サイカチの木の棘だらけの枝先にイラガ(Monema flavescens)の繭があちこち作られているのを見つけました。
春になってから(4月)、害虫駆除と称して繭を大量に採集してきました。
手の届く範囲だけでも15個と豊作です。
成虫の羽化を観察するのと被寄生率を調べるのが目的です。
2本のサイカチ枝が交叉した部分という風変わりな場所に作られた繭を採集する際に、枝を無理に引き剥がそうとしたら硬い繭が割れてしまいました。
背面 |
側面 |
腹面 |
中身は意外にも未だイモムシ様の前蛹でした。
『イモムシ・ハンドブック』p54によると、イラガは前蛹で越冬するらしい。
なーるほど。
冬にアカゲラが嘴でイラガの繭を砕いて捕食するのを観察したことがあります。
繭から引きずり出して食べていたのはイラガの蛹ではなく前蛹ということになります。
閑話休題。
幸い体が傷ついていないようなので、前蛹を割れた繭から取り出して清潔なプラスチック容器に移してみました。
蛹化および変態の様子を観察できる絶好の機会です。
果たして剥き出し(裸)の状態でうまく育ってくれるでしょうか?
2012年5月上旬・室温24℃
それまで大人しかった前蛹がある日、容器内で激しく蠕動を始めました。
内径30mmの丸い容器内を壁に沿って前進しています。
遂には脱走しそうな勢いで壁を登り始めました。
越冬明けの前蛹にこれ程の運動性が保たれているとは知りませんでした。
特に遮光していないので、暗い所を探しているのだろうか。
剥き出しの状態では心細く、まさか繭を作り直すのかな?
もし食草を与えたら摂食するだろうか?
5秒間隔で93分間インターバル撮影した写真を元に早回し映像を製作。
蛹化の前兆かと内心では期待したものの、結局、前蛹は疲れ果てたように静止しました。
この意味不明の散歩は、単に休眠状態から目覚めただけなのかもしれません。
ひょっとして自然界でも狭くて暗い繭の中で前蛹がぐるぐると激しく寝返りを打っているのかもしれない…と想像すると楽しいですね。
レントゲンか何かでイラガ繭の中を透視できたら面白そうです。
イラガの蛹化【後日談】
明らかに居心地の悪い不自然な状況なので、蛹化前に激しい運動で消耗しないか心配でした。
そのまま前蛹の飼育を続けたところ(ただ放置するだけ)、20日後に最終脱皮を行い無事に蛹になりました(@5月下旬)。
成虫の羽化が楽しみです。
イラガの成虫出現期は6~9月とのこと。
つづく→「イラガ(蛾)の蛹が尻尾を回す運動」
【追記】
余談ですが、サイカチの棘について面白い豆知識を知りました。
植物は、さまざまに工夫をして、トゲを作っている。たとえば、バラやタラノキ、サンショウなどは表皮を変化させて、トゲを作っている。サイカチのトゲは、枝を針状にしたものである。 (稲垣栄洋 『たたかう植物: 仁義なき生存戦略 』(ちくま新書) p142より引用)