2020/05/26

晩秋にコガタスズメバチの巣を桑の木から採集【暗視映像】



桑の木に営巣したコガタスズメバチ#3



▼前回の記事
桑樹上の巣から飛び出すコガタスズメバチ♀

2019年11月中旬・午前3:20頃・晴れ・満月・気温〜4℃(日の出時刻は午前6:17、月齢16.0)

晩秋でコガタスズメバチVespa analis insularis)のコロニーが解散したようなので、満月の深夜に古巣を採集しに出かけました。
現場入りすると、持参した懐中電灯を使わなくても月明かりで充分見えました。
快晴の明け方は放射冷却現象で気温がかなり下がります。
営巣木ヤマグワには、やや黄葉した桑の葉が未だ枝に残っていました。
翌日から天気が崩れる予報なので、スズメバチの巣を乾燥した状態で採集する最後のチャンスです。
そろそろ桑が完全に落葉しそうなので、巣の外被が風雨に直接晒されて風化する恐れもありました。

巣を採集する前に、巣内に成虫♀が留守かどうか最終確認してみましょう。
万一、毒針を持つ♀が巣内に残っている場合、怒った蜂に攻撃される恐れがあります。
スズメバチの巣を駆除する際には専用の防護服が必須です。
しかし高価な防護服を持っていなくても、長年の経験からコガタスズメバチの習性に基づいて安全に巣を採集する方法を編み出しました。
注:比較的穏健なコガタスズメバチ限定です。
・モンスズメバチとは異なりコガタスズメバチは昼行性なので、暗い夜は巣から飛び出して攻撃してくることはない。
・スズメバチは変温動物なので、気温が下がる時間帯は動きが鈍い。



という訳で、草木も眠る丑三つ時をわざわざ選んで採集にやって来たのです。
気温は約4℃まで下がり、私も凍えそうです。
スズメバチの巣は外被の多重構造で保温性(断熱性)に優れていますが、巣内温度はどれだけ下がっているのですかね?
コオロギ♂など秋の夜に鳴く虫も死に絶えたようで、辺りは静寂でした。
専用のスズメバチ防護服に比べると気休めにしかなりませんが、現場で念のために、白っぽい防寒具を二重に着込みました。
黒髪なら頭部を白いタオルや帽子で必ず覆い隠し、ゴーグルで目を保護します。

赤外線の暗視カメラで動画に撮りながら、コガタスズメバチの巣に振動を与えてみます。
このとき照明は白色LEDではなく、蜂の目には見えない赤色灯または赤外線を使うのがポイントです。
長い棒で巣の外被をコンコンと軽く叩いてみたり、巣が吊り下げられた枝を揺すってみたりしました。
(明るくて気温の高い昼間には決して真似しないで下さい。)
巣口から蜂が外に出てこないので、やはり空巣なのだろうと判断しました。


巣口を見上げる
横から

さて、いよいよ巣を採集します。
高枝切り鋏やノコギリなどの七つ道具を持参したのですが、やってみると結局は不要でした。
桑の灌木に少し登り手を伸ばせば手が届く高さに営巣していました。
剪定ばさみで枝ごと切り落とし、コガタスズメバチの古巣をあっさりと採集することが出来ました。
営巣基の枝は意外に細かったです(直径7mm)。
作業の様子を動画に撮る余裕はありませんでした。
すぐに巣をビニール袋で包んで密閉し、いそいそと持ち帰りました。

朝になって室温が上がると、ビニール袋内でガサガサと虫が徘徊する音がし始めて焦りました。(室温19.2℃)
古巣内にカメムシやアシナガバチなどの昆虫が越冬のために潜んでいて、気温が上がると共に目覚めたのかもしれません。

▼関連記事(4年前の撮影)
コガタスズメバチの古巣で集団越冬するフタモンアシナガバチ新女王
コガタスズメバチの古巣で越冬していたキアシブトコバチ

しかし袋を透かしてスズメバチの姿が見え、羽音もなりだしました。
緊急事態です。
危険なスズメバチが袋を噛み破って外に脱出してくる前に、袋ごと冷凍庫に入れて安楽死させました。
ビニール袋ではなく丈夫な箱に巣を完全に密閉すれば良かったのですが、持参したプラスチック製の水槽は少し小さくて、採集したコガタスズメバチの巣が入らなかったのです。
てっきりコロニー解散後の空き巣だと思っていたのに、巣内に未だワーカー♀または新女王が居残っていたようです。
気温が低過ぎて、巣内でほとんど仮死状態だったのでしょう。

翌日に解凍した袋を開封すると、計16匹のコガタスズメバチ♀が巣の外で凍死していました。
(更に多くの個体が巣内で凍死したまま残っている可能性もありますが、巣を壊さないと分かりません。)
腹端から毒針を伸ばした状態で死んでいる個体もいます。
雄蜂♂は1匹もいませんでした。
資料によると、コガタスズメバチの体長は女王蜂が25〜30mm、ワーカー♀(働き蜂)が22〜28mm。(松浦誠『スズメバチはなぜ刺すか』p280より)
今回得られた♀は全て体長25mm未満だったので、ワーカー♀だけのようです。
新女王はとっくに巣を離れて♂と交尾を済ませ、どこか安全な場所で越冬しているはずです。

不測の事態もありましたが、コガタスズメバチ♀に全く刺されることなく、殺虫剤も使わずに、無事にミッション成功です。
何事も経験で、また一つ自信になりました。
採集した巣を切断して内部の構造を調べるかどうか迷いました。
今回は巣全体に防腐処理を施して、そのまま標本にしてみましょう。

つづく→#4:コガタスズメバチの古巣に防腐剤処理して保存


ピルケースの仕切りは37×30mm
アングル変更

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