2014/06/23

シギアブの反向型交尾と連結飛翔



2014年5月下旬

里山の山道を歩いていると、飛んで来た異形の虫が葉の上に着陸しました。
変な虫だと思ったのは、2匹のハエが尾繋がりの状態で連結飛行していたからでした。
このハエ(ではなくてアブ、下記参照)は互いに逆を向いた姿勢で交尾しています。
連結したまま葉上を歩き回ります。
ハエの交尾といえば♂が♀の背後からマウントする体位だと思い込んでいたので、反向型交尾のハエを初めて見て衝撃を受けました。
(ケバエの仲間やシオヤアブの交尾では互いに逆向きに連結します。)
何らかの理由でマウントが外れて(♀に振り落とされて?)変な体位になったにしては、腹端が捻れている様子もありません。
これが本種の自然な体位なのでしょう。

マウント型で交尾する種類と反向型交尾する種類は交尾器の形状がきっと違うはずですよね。

とてもカラフルなお似合いのカップルで、頭部の色が性的二型です。
下の個体は複眼が発達しており♂と分かります。
上の♀は頭部が赤く、小さな複眼は薄青色。
翅は根本が褐色である他はうっすらと黒色です。

撮影中にお邪魔虫のクロアリが近づき、カップルは連結したまま飛んで逃げてしまいました。
採集できず残念…。



いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂・改
」掲示板に投稿して問い合わせたところ、アノニモミイアさんより以下の回答を頂きました。
画像の双翅類はいわゆるハエ(環縫類)ではなく,アブの仲間です。シギアブ科Arthroceras rubrifrons Nagatomi, 1966 に相当する種です。なお,Arthroceras japonicum Nagatomi, 1954 という種が記載されています。A. rubrifronsjaponicumとは色彩上の相違だけで,多分japonicum の亜種程度のものと思います(原公表(原記載)でもその可能性が示されています)。今回の画像からすると,雌の頭部が赤橙色ですので,rubrifrons に相当するものです。A. rubrifrons は東京から記載された種で,おそらく本州北部では♀の頭部がこのような赤橙色になるのでしょう。現在,rubrifronsjaponicumの亜種にした取扱はないと思いますので,画像のシギアブは現行の分類ではArthroceras rubrifrons Nagatomiでいいでしょう。
和名は多分ないかと思います。もしつけるとすれば,ズアカフシツノシギアブというところでしょうか。Arthrocerasはarthro=節,ceras=触角(角)の合成語ですし,ruburifronsはrubri=赤色,frons=前額 です。
Arthroceras属の入るシギアブ科は成虫の形態から判断するとムシヒキアブよりかなり原始的なアブでして,当然のことながら雌雄は頭部を反対に向けて交尾をします
本種についてさらに知りたい場合は,確かネット上で公開されている,Pacific Insects のvol. 8, no. 1, pp. 43-60 を参照すれば,Nagatomi, A., 1966. The Arthroceras of the world (Diptera: Rhagionidae) という論文が見れます。綺麗な(自画自賛?)着色図もあります。



【追記】
双翅目における交尾体位の進化について、興味深い研究論文を見つけました。(Open Accessなので、全文PDFをダウンロード可能)

INATOMI, Momoko, et al. Proper direction of male genitalia is prerequisite for copulation in Drosophila, implying cooperative evolution between genitalia rotation and mating behavior. Scientific Reports, 2019, 9.1: 210.

日本語による解説記事:

研究の背景

一対の翅(はね)をもつ昆虫グループである双翅目昆虫は、様々な交尾体位をとります (図1) 。蚊などの原始的双翅目では反向型交尾体位( 図1 上)をとるものが多く、ハエなどの高等双翅目では雄上位型体位( 図1 下)が一般的です。双翅目の交尾体位は反向型から雄上位型に進化したと考えられます。興味深いことに、双翅目昆虫の雄の生殖器は、分類群ごとに決まった角度で回転し、この角度は交尾体位と相関します (図2) 。例えば、蚊の雄生殖器は成虫になってからの形態の変化で180度回転し、交尾体位は反向型です。一方、ハエの雄生殖器は360度回転するため、最終的な雄生殖器の上下の向きは蚊とは逆になり、反向型体位の交尾では、雌に対する雄生殖器の向きも上下逆になってしまいます (図2) 。この状態でハエ本来の雄上位体位をとれば、雌雄の生殖器の向きは一致します。つまり、雄生殖器の回転角度と交尾体位は協調的に進化(共進化)したのではという仮説が立てられました。


研究の成果

この仮説を検証するために、松野教授らの研究グループでは、キイロショウジョウバエ(以下、ハエ)を用いた実験を行いました。このハエは、雄上位型交尾体位を取り、雄生殖器は360度回転します。「雄生殖器の回転角度に異常を示す」遺伝子突然変異ハエを用いて交尾実験を行ったところ、雄生殖器の正しい向きが交尾を行う上での前提条件であることを解明しました。また、生殖器の向きが異常な雄は、交尾がうまく行かないにもかかわらず正常な交尾行動を繰り返し、生殖器の向きの異常を交尾行動の調整で是正する能力を有しませんでした。この結果は、雄生殖器と交尾体位は協調的に進化する必要性があったことを示唆します。 

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