用として、遮光の他に、自分がどこを見ているのか視線を隠すことができます。
しかし、対峙したニホンザルにとって見れば、ただ顔にとてつもなく大きな目があると思うだけです。
サングラスを付けた顔の向きによっては、「巨大な目で無礼に直視された」と猿に誤解されるリスクがありますから、猿から顔を少しそむけて横目で見るようにするのがよいでしょう。
ニホンザルが怖い人は、どうしても「襲われるんじゃないか」とビクビクしながら油断なく直視してしまうのですが、逆効果です。



2025/09/29

ニホンアナグマの母子はアンズの落果を食べるか?【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2024年7月中旬

シーン0:7/5・午後15:20・晴れ(@0:00〜) 
アンズ(杏)の木の下に散乱していた落果を拾い集めて1箇所にまとめて置き、無人センサーカメラで見張っています。 

ニホンアナグマMeles anakuma)家族の登場シーンを以下にまとめました。 
アナグマの営巣地(セット)がある二次林と今回の現場は連続していて、おそらく彼らの行動圏と思われます。 


シーン1:7/11・午前2:19・雨天(@0:05〜) 
梅雨の雨が降りしきる深夜に、獣道を右からアナグマの成獣がやって来ました。 
毛皮が雨で濡れています。 

地面を爪の生えた前足や鼻面で浅く掘り返し、好物のミミズを探しているのでしょう。 
背側からのアングルでは分かりづらいのですが、腹面に乳首がちらっと見えたので、このアナグマ成獣は母親♀のようです。 
アンズ落果の山にはほとんど興味を示さず、左へ立ち去りました。


シーン2:7/11・午前3:49・雨天(@0:47〜) 
1時間半後には、アナグマの母子が同時に登場しました。 
全員の毛皮が雨で濡れそぼっています。 

林床の下草を掘り返しながら、うろついています。 
しかし、依然としてアンズ落果を食べようとはしません。 

近所のアナグマ営巣地(セット)では母親♀と4頭の幼獣(当歳仔)を確認しているのですけど、ここでは3頭の幼獣しか写っていないようです。 


シーン3:7/11・午前3:54(@1:37〜) 
5分後にもアナグマの幼獣が再び現れ、走り回っています。 
雨は止んでいました。 


シーン4:7/11・午後23:56(@1:49〜) 
次にアナグマが来たのは20時間後でした。 
基本的にアナグマの採食行動は夜行性なのでしょう。 
この地点でアナグマが昼間に写ることはありませんでした。
しかし昼間は巣穴でずっと寝ているという訳ではなく、営巣地に設置した監視カメラでは、昼間も活発に遊んだりしていました。 

深夜に獣道を右から来たアナグマ成獣が怪しい監視カメラを見上げました。 
左右の目(タペータム)が左右均等だったので、母親♀ではない別個体(ヘルパー♂?)のようです。 

毛皮が夜露で濡れています。 
地面に尻を付け(スクワットマーキングの匂い付け?)、身震いしてから、左へ立ち去りました。 


シーン5:7/12・午前1:45(@2:13〜) 
日付が変わった深夜にもアナグマが来て、アンズ落果の山の右隣りで地面を浅く掘り返していました。 
本当にミミズを食べているのか確かめたいのですが、手前に生えた下草が邪魔で、肝心の口元が見えません。 
右へ立ち去ったかと思いきや、戻ってきて左へ横切りました。 


※ 雨音やアナグマの鼻息などが聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


【考察】 
結局、ニホンアナグマは熟したアンズの落果を一度も口にしませんでした。
アミグダリンという毒が含まれているので、忌避しているのかもしれません。 
アンズ以外で無毒の果物を置いていたら、アナグマは食べてくれたかな?

