2022/10/26

タヌキの溜め糞場から糞の欠片を後ろ向きに転がして運ぶオオセンチコガネ

 

2022年7月下旬・午後13:20頃・晴れ 

里山のスギ林道でタヌキとアナグマが共有している溜め糞場sに行くと、新鮮な糞が3ヶ所に点々と残されていました。 
溜め糞には様々な食糞性昆虫やそれを捕食する昆虫が群がり、ひとつの生態系(食物連鎖)を形成しています。 
監視カメラに記録された映像を見直すと、糞塊の一つ(杉の木に一番近い地点の軟便)はニホンアナグマの糞と分かったのですが、今回はホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した健康そうな固形糞塊に注目します。 

背面が鮮やかなピンク色の金属光沢に輝くオオセンチコガネPhelotrupes(Chromogeotrupes) auratus auratus)が1匹で「糞転がし」をせっせと繰り返していました。 
腹面はメタリックグリーンです。
タヌキの新鮮な固形糞をオオセンチコガネは先の尖った頭楯で崩して適当な大きさに千切ると、後退しながら前脚で糞玉を引き込むように転がして運びます。 
『ファーブル昆虫記』に登場するフンコロガシは逆立ちの姿勢になり後脚で糞玉を押して運びますが、オオセンチコガネの運び方とはまるで違います。
オオセンチコガネが糞を転がしやすいよう球形に整形することはありません。 

糞玉が大き過ぎてうまく転がせないと分かると、頭楯で突き崩して細かくします。 
せっかく糞玉を細分化したのに、繊維質が多くて気に入らず、その場に捨て去ることがありました。 
オオセンチコガネは運ぶ糞の質を選り好みすることが分かりました。 
そもそも、アナグマの糞よりもタヌキの糞を選んで持ち去っています。
糞玉よりも自身が先に巣内に入る結果、巣口が糞玉で塞がれることになります。 

林道上に散乱するスギの落葉や落枝が障害物となり、糞を転がすのに苦労しています。 
特に、太い落枝を乗り越えて糞玉を運ぶのは無理なようです。 
現場の林道は緩やかな坂になっているのですが、地面に敷き詰められた落ち葉の摩擦のおかげで、運搬中の糞玉が勝手に坂を転がり落ちてしまうことはありませんでした。 
オオセンチコガネは行く手を後脚で地ならし(整地)してから糞玉を運ぶことがあります。 
地ならしというか、障害物を予めどけていました。 

糞塊の近くのスギ落葉の下にオオセンチコガネの巣穴があるようで、そこに糞玉を繰り返し搬入していました。 
他種の糞虫に横取りされないように餌を独り占めにして、巣内でゆっくりと自分で食べたり産卵したりするのでしょう。 
オオセンチコガネの巣穴はあまり深くなさそうです。 
スギ落葉の下に糞玉を軽く隠しているだけのような気がします。 
後でちゃんと調べようと思いつつ、長時間の動画撮影で満足してしまい、巣穴の発掘調査をすっかり忘れてしまいました。 

巣穴への糞玉搬入は1匹が繰り返し行っていましたが、♀♂つがいの性別に応じた分業があるのかな? 
となれば、今回観察したオオセンチコガネ個体の性別が知りたくなります。 
舘野鴻『うんこ虫を追え(たくさんのふしぎ2022年6月号)』は児童書の扱いですが、見事な精密画でオオセンチコガネの飼育記録と謎解きを綴った素晴らしい名著です。 
p10にオオセンチコガネの♂と♀の違いを図解してありました。 
今回の個体は頭楯の先が尖っているのでオオセンチコガネと分かります。 
その頭楯が黒いので♀かと思ったのですが、タヌキの糞が付着して黒く汚れているだけかもしれません。 
前脚の跗節の形状にも性差があるらしいのですが、いずれにせよ採集して体をきれいに洗ってから細部を精査する必要があります。 
今回は動画撮影を優先した結果、採集できませんでした。
(最後は巣穴に潜って外に出てこなくなりました。) 

謎の甲虫(エンマコガネなど小型の糞虫?)が糞玉に取り付いていても、オオセンチコガネは取り除いたり追い払ったりせずに、どんどん運んで行きます。 
異変を感じたエンマコガネ?は、途中で諦めて糞玉から離脱しました。 
先客のエンマコガネにしてみれば、餌資源をオオセンチコガネに横取りされた訳ですから、労働寄生の被害者になります。 

運搬作業中のオオセンチコガネは、ときどき糞玉から一旦離れて巣口の位置を確かめに戻ります。 
目指す巣穴を確認してから、糞玉の運搬を再開します。 
せっかく糞玉を巣口のすぐ横まで運んだのに、巣口の位置を忘れたのか、迷子になりました。 
辺りをウロウロと徘徊し、ようやく正しい巣口を探し当てたようです。 
向きを変えて無事に糞玉を巣穴に搬入しました。 
ところで、短距離とは言えオオセンチコガネは自分の巣の位置をどうやって記憶しているのでしょうか? 
これはナビゲーション(帰巣本能)の問題です。
確か太陽や星座を利用しているという話を昔読んだ覚えがあります。(要確認) 
鬱蒼と育ったスギ林の林床は昼間も暗くてあまり日が射さないのに、果たして天体からの情報を利用できるのか、疑問です。 
もしも私がオオセンチコガネの真上から覆いかぶさるように撮影・観察して天上の視界を遮ると、帰巣できなくなるでしょうか? 

巣穴から再び出てきたオオセンチコガネが自分の体よりも大きいタヌキ糞塊の下に潜り込んで脚で持ち上げ、試しに回しています。 
運ぶ荷物の大きさや重さを体感で認識するのでしょう。 

オオセンチコガネの体表に微小の白いダニ(種名不詳)数匹、取り付いています。 
吸血のため糞虫に体外寄生しているのではなく、ヒッチハイクして獣糞を渡り歩いているダニだとなにかの本で読んだ記憶があります。 (要確認)

路上のスギ落葉や枯れた茎に引っかかり、糞玉をうまく転がせません。 
見ている私ももどかしくなり、邪魔な落葉を運搬路から取り除いてやりたくなります。 
苦労してなんとか障害物を乗り越えました! 

実はオオセンチコガネの他に、藍色のセンチコガネ(頭楯の先が丸い)もタヌキ糞塊の中に潜んでいました。 
オオセンチコガネの♀♂つがいのパートナーが巣口をガードしているのかと初めは思ったのですが、よく見ると別種でした。 
なぜかセンチコガネは糞の運搬作業(糞転がし)をほとんど行いませんでした。 
しばらく様子を観察すると、赤紫のオオセンチコガネと紫のセンチコガネは別々の巣穴に糞玉を運び入れていることが判明しました。 

午前中の早い時間帯から入山して見に行かないと、夜に排泄されたタヌキの糞が跡形もなく地中に埋められてしまうことがよく分かりました。 
(気温の高い夏は特に糞虫が活発。)
溜め糞場の周囲の邪魔な落枝や落葉などを全て取り除いて整地してやると、糞虫の作業効率が更に高まり、あっという間に地中に埋められてしまいそうです。 

私がフンコロガシの撮影に熱中していると、後半に近くの杉林でバキバキ♪と樹皮を剥ぐ音が聞こえて気になりました。 
まさかツキノワグマが皮剥ぎしているのでしょうか? 
振り向きたいのを我慢して、気配を消して撮影を続けます。 
幸い、謎の大型獣(イノシシかも?)とニアミスすることはありませんでした。
(フィールドでは護身用のクマよけスプレーを肌身離さず携帯しています。) 
 ※ 後半のクマ剥ぎシーンだけ動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 








左:センチコガネ、右:オオセンチコガネ
オオセンチコガネの腹面は緑色の金属光沢(構造色)

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