2011/01/09

繭塊から続々と脱出するコマユバチの一種(Cotesia sp.):5倍速映像




2010年10月下旬

(関連する、前の記事はこちらをクリック→。)

寄生蜂が繭塊から次々に脱出する様子を5倍速の早回しでお届けします。
じっと観察してみると、繭からの脱出がスムーズに進む個体ばかりではありません。
繊維が体に絡まり、羽脱にひどく苦労するケースもありました。
繭の繊維を噛み切る大顎を常に脱出の進行方向に向けておく必要がありそうです。
難産の個体は繭表面に対して接線方向に頭が向いてしまっています。
長い脚が繭の繊維に絡め取られたりすると致命的でしょう。
脱出の途中で手間取ると順番が追い抜かれてしまうことも。

繭塊からの脱出方向は特に決まっていないようです。
裏側からもどんどん脱出しています(映像なし)。

私の印象では、明確な重力走性や走光性などは特に無さそうです。
繭内に並んだ蛹の配列で脱出の向きは決定済みなのだろうか。
 

繭塊から羽化してくる仲間の傍らで付き添っている蜂がときどき居ます。
先発の♂が後から羽化してくる♀を待ち受けて即交尾するのかと期待したのですが、そう単純ではありませんでした。
仲間の脱出を助けることもありません。
身繕いしたり徘徊するだけで、特に求愛行動などは見られず没交渉です。
成虫の性比が偏っているのか、羽化後時間が経過しないと性成熟しないのかもしれません。
 


繭塊から羽化した寄生蜂の全個体を並べてみると壮観です。
上段の11匹が褐色のヒメバチ。残る39匹が黒いコマユバチ。

その後も五月雨式に成虫が羽化してくるので、飼育容器をそのまま放置。 
蜂が出尽くした11月中旬に死骸を回収して調べてみると、どうやら二種類の蜂が混じっているようです。
黒っぽい体で初めに羽化してきた蜂が♂と思われます。(雄性先熟)
とても小さな蜂なので、接写するのも一苦労。
重要な特徴となる翅脈を記録するために、いつものように標本の翅を根元から切り落とそうとしました。
しかし余りにも小さな体のため、不器用な私の手には負えず断念。
特に肝心な後翅の翅脈が極めて不鮮明で、私にはヒメバチ科/コマユバチ科の区別も付きません。
黒タイプは全個体を記録するのは無理なので、16匹(a~p)だけランダムに選んで接写しました。 
腹端が少し尖っているので、これが産卵管なのか(=♀)と初めは混乱しました。


右下は羽脱後の繭塊




数日後、飼育容器内に白っぽい体の個体が少数混じっているのに気づきました(映像はこちらの記事参照)。
当初はアルビノ(白色変異)みたいな変異個体かと思ったのですが、おそらくこれが♀なのでしょう。
腹端の長い産卵管が目につきます。 
死後は褐色でした。 

先陣を切って羽化した黒い♂よりも♀は少数派ながら長生きしました。    
先陣を切って羽化した黒色タイプよりも褐色タイプは少数派ながら長生きしました。





もしかすると全くの別種なのかもしれませんが(重寄生? 共寄生?)、同種の性的二型だとする私の勝手な素人予想が正しければ、性比は♂:♀=39:11=3.55:1。
黒色コマユバチ:褐色ヒメバチ=39:11=3.55:1。

≪追記≫
蜂類情報交換BBSに投稿したところ、この2型は同種の雌雄ではなく、黒い蜂はコマユバチ科で褐色の蜂はヒメバチ科だろうとご教示頂きました。
同一個体の寄主に共寄生したのか、あるいは二重寄生ということになりますね。 
自然界の寄生現象は複雑怪奇でとても一筋縄では行きません。
更にコメントを頂きました。
「今回のヒメバチについてですが、高次寄生や二次寄生のヒメバチで検索した結果、フタオヒメバチ亜科かもしれません。翅脈にひし型の鏡胞があるのが特徴とありますがいかがでしょうか。」


フタオヒメバチ亜科の主な生態としては、
「多くの種が、外部あるいは内部寄生のヒメバチ上科やヤドリバエに寄生する二次寄生者。しばしば夜間灯火に飛来する。」


続いてヒメバチの専門家の方より次のコメントを頂きました。
「このヒメバチは、フタオヒメバチ亜科の一種です。ヒメフタオヒメバチあたりではないかと思いますが、やはり、標本を見なければ何とも言えません。コマユバチが寄主の中にいる内に寄生したものと思います。」

交尾求愛編につづく




集団で冬尺蛾を狩るクサグモ幼体



2009年12月上旬

クサグモAgelena silvatica)幼体の飼育容器に今度は蛾を投入してみました。
獲物の素性について虫我像掲示板にて問い合わせたところ、この冬尺(前翅長~15mm)はウスバフユシャク♂(Inurois fletcheri)と教えて頂きました。


棚網で蛾が暴れると、体長差をものともせず、クサグモ幼体が何匹も集まってきて集団捕食の開始です。
数時間前にハエを与えたばかりなので腹が満たされているのか、狩りに参加する幼体の個体数が少ない気がします。
獲物の脚に噛み付いて引っ張ったり、胸背にまたがって噛んだりしています。
噛み付いたままその場で外消化・吸汁しているようで、糸によるラッピング行動は示しませんでした。 

≪追記≫
残念ながら、これ以上飼育下でうまく越冬させることは出来ませんでした。

集団でハエを捕食するクサグモ(蜘蛛)幼体



2009年12月上旬

クサグモAgelena silvatica)幼体の飼育容器に小さなハエ(種名不詳)を投入してみました。
出嚢して以来、初めて与える生き餌です。
もう冬なので雪国では餌となる虫を見つけてやるのも一苦労です。
容器内に不規則に張り巡らせた棚網の糸に粘着性は無いものの、ハエは網に足を取られて歩きにくそうです。
やがて腹を空かせたクサグモ幼体が何匹も集まってきました。
ハエの方が大きいので警戒してしばらくは遠巻きに様子を眺めています。
飛ぶ元気もないようですが身の危険を感じたのかハエが暴れて網を壊しながら容器の下に落ちると、一斉にクサグモ幼体が食いつきました。
ハエはあっという間に体液を吸い尽くされてしまいました。
後半は獲物の横でクサグモ幼体同士の小競り合いも見られました。 
クモが集団で捕食するシーンを初めて目撃して興奮しました。
なかなか凄い迫力です。
日本にはいない珍しい社会性クモの狩りの話を彷彿とさせ、興味深く思いました。
ただし、狭い容器に閉じ込めたままクサグモ幼体を高密度で同居させているので、かなり不自然な状況である可能性が高いでしょう。
自然界では出嚢した幼体はすぐ分散して各自が単独生活を送るものと思われます。
共食いさえ防ぐことが出来れば、集団で飼育すると棚網が出来上がるのも早く、好都合かもしれません。
つづく


【追記】
『クモのはなしII:糸と織りなす不思議な世界への旅』p186-187によると(第24章 社会生活をするクモ)、

 アゲレナ・コンソシアタ ――この社会性のクサグモ(タナグモ科)は西アフリカのガボン共和国に棲んでいて、一次林のやぶに直径三メートルにも及ぶ巨大な棚網をつくります。この網の中には最大1000匹をこえるクモが共同生活をしていて、網づくりも餌とりも共同でなされます。そうすることで彼らは単独では捕獲できないような大きな餌をとれるのです。


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