アナグマ母子の行動圏が垣間見えたのが一番の収穫です。
この辺りは平地の二次林やスギ防風林が連続していますから、営巣地(セット)➔溜め糞場stmp➔アンズの木と順に辿ってきたのかもしれません。
もっと多くのトレイルカメラをあちこちに設置したいのですけど、機材を買い足す予算がありません。

夜の水溜りで顔を洗うフクロウと周囲を飛び回るコウモリ【野鳥:トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年7月中旬〜下旬 

シーン0:7/16・午前11:45・晴れ・気温32℃(@0:00〜) 
明るい日中にたまたまフルカラーで撮れた現場の様子です。 
山林の中に少し開けた湿地帯があり、湧き水が滲み出して浅い水溜りになっています。 
水場に来る生き物を無人センサーカメラ(新機種)で見張っています。 

夜な夜な通ってくるフクロウStrix uralensis)の登場シーンを以下にまとめました。 


シーン1:7/16・午後20:00・気温20℃(@0:03〜) 
久しぶり(15日ぶり)にフクロウが水場に来てくれて、ほっと一安心。 
辺りを見回して安全を確認してから、歩いて水溜りSに入水。 

やがて水面に漬けた顔を左右に素早く振って、洗顔を始めました。
我々ヒトのように手を使って顔を擦り洗いすることができないので、フクロウはこの洗顔法を編み出したようです。 

洗顔中にフクロウが足踏みする理由が私には分かりません。 
これから本格的に水浴をするのなら、わざわざ泥で水を濁らせなくてもいいのに、と素人目には思ってしまいます。 
浅い水溜りの底を足で掘って少しでも深くしたいのでしょうか。 
水底に潜む獲物を探しているのかな? 
もしかすると、この水溜りは浅く見えても底なし沼のようになっていて、足踏みし続けないとどんどん沈んでしまうのかもしれません。

結局、最後まで見届けられずに2分間の録画時間が終わりました。


シーン2:7/21・午後22:11・気温27℃(@1:40〜) 
5日後の晩遅くにもフクロウが写っていました。 
最近イノシシがヌタ打ちしたり泥濘を掘り返したりしたせいで、水溜まりSの地形が少し変わってしまいました。(映像公開予定) 

フクロウが後ろ向きで入水すると、水溜まりの中で足踏みしながら方向転換しました。 
このときコウモリの一種が上空を飛来しました。 
しかし何度も旋回するだけで、フクロウが来ている間は水溜りの水面に着水しませんでした。 
コウモリは超音波によるエコロケーションで、水場の状況をしっかり把握しているようです。 
飛びながら虫を捕食しているのでしょう。

フクロウは周囲を飛び回るコウモリを気にせずに、洗顔開始。 
泥水に脚を浸しながら、辺りをキョロキョロ見回しています。
今回も飛び去るまで見届けられませんでした。 


シーン3:7/22・午後23:15・気温22℃(@3:12〜) 
翌日も深夜にフクロウが来ていました。 
此岸から泥濘を歩いて入水すると、キョロキョロと辺りを見回しています。 
やがて力強く羽ばたくと、左上に飛び去りました。 
なぜか今回は洗顔も水浴もしませんでした。 
熱帯夜というほど気温は暑くないのですが、体を水で冷やしに来ただけのようです。 
それとも何か異変があって逃げたのかな?


シーン4:7/22・午後23:19(@3:55〜) 
3分後にフクロウが戻ってきました。 
(個体識別できていないので、別個体の可能性もありえます。) 

水溜りに入ると、すぐに顔を洗い始めました。 
辺りをキョロキョロ見回して警戒を怠りません。 


※ 水音や羽音が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


【考察】
結局この時期のフクロウは、水溜りで本格的な水浴をしてくれませんでした。 

神垣健司『森の賢者 フクロウ』という本を読んでいたら、「第4章 水場のフクロウ」に私が観察したことと同じ行動が書いてありました。
水場が浅いせいか、フクロウは水場でからだを前屈みにして、まるで顔を洗うように水を浴びる。水場をぐるぐる歩きながら、顔を水につけて洗っていることもあった。雨に日にも(原文ママ)水場で水浴びをするが、雛が巣立って森を離れるとフクロウは水場に姿を見せなくなる。(p42より引用
筆者のフィールドは広島県で、YouTubeチャンネルも開設しておられます。

つづく→

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