2018/01/22

ハシボソガラスによるメヒシバの種子散布?

高圧線の鉄塔#21でのハシボソガラス営巣記録#37


2017年8月下旬

繁殖期はとっくに終了していますが、久しぶりにハシボソガラスCorvus corone)の古巣#21の様子を見に来ました。
送電塔に多数の枯れ枝を組み合わせて春に作られた巣は、電力会社に撤去されることもなく残っていました。
巣が貧相に見えるのは、雛が巣立ってから風雨に晒されて巣材が少しずつ崩壊・脱落しているためでしょう。
記録のために撮った写真を拡大してみてみると、高所にある古巣から青々としたイネ科の雑草が生えていることに気づき、興味深く思いました。
穂の形状から、どうやら一年草のメヒシバのようです。




メヒシバの種子はタンポポやガマの綿毛のような風散布型種子ではありませんから、こんな高所に種子が自然に辿り着くことは絶対にあり得ません。
動物による種子散布の結果だとすると、「カラスの親鳥が雛鳥にメヒシバの実を給餌して、雛が未消化の種子を巣内に排泄した」というのが最も素直な解釈でしょう。
カラスの親鳥は雛が排泄した糞を甲斐甲斐しく巣外に運び出していましたが(排糞行動)、それでも巣内は糞で汚れていると思われます。
なぜなら鉄塔の真下が数多くの鳥の糞で汚れていたからです。

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最後の雛も巣立った後のハシボソガラス空巣とその真下の糞(野鳥)
しかし、6月中旬にはもうハシボソガラスの雛は全て巣立っていますから、メヒシバの花期(7〜11月)や結実期には間に合いません。
つまり、カラスの親鳥が雛に給餌している育雛期にメヒシバは実をつけていないはずです。

第二の可能性として、種子食性の他の野鳥(スズメやカワラヒワなど)が鉄塔で休んだ際に、たまたまカラスの巣の上で糞を落としていったのかもしれません。

後藤三千代『カラスと人の巣づくり協定』によると、カラスの親鳥が巣を作る際にさまざまな植物を練り込んだ土塊を巣の底(産座の下の基盤部)に詰めるらしいのです。


この土の塊がどのようにして運ばれてきたのかをみるために、巣の基盤部の塊の土を採り調べたところ、いずれからもハシボソガラスのDNAが見つかったため、カラスが口にくわえて運んできたことが推察される。電柱営巣の基盤部の土に混じってイネの籾殻や水田に発生するクログワイが見つかっており、多くの土は水田から運ばれている可能性が高い。 (p74-75より引用)
また、著者の研究グループがハシボソガラスの内巣の基盤部の土塊に混じっていた植物の茎や細い根を丹念に同定したところ、イネ科植物のリストの中にメヒシバも含まれていたそうです。(p48, 73)


(私はまだ実際にカラスの採土行動を観察したことはありません。)
その土に混入していたメヒシバの埋土種子が芽生えたという第三の可能性も考えられます。(この場合もカラスの採土行動は植物を助ける種子散布と呼べるのかな?)
高圧線の鉄塔にある古巣は日当たり良好ですけど、雨を保水する土壌が無いと植物は育たないでしょう。
古巣内に雛の糞などが残っていれば良い肥料になりそうです。
この古巣を回収して調べてみたいのですが素人には手が出せず、文字通り、高嶺の花です…。



【追記】
根本正之『雑草たちの陣取り合戦―身近な自然のしくみをときあかす (自然とともに)』という植物学の本を読んだら、メヒシバの種子散布戦略について知ることができました。
メヒシバは遠くまで種子を散布するための手段を特に持たず、種子自身の重さで近くに落下する重力散布種子なのだそうです。 (p15、p34より)



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