2020年9月下旬・午前11:30頃・晴れ
垂直の幹に止まり、腹端を樹皮に押し付けていました。
産卵行動です。
幼虫の食草はスミレのはずなのに、杉の幹に産卵するとは意外でした。
産卵中の♀は翅を半開きにしたまま静止しています。
飛び去った後、樹皮に産み付けられた卵が1粒ちらっと見えました。
杉の幹を下から上に飛んで移動しながら樹皮のあちこちに卵を産み付けています。
幹に止まるとミドリヒョウモン♀の翅裏は目立たない保護色となるので、何度も見失いそうになりました。
スギ樹皮の表面が緑色の粉を吹いているのは地衣類なのでしょうか?(あるいはカビの胞子?)
やがてスギの枝葉に隠れて蝶を見失ってしまいました。
スギの幹にはフジの蔓が巻き付いていたものの、今回ミドリヒョウモン♀はフジに産卵することはありませんでした。
スギの樹皮はミドリヒョウモンの幼虫の食草ではないので、素人考えでは餌不足による幼虫の共倒れを防ぐために1粒ずつ分散して産み付ける必要はないような気がします。 越冬卵が野鳥に全て捕食されるのを避けるためのリスクヘッジなのかな?
幹のかなり高い地点まで(目測で6〜7m)ミドリヒョウモン♀は繰り返し卵を産み付けていました。
ここは北国でも豪雪地帯です。
ミドリヒョウモン♀が「虫の予感」を発揮して卵が冬の雪に埋もれる高さを避けているのだとすると、この冬はよほどの積雪量が予想されるのかもしれません。(予報は的中!)
ロマンあふれる似たような仮説はオオカマキリでも提唱されたことがあるのですが、残念ながら科学的には後に否定されたと聞いています。
ミドリヒョウモンではどうなのか、駄目元で誰か調べたら面白いかもしれません。
しかし、ヒョウモンチョウの卵はカマキリの卵鞘よりはるかに小さくて見つけにくいので、フィールドで調べるのは至難の業(ほぼ不可能)でしょう。
雪の降らない暖地では立木に産卵するにしても地上からの高さは低くなる、という傾向があるのかな?
母蝶♀が産卵する瞬間を観察するしかありません。
私も厳冬期に現場を再訪して最高積雪量と産卵地点との関係を調べたいところですが、あまりにもアクセスが悪い山奥なので無理そうです。
山スキーを履いて行くだけでなく、雪中野営する本格的な冬山装備が必要です。
採卵して根雪に埋めると生存率(孵化率)が下がるという飼育実験は(やろうと思ったら)出来そうです。
そもそも私はミドリヒョウモン♀が食草のスミレに産卵するのを一度も見たことがありません。
この日の山行で一番の収穫でした♪
ところが、いそいそと帰宅して図鑑や本を色々と調べてみると、私が知らなかっただけで既に報告されており、拍子抜けしました。
『フィールドガイド日本のチョウ』p197によれば、
(ミドリヒョウモンの)♀は樹木の樹冠部に産卵する。
久保快哉 編『チョウのはなしII』によると、
ミドリヒョウモンは秋になって食草のスミレがありそうな樹林の中にやってくると、あたりの立木の樹皮などに卵を産むのです。春になって孵化した幼虫は、木を伝ってスミレにたどりつくのですが、わずか2mmくらいの仔虫にとって、ときには10m以上もの道のりは苦難の旅立ちといえましょう。(p13より引用)
『日本動物大百科9昆虫II』によると、
1卵ずつ産む産卵様式は大型ヒョウモンチョウ類でも見られるが、このグループでは卵は食草に産みつけられるのではなく、食草の自生する生息場所内の立木、枯れ枝、小石、コケ類、その他に産みつけられる。(p48より引用)