2024年2月上旬
根雪の積もった平地の二次林でニホンアナグマ(Meles anakuma)が冬眠している営巣地(セット)を自動撮影カメラで見張っています。
近所のホンドタヌキ(Nyctereutes viverrinus)が通ってくる様子をまとめました。
シーン1:2/6・午前0:30・降雪・気温-2℃(@0:00〜)
ボタ雪が激しく降りしきる深夜に単独行動のタヌキaが左からやって来ました。
雪が積もっても開口しているアナグマの巣口Rにタヌキaは頭を突っ込んで、しばらく中の様子を伺っています。
驚いたことに、タヌキaはそのまま狭い巣口Rをくぐり抜けて奥に押し入りました。
主であるアナグマは巣内でぐっすり冬眠中らしく、怒って侵入者を追い払うことはありませんでした。
これでまさしく「同じ穴の狢 」状態になりました。
このまま一晩一緒に過ごすのでしょうか?
地下に堀り巡らされた巣穴の構造がどうなっているのか全く分かりませんが、もしかすると複数の居住区に分かれていて、越冬期間も空き部屋があるのかもしれません。
タヌキa |
シーン2:2/6・午前0:49・降雪(@0:40〜)
18分後にタヌキaは同じ巣穴Rから外に出てきて左に戻っていきました。
監視カメラの起動が遅れて出巣Rの瞬間を撮り損ねたのですが、雪面に残るタヌキの足跡を映像の境目で見比べると、新たな別個体が右から登場したのではないことが読み取れます。
家主のアナグマが怒ってタヌキaを追いかけることもありませんでした。
シーン3:2/6・午後23:18・気温-4℃(@0:56〜)
明るい日中は誰もセットに現れず、深夜になると雪は降り止んでいました。
林床の雪面がボコボコなのは、落葉樹上から落雪したのでしょう。
右から単独でやって来たタヌキbが、開口したアナグマの巣口Rを見つめ、ゆっくり頭を突っ込みました。
その後に入巣Rしたかどうか残念ながら見届けられず、1分間の録画時間が終わりました。
尻尾の黒班を比べると、前夜に来た「穴があったら入りたい」タヌキaとは別個体でした。
アナグマの巣内で一休みしてから22時間半前に出巣Rした別個体タヌキaの残り香を気にしていたのかもしれません。
シーン4:2/7・午後19:10・降雪・気温0℃(@1:56〜)
翌日の晩は再び雪が降っていました。
巣穴R内で一晩アナグマと同居したタヌキbが巣穴Rから左外に出てきた直後のように初めは見えました。
しかし湿った新雪に残る足跡を注意深く読み解くと、この個体cは画面の手前から来て右から回り込んで巣口Rの手前を左に通り過ぎていただけと分かりました。
トレイルカメラのセンサーが反応しにくいルートで登場したのです。
しかも尻尾の黒班を見ると、タヌキbとは明らかに別個体で、タヌキa=cかもしれません。
タヌキaはアナグマのもう一つ別な巣口Lの匂いを嗅いでから、最後は手前に立ち去りました。
※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。
【考察】
ホンドタヌキの尻尾に現れる黒斑を頼りに個体識別を試みると、2晩に複数個体(2頭?)が代わる代わるニホンアナグマの越冬用営巣地にやって来ていました。
冬眠中のアナグマが巣内で寝静まっているのを確認できたのか、タヌキは大胆にもアナグマの巣穴に潜り込みました。
ただしアナグマを追い出して完全に巣穴を乗っ取るつもりはなく、ときどき一時的な避難所(休憩所、シェルター)として間借りさせてもらうだけのようです。
雪が激しく降る夜だったので、餌を探し歩く途中でアナグマの巣穴に立ち寄って休憩したのでしょう。
巣穴の中に何か餌があるのでしょうか?
巣内の様子を見ることはできないので、推測するしかありません。
アナグマは脂肪蓄積型の冬眠動物ですから、野ネズミのように巣穴の中に餌を貯食したりしません。
アナグマの巣穴に居候している野ネズミを侵入タヌキが捕食したり、その貯食物を盗み食いすることはあり得るかもしれません。
まさか、冬眠中で無抵抗のアナグマを侵入タヌキが隙あらば捕食しているのでしょうか?
想像するだけでも、かなりのホラーです。
しかし、18分の滞在後に巣外に出てきたタヌキの体は血に染まっていませんでした。
もしタヌキがアナグマの捕食者ならば、普段からアナグマはタヌキに対してもっと敵対的に接するはずです。
「同じ穴の狢」のような慣用句が昔からあるということは、タヌキはアナグマを獲物として捕食するよりも、穴掘り職人として利用(片利共生)する方が進化的に得策なのでしょう。
『日本の食肉類:生態系の頂点に立つ哺乳類』という専門書の第8章:金子弥生「ニホンアナグマ」によると、そもそも冬眠中のアナグマは無抵抗ではないらしい。穴ごもりは長期間1ヶ所の巣穴で動かずにほとんど眠って過ごす点においては冬眠と似ているが、体温低下が見られず、危険がある場合はすぐに動き出すことができる。(p183より引用)
アナグマの巣穴の中で集団越冬する虫をタヌキは捕食していたのかもしれません。
実際、秋にはカマドウマと思われる穴居性の昆虫を目当てに夜な夜なタヌキを始めとする野生動物が捕食に通っていました。
巣穴の主であるアナグマや野ネズミも、巣内で虫を見つけ次第、捕食しているはずです。
したがって、巣穴の中で集団越冬する虫がいたとしても、既にほとんどが捕食され尽くしたのではないかと思われます。