2014年8月上旬
▼前回の記事
ミズナラの樹液を吸うムナビロオオキスイ
里山の雑木林でミズナラの幹から滲み出る樹液にムナビロオオキスイ(Helota fulviventris)が群がって吸汁していました。
食事の合間に興味深い闘争行動が観察できました。
撮り初めは二匹だったのですが、左からもう1匹のムナビロオオキスイが歩いて来て酒宴に加わろうとしました。
先客の腹端を背後から頭突きして追い払いました。
「後ろから襲うとは卑怯なり!」と怒ったかどうか分かりませんが、相手に反撃されても負けません。
敗者はすごすごと左手の樹皮の下に退散しました。
顔だけ出して向き直り、樹液酒場の順番を待つようです。
樹液スポットに残った2匹は正面から頭突きをし合って小競り合いしています。
頭突きというよりも、正確には鋭い大顎で噛み付こうとぶつけ合っているのかもしれません。
なんとか2匹で場所取りの折り合いがついたようです。
映像の後半は捲れた樹皮(シェルター、隠れ家)を巡る喧嘩のシーンをまとめてみました。
『樹液に集まる昆虫ハンドブック』で近縁種ヨツボシオオキスイの解説文(p53)によれば、次の習性があるそうです。
樹皮の隙間に好んでもぐりこもうとするが、そのような場所のない木では、樹皮の窪みに貼りつくように止まっている。
私が接写していると、樹皮の下に隠れようとした個体が先客と小競り合いになりました。
隠れ家から先客を追い出すこともありました。
個体識別のマーキングを施してじっくり観察してみれば、力関係の序列が分かるかもしれません。
ムナビロオオキスイの性別を見分けられたら、闘争の勝率と性別との関連を知りたいものです。
交尾相手の♀をめぐって♂同士が戦っても良さそうなものですけど、私が少し見ていた限りでは、争いの種は食料(樹液)と住居(樹皮下の隠れ家)だけでした。
近縁種ヨツボシオオキスイの性別判定を解説したtakao_bwさんのブログ記事を見つけたのですけど、ムナビロオオキスイの雌雄判定はまた違うみたいです。
2014年8月上旬
山麓を走る農業用水路の脇の草地で見つけた黄色いイトトンボです。
あまり落ち着きがなく、少し飛んでは止まる場所を変えています。
複数個体を撮影。
全く初めて見る種類なので、同定のため撮影後に1匹採集しました。
図鑑で調べると、その名もずばりキイトトンボ(Ceriagrion melanurum)の♂でした。
腹端の黒い縦筋がお洒落ですね。
体色が性的二形で、♀の体は黄緑色らしい。
成虫は羽化した後も、水辺から離れない。(『ヤマケイポケットガイド18:水辺の昆虫』p29)
との記述もその通りでした。
以下は標本写真。
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| 副性器 |
2014年8月上旬
山道の休憩処(東屋)のコンクリート床面をクロオオアリ(Camponotus japonicus)のワーカー♀(働きアリ)が餌を探して何匹も徘徊しています。
童謡「お使いアリさん」の歌詞「あんまり急いでこっつんこ、アリさんとアリさんとこっつんこ♪」にある通り、出会い頭に2匹が激しい喧嘩を始めることがあります。
巣の位置は不明ですが、敵対する別のコロニー出身なのでしょう。
大顎で噛み合いながら、腹側前方に屈曲した腹端から蟻酸を噴出して争います。
(クロオオアリは毒針を持ちません。)
喧嘩別れした後は身繕いして蟻酸の付着した触角を拭っています。
大型のクロオオアリが小型の個体を出会い頭に噛み殺しました。(@1:22〜1:45)
体格差があり過ぎると、このようなことも起こるようです。
瀕死の小型個体を餌として巣に持ち帰らずに立ち去りました。
獲物が小さ過ぎて、巣に持ち帰るコスト(労働量)に見合わないのでしょうか。
とても好戦的で喧嘩っ早く、化学兵器(毒ガス)による闘争シーンを複数個体で撮影することができました。
後で思うと、こういう時こそ魚露目レンズの出番だったかもしれません。
▼つづく
クロオオアリ♀出会い頭の挨拶
喧嘩直後の大型個体を1匹だけ採集しました。
標本写真。
【追記】
秋野順治 『アリの喧嘩の謎にせまる:どうやって巣仲間を見分けるのか』によると、
一般には、別の種類のアリに対するより、同じ種類でも別巣のアリに対して、より激しく攻撃を仕掛けます。私たちが見かけるアリの喧嘩は、そのような家族間の抗争なのです。 (ポピュラーサイエンス『動物たちの気になる行動(1)食う・住む・生きる篇』p54より引用)
クロオオアリでは、巣仲間を数日間離れ離れで飼育すると、互いを巣仲間として見分けることができなくなり、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいます。(同書p56より)