2015年10月下旬
ユカタヤマシログモの飼育記録#4
ユカタヤマシログモ(Scytodes thoracica)が獲物のオオヒメグモ(Parasteatoda tepidariorum)幼体を捕食する様子を微速度撮影してみました。
10倍速の早回し映像をご覧ください。
糸を吐いて獲物を仕留めたユカタヤマシログモは身繕いが済むと、獲物の歩脚に噛み付いて体外消化を始めました。
徘徊性のユカタヤマシログモが仕留めた獲物を安全な隠れ家に運んだりせずにその場で捕食してくれるのは、観察する側には助かります。
噛み付く部位は前回と同じなのが興味深く思いました。(すねかじり)
クモの食事は獲物を噛み砕いて飲み込み胃で体内消化するのではなく、強力な消化液を獲物の体内に注入して溶かしてからその肉汁を吸い込んで摂取します。
これを体外消化と呼びます。
今回餌食となったオオヒメグモの歩脚が細く半透明であるおかげで、ストローのように消化液が流動している往復運動が捉えられていました。
ユカタヤマシログモはときどき噛み付く場所を変え、獲物の全歩脚から順番に吸汁しています。
体内消化を行う我々ヒトがカニの脚を食べるときは固い外骨格を苦労して割り、中の身(筋肉)を丹念にほじくり出す必要があります。
一方、クモが食べた後は獲物の外骨格(クチクラ)はほぼ無傷のままで、中身は空っぽになるのでしょう。
体外消化なら、かに道楽でカニの脚をきれいに食べるのも楽そうです。
オオヒメグモの腹部がときどきゆっくりしたリズムで動いていることから、毒液で麻痺した後も未だ完全には死んでおらず、虫の息の状態なのかと初めは思いました。
しかしよく観察すると、噛まれている歩脚内の流動がオオヒメグモ腹部の膨張・収縮に同期しています。
したがって、体外消化液の注入・吸入に応じて獲物の腹部が風船のように受動的に伸縮しているだけなのでしょう。
結構な量の消化液を注入していることが伺えます。
獲物の頭胸部が伸縮しないのは、腹部よりも固いクチクラが発達しているためでしょう。
比較対照としてオオヒメグモ単独で安静時の歩脚を同様に接写して、血液の循環が透けて見えないことを確認する必要があります。
しかしよく考えてみると、ユカタヤマシログモに噛まれていない歩脚では体液の流動や循環が見られないので、改めて比較するまでもなく体外消化による流動で決まりですね。
後半ユカタヤマシログモが噛む場所を変えると(第1脚か?)、今度は獲物の腹部ではなく触肢が左右同時にゆっくり動きました。
もしかするとクモの触肢は普段から筋肉というよりも体液の水圧で駆動しているのかもしれません。
途中で噛む場所を何度も変更しました。
食餌の後半になるほど、その頻度が上がります。
捕食開始から約1時間45分後、満足したユカタヤマシログモは遂に獲物を手放し、離れて行きました。
食餌の時間は意外に短かったです。
餌食となり吸汁され尽くしたオオヒメグモ幼体は体全体が萎んでいました。
ユカタヤマシログモが獲物に噛みつく位置が歩脚に限定されていて(しかも膝関節付近が多い?)、獲物の頭胸部や腹部には最後まで一度も噛み付いていない点が興味深く思いました。
柔らかい腹部に噛み付いてしまうと、その後はパンクした風船のように注入した消化液が漏れてしまうのかもしれません。
それなら、あちこち噛み付いた歩脚から液漏れしないのは何故でしょう?!
必要に応じて一時的な凝固剤や糊を自由自在に注入するのかな?
通常の1倍速(リアルタイム)の映像ではこのような体外消化液の流動には気づきませんでした。
▼前回の記事微速度撮影ならではの成果です。
獲物を捕食・吸汁するユカタヤマシログモ(蜘蛛)
これは全く予想外の発見でした。
当初の撮影プランとしてはユカタヤマシログモが噛む場所を変えて吸汁したり獲物を丸めて絞り尽くしたりする様子を長時間記録するつもりでした。
※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。(強拡大パートはコントラストを上げるためにHDR-ishのエフェクトをかけています。)
そのために、ユカタヤマシログモの体色が実際よりもかなりどぎつく強調されているのでご了承下さい。
つづく→#5:糸を吐いて獲物を仕留めるユカタヤマシログモ(蜘蛛)【HD動画&ハイスピード動画】
食べ滓 |
食後のユカタヤマシログモ |
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