2022年7月下旬
里山のスギ林道に残された溜め糞場sを自動撮影カメラ(トレイルカメラ)で監視していると、ニホンアナグマ(Meles anakuma)が深夜に現れました。
前回の記事:▶ タヌキと同じ溜め糞場に排便するニホンアナグマ【トレイルカメラ:暗視映像】
シーン1:7/23・午前4:08(日の出時刻は午前4:31)
未明に登場したアナグマは、右後脚を負傷しているのか、怪我をかばうように不自然な跛行をしていました。
「びっこを引く」という表現をヒトに対して使ってしまうと大問題の差別表現になりますが、野生動物の異常な歩行を正確に記述するのに必要なので、臆せず使わせてもらいます。
暗闇の林床でトゲを踏んでしまい、痛がっているのかな?
それとも生まれつき(先天性)股関節の奇形なのでしょうか?
しかも、この個体はアルビノ(白毛)かもしれません。
赤外線の暗視映像では顔の黒い縦縞模様が見えませんし、足も黒くありません。
比較対象として、ノーマルタイプのアナグマを同じトレイルカメラで撮らないことには、単なる白飛び(露出オーバー)の可能性が否定できません。
スギ大木の根元を通って林道を左へ立ち去りました。
と思いきや、すぐに左から戻って来ました。
素人目には排便したくて我慢しているように見えます。
溜め糞場sで脱糞を試みたものの、林道上に転がっている細長いスギ落枝の存在に驚いて左へ走り去りました。
暗闇で、今まで無かった異物に躓いたら警戒するのも当然です。
ちなみに、この落枝には野ネズミも吃驚仰天して慌てて逃げていきました。
後日、私が現場入りしたときに、この落枝を林道上から取り除いてやりました。
シーン2:7/26・午前2:13 (@0:34〜)
3日後の深夜、おそらく同一個体と思われるアナグマが登場。
歩き方がきわめて特徴的(跛行)なので、個体識別が可能です。
里山には天敵の捕食者(ニホンオオカミや野犬)が居ませんから、足が不自由でも生存可能なのでしょう。
平凡社『世界大百科事典』でアナグマを調べると、面白い記述を見つけました。
アナグマの脚は山腹を歩きやすいように両側で長さが不ぞろいであるとの伝承があり,英語で badger-leggedといえば足の長さが違う人を指す。跛行するアナグマは珍しくないのかもしれません。
股間に大きな睾丸が見えたので、♂のようです。
跛行アナグマ♂は溜め糞場sの周囲の匂いを嗅いだだけで、左へ立ち去りました。
すぐにまた画面下からヌッと再登場すると、辺りをウロウロと徘徊しています。
しゃがんでいかにも排便しそうな姿勢になっても、結局カメラの前では脱糞しませんでした。
どこで排便するか決めかねてウロウロしているのでしょうか?
林床の落葉を後ろ足で後方に掻き出す行動をしました。
イヌの脱糞直後の行動と似ています。
糞を土で埋める行動の名残なのかな?
最後は林道を右に走り去りました。
今回も溜め糞場で脱糞しなかったのは、細長い落枝の存在を嫌ったからでしょうか?
※ アナグマが画角から一時消えている間は、5倍速の早回し映像に加工しています。
当時の私はアナグマの観察歴が浅かったために、この個体の行動が理解できずに、排便を我慢しているのかと勘違いしました。
金子弥生『里山に暮らすアナグマたち: フィールドワーカーと野生動物』という本を読んでみると、第3-3章に「嗅覚によるコミュニケーション」として分かりやすくまとめてあり、勉強になりました。
肛門腺と臭腺の二つの器官を使って、アナグマは自分の巣穴の入口付近、けもの道の途中などにマーキングを行う。マーキングには「スクワットマーキング」と「アロマーキング」の二種類があることが知られている。スクワットマーキングは、アナグマがスクワットのような姿勢で腰をぺたんと地面や対象物に向けて落とし、尾を上げて臭腺を目的物にこすりつける動作である。アロマーキングとは、アナグマどうしのにおいつけであり、二匹のアナグマがおしりを向けて立ち、臭腺を直接たがいにこすりあう。(p64〜65より引用)
動画の個体は、溜め糞場の下草にスクワットマーキングして縄張り内の獣道に匂い付けしていたのだと初めて理解できました。
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