2012年7月下旬
観察中に巣穴をめぐって2匹のジガバチが喧嘩(ニアミス)したシーンをスローモーション(1/5倍速)でまとめてみました。
明らかな格闘になったのは初めの1回だけでした。
個体識別で明らかになったことの一つとして、喧嘩しても毎回勝つのは巣で作業していた蜂で、先住効果があるようです。
動物行動学の分野では、縄張り争いや捕食の際、先にその場にいた個体が闘争に勝ちやすいという例が多くの動物で報告されています(「先住者効果」といわれる現象です)。『カブトムシとクワガタの最新科学』p43より
前半は巣の持ち主(寄主♀H白)が勝ち、後半は巣を奪った労働寄生♀P水が勝ちました(巣の防衛に成功)。
スロー再生しても動きが速すぎて襲撃者の正体が不明なことも多かったです。
巣の乗っ取り(または奪還)を企む♀なのか、交尾目当ての♂を毎回♀が拒否したのか、見分けられませんでした。
カメラが2台あれば、小競り合いになりそうなときにハイスピード動画で撮りたかったです。
ジガバチの営巣活動を通して全部観る前に今回、労働寄生(托卵)という特殊な例に遭遇してしまいました。
例えば、狩りの瞬間および獲物をジガバチが巣穴に搬入するシーンを未だ観察していません。登場した寄主♀と寄生♀の2匹を現場で個体標識できたのは我ながらファインプレーで、何が起きているのか明確になりました。
ただ漫然と見ているだけだったらきっと「巣の主が貯食後に錯乱して掘り返した?」などと解釈に頭を抱えていたことでしょう。
蜂をマーキングする手技を習得していたのがようやく役立ちました♪(自画自賛)
道具を揃え何回か練習すれば誰でも(子供でも素人でも)出来ることで、特に難しいことではありません。
シリーズ完。
9月上旬(37日後)に営巣地を再訪してみました。
羽化脱出した跡は無い…と思うのですがどