前回の記事:▶ 切り株で獲物を待ち伏せるアズマヒキガエルがアリを捕り損ねた
アズマヒキガエル(Bufo japonicus formosus)が虫を捕食する瞬間を動画に記録しようと、真横にそっと回り込んでから三脚を立てました。
ところが20分近く長撮りしても、空振りに終わりました。
切り株の断面は水平ではなく、やや斜めに傾いています。
そこに座ったヒキガエルは目の前のミズナラ幹をじっと凝視しています。
瞬きもせず喉をかすかにヒクヒクさせているだけです。
たまにアリが幹を徘徊しても、ヒキガエルは無反応でした。
この撮影アングルでは遠近感が分からないのですが、おそらくヒキガエルの顔の正面にアリが来なかったり、ヒキガエルの舌の射程範囲の外だったのでしょう。
やがて切り株から微小のアカアリ(種名不詳)がヒキガエルの体に次々とよじ登ってくるようになりました。
ヒキガエルは皮膚が厚くて触覚が鈍いのか、ほとんど無反応でした。
顔に来た蟻が目や口元を這い回っても平気です。
アリは群れの仲間を動員してヒキガエルを攻撃しているのでしょうか?
しかしヒキガエルの体に噛み付いたり蟻酸を掛けたりしているようには見えません。
どうやらアリは、ヒキガエルの眼球から涙を吸汁したり、湿った唇を舐めたりして、水分を摂取しているだけのようです。
ヒキガエルの閉じた口の隙間から唾液の小さい泡が出ています。
アリに目尻を舐められたアズマヒキガエルはさすがに目を瞑るようになりました。
カエルの瞬膜は眼球の下から現れて上に閉じます。
ヒキガエルは左右の目を独立に瞬きできると分かりました。
ヒキガエルの鼻孔内にアリが侵入することはなかったものの、鼻孔をヒクヒク動かすようになりました。
喉をヒクヒクさせる動きが激しくなったのは、ストレスや苛立ちの現れでしょうか?
右脇腹も呼吸で波打っています。
煩わしいアリをヒキガエルが前脚で払い落とそうとしないのは不思議で仕方がありません。
よほど面の皮が厚くて鈍いのかな?
口元のアリをパクっと食べようとしないのは何故でしょう? (※追記参照)
まるでアリ責めの拷問を受けているようですが、ヒキガエルは身震いしたりアリを手で払い除けたりする行動が全く見られず、ただひたすら耐え忍ぶだけでした。(ガマん大会?)
脂汗(ガマの油)を流すどころか、修行僧のような佇まいで平気の平左。
一部の鳥には蟻浴という習性があります。
アリ塚の上にわざと居座ってアリを怒らせ、羽毛に蟻酸をかけてもらい、ダニなどの体外寄生虫を駆除することがあるそうです。
このヒキガエルもまさか蟻浴中だったのでしょうか?
ヒキガエルの体表には毒液(ブフォトキシン)が分泌されているはずなのに、アリ避けの効果は全くありませんでした。
ブフォトキシンは強心配糖体という心臓毒なので、おそらく脊椎動物にしか毒性を発揮しないのでしょう。
アリは昆虫(無脊椎動物) ですから、その心臓に影響しないのも納得です。
遂に アズマヒキガエルは度重なるアリの攻撃に堪りかねて右前脚で顔のアリを拭い、少し左に体の向きを変えました。
切り株上でノソノソと歩いて前進を始め、終いには切り株から池の岸辺に飛び降りました。
ヒキガエルの体長を採寸できず残念でした。
かなり大型の個体で、目測では成人の拳より大きかったです。
撮影中の私はカメラの近くで見守っていたものの、ヒキガエルの体に集る微小な蟻に全く気づきませんでした。
なぜヒキガエルが急に逃げたのか理由が分からなかったのです。
横に居る私の存在が気になり、警戒したヒキガエルが逃げたのでしょうか?
あるいは、日向に長居するとヒキガエルの皮膚が乾燥するので、水辺に戻ったのかな?と思ったりしました。
それとも、私が体中に振りかけた虫除けスプレーの匂いがきつ過ぎたせいで、ミズナラの幹に虫が近寄らなくなってしまい、ヒキガエルが狩場を変えたのか?と思ったりしたのです。
撮れた映像を見て初めて、アリの群れから執拗に陰湿な攻撃を受けていたと真相を知りました。
関連記事(1月前の撮影)▶ 巣から落ちたシジュウカラの雛を襲うアリの群れ(野鳥)
↑【おまけの動画】
同じ素材でオリジナルの等倍速映像です。
※【追記】
西田隆義『天敵なんてこわくない―虫たちの生き残り戦略』という本を読むと、トノサマガエル(捕食者)とヒシバッタ(被食者)の関係について研究結果が詳しく書いてあり、興味深く読みました。
カエルに限らず多くの捕食者は、採餌の効率が高くなるようにさまざまな工夫をしている。その一つが、小さすぎたり、大きすぎる餌を無視するというものだ。(p133より引用)
今回の動画で微小なアリが口元に来てもヒキガエルは食べようとしなかった理由は、小さ過ぎて腹の足しにならないからと考えられます。
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