2023年10月中旬・午後14:10頃・晴れ
里山で砂利が敷かれた林道にクリ(栗)のイガや落果が大量に散乱し、往来する車によって踏み潰されていました。
山に自生するクリの木から落ちたのではなく、砂利道の左右は栗園になっていて、大規模に植栽されたクリ(栗)の木が大きく育っていました。
栗園の道端に巨大な獣糞を見つけました。
タヌキの溜め糞でもなさそうですし、1回分の排泄物だとすると、おそらくツキノワグマ(Ursus thibetanus)の大便だと思われます。
採寸代わりに、熊よけスプレー(長さ20cm)を糞塊の横に並べて置いてみました。
糞の表面はやや乾いていたものの未だ新鮮で、糞虫やハエなどはなぜか来ていませんでした。
即席で糞分析をしてみることにしました。
拾った小枝を使って糞塊をほぐしてみると、柔らかい触感で、薄い黄土色のペースト状になりました。 (※追記参照)
作業中にクマの糞塊から小型のコオロギがピョンと跳んで逃げたような気がしたのですが、見失ってしまいました。
関連記事(2年前の撮影)▶ タヌキの溜め糞に含まれる未消化の種子を食べるモリオカメコオロギ♂
どうやらツキノワグマがクリの堅果(落果)をたらふく食べた後に排便したようで、糞の中に未消化の種子は含まれていませんでした。
関連記事(翌月の撮影)▶ ツキノワグマは山中の給餌場でクリの実を食べるか?【トレイルカメラ:暗視映像】
本格的に調べるには獣糞を水で洗い流しながらザルで濾す必要があるのですが、少なくともアケビやカキノキの種子のような分かりやすい種子は出てきませんでした。
クリの実(堅果)を食べたのなら、茶色い果皮の断片が糞に含まれていそうなものですが、ありませんでした。
噛み砕いてから果皮を吐き出すのかな?(※追記参照)
糞分析に使った小枝の先端に付着した糞におそるおそる鼻を近づけて匂ってみたのですが、驚くことにほぼ無臭でした。
なんとも形容し難い生臭さだけで、いわゆる糞便臭はありませんでした。
関連記事(4年前の撮影)▶ ツキノワグマの糞塊をほぐしてみると…
ツキノワグマは食肉目特有の単純な構造の消化器官を持っているため、多くの植物質の食物の消化効率はよくはない。そのため、一度に大量に摂取することができる植物を食物として選択し、(中略)できる限り採食効率を高めていると考えられる。(『日本の食肉類: 生態系の頂点に立つ哺乳類』第9章:ツキノワグマp214より引用)
クマはクリの実を噛み砕いて食べるので、排泄した糞からクリが芽生えることはありません。
したがって、クリにとってツキノワグマは種子捕食者になります。
野ネズミがクリの落果を持ち去って冬の食料として貯食しますが、食べ忘れた少数のクリから発芽します。
つまりクリの種子は貯食型の動物散布で分布を広げます。
現場のクリ園は電気柵で囲われていないため、ツキノワグマが自由に出入りして食べ放題になっています。
つまり、現状ではクマを里山で餌付けしていることになります。
2023年10月18日のNHKニュースによると、山形県にクマ出没警報が発令されました。
「ことしは、クマの好物であるブナの実が凶作」とのことです。
(なんか、毎年同じこと言ってない?)
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※【追記】
山形県と秋田県をフィールドとしてツキノワグマの調査を続けておられる永幡嘉之さんの著作『クマはなぜ人里に出てきたのか』を読むと、個人的な謎が解けました。
ミズナラやクヌギのドングリを食べたクマの糞を見て、違和感をおぼえました。まるでモンブランのようにペースト状で、殻が含まれていないのです。それは各地で見たクリでできた糞についても同じです。クリを食べた跡を観察した際には、外側の固い皮(鬼皮と呼ばれます)が地面に散乱していました。実の大きなクリならまだわかるのですが、より小さいミズナラまで殻を外して食べています。その際に手を使うとは考えられませんので、おそらく口のなかで皮を外しているはずなのです。一方で、ブナの実を食べたクマの糞には、常に殻がびっしりと詰まっていますし、より実が小さなソバやイネでも同じです。(p95より引用)クマがクリを食べた跡。鬼皮と呼ばれる殻だけを外している。(p129に掲載された写真のキャプションより引用)
野ネズミもクリの落果を食べたり持ち去って貯食したりするはずですが、野ネズミ/クマによるクリの食痕は見分けられるのでしょうか?
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