2025/01/07

冬眠の合間に覚醒したニホンアナグマは巣外で歩行も覚束ない【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年1月下旬 

シーン0:1/22・午後13:46・くもり・気温20℃(@0:00〜) 
明るい日中にたまたま撮れた現場の状況です。 
雪が積もった平地の二次林でニホンアナグマMeles anakuma)が越冬する2つの巣穴を同時に1台の自動撮影カメラで監視しています。 
今季は異常な暖冬で積雪が少なく、まるで早春のように林床の地面があちこちで露出しています。 


シーン1:1/23・午後18:41・気温-1℃(@0:04〜)日の入り時刻は午後16:54。 
真っ暗な晩に、巣穴Rから外に出てきたばかりと思われるアナグマが広場の地面に居ました。
鼻面を上げて風の匂いを嗅いでから、辺りをゆっくり歩き始めました。 
この個体は左右の目の大きさに差がなく、ここで出産・育児した母親♀(右目<左目)ではなさそうです。 
林床の濡れた(凍った)落ち葉の匂いを嗅ぎながら、ゆっくり進みます。 
冷たい残雪の部分をわざわざ歩くことはありませんでした。 
巣口Lへ近づいたものの、中に入ったかどうか、見届ける前に録画が打ち切られました。 


シーン2:1/23・午後18:46(@1:04〜) 
4分後、巣外をうろつくアナグマが、いつの間にか巣口Rまで戻ってきていました。 
巣口Rを塞ぐように生えた細いマルバゴマキの灌木が邪魔で歩きにくそうです。 
その細い木をまるで綱渡りのように伝って渡ろうとしたら、滑って転んでしまいました。 
立ち上がるのも難儀しています。 
生まれたばかりの幼獣ならともかく、成獣のアナグマがこれほど歩行が覚束ない状態なのは夏には見られませんでした。 
冬眠で体力が消耗しているようです。 
空腹と寒さで凍えているのかな? 
擬人化すると、まるで泥酔状態か足が痺れている状態のように見えます。 

地面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくり右へ向かっています。 


シーン3:1/23・午後18:56(@2:04〜) 
8分後、アナグマは巣口Rに戻ってきていました。 
巣口Rから伸びるマルバゴマキの細い落葉灌木の幹の匂いを嗅ぎ、前脚を掛けました。 
まだ寝ぼけているのか、2本の灌木の狭い隙間に、なぜか体をねじ込もうとしています。 
進路を遮る障害物を迂回するのも億劫なのでしょうか? 
灌木の根元の匂いを嗅いでいます。 


シーン4:1/23・午後19:03(@3:04〜) 
6分後に監視カメラが再び起動したときにも、アナグマは巣口Rでぼんやり佇んでいました。 
辺りをキョロキョロ見回しているだけです。 
動きがあまりにも緩慢なので、5倍速の早回し映像でお届けします。 


シーン5:1/23・午後19:05(@3:16〜)
巣口Rでじっとしているアナグマの上半身がヒクヒクと震えているのは、体温を上げるための不随意運動(シバリング)なのでしょうか? 
冬眠から覚醒したアナグマの体温がシバリングで急上昇しているのか、サーモグラフィカメラで撮影できたら面白そうです。 
別の可能性として、咳をしてるのかと思ったのですが、音量を上げても聞き取れませんでした。 
雪がちらつき始めました。 


シーン6:1/23・午後19:10(@3:28〜) 
アナグマがようやく少し移動したと思ったら、すぐに体勢を崩して巣口Rの窪みに滑落しそうになりました。 
なんとか不格好に体の向きを変えました。 


シーン7:1/23・午後19:15(@4:12〜) 
4分後、アナグマはいつの間にか、セットの右端まで移動していました。 
真っ直ぐ巣穴Rに向かい、ようやく巣内に潜り込みました。 
緩慢だった動きが少しスムーズになったようです。 
体温が充分に上がり、運動機能が少し回復したのでしょうか? 
ところが、巣口Rを塞ぐ細い灌木(一種の防犯装置?)が邪魔で、乗り越えて入巣Rするのにもたついています。 
気温の高い夏にはスムーズに入巣Rできていたはずなのに、これほど苦労するとは、何か運動障害や神経障害を疑いそうになります。

※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


【考察】 
私の手違いで、動画を公開する順番を逆にしてしまいました。 
この後しばらくしてから(1時間半後)、アナグマは再び巣外に出てきて巣材集めをしたのです。 

私は野生のニホンアナグマの観察を始めて未だ1年目なので、今回見られた行動が普通なのかどうか判断できません。 
異常な暖冬がアナグマの冬眠・覚醒リズムに悪影響を与えている可能性もありそうです。 
 冬のニホンアナグマは、トーパーという低体温(心拍数も下げる)の冬眠状態から定期的に目覚めるのだそうです。 
ときどき巣外に出て新鮮な空気を吸ったり体を動かして血流を回復させたりしないと、組織が壊死したりエコノミークラス症候群のようになったりするのかもしれません。 
まるで足がジンジン痺れたヒトを見ているようだと思ったのは、あながち間違いではなさそうです。 
しかし、これほど動きが緩慢で歩行も覚束ないのでは、巣外で天敵(腹を空かせたキツネやイヌなどの捕食者)に襲われたら、素早く逃げたり自分の身を守るために戦ったりできないのではないか?と心配になります。 


私がバイブルとしている本、金子弥生『里山に暮らすアナグマたち:フィールドワーカーと野生動物』には、「アナグマたちの冬」と題した章があります。 
筆者が関東のアナグマで調べた結果によると、
・(飼育下でも)5ヶ月間微動だにせずに眠り続けたわけではなく、10日から2週間眠り続けてはときどき目を覚ます、という状態だった。 
・母親と当歳の子どもたちは、生まれ育った巣穴ではじめての冬を一緒に過ごして、穴ごもり後の冬を一緒に過ごして、穴ごもり後の春になってから離れていく 
・穴ごもりによる越冬は、アナグマ属のすべて行うわけではない。(中略)今の所、ロシア極東の個体群と日本の個体群が穴ごもりをするとされているが、日本国内どこでも穴ごもりをするのか、世界のほかの地域ではどうなのか、今後研究が必要である。 (p72〜73より引用)
抜粋したポイントの2つ目については、私が観察しているアナグマでは当てはまらない気がしています。 
個体識別がろくにできていないのですが、少なくとも母親の姿を越冬用巣穴で見ていません。 


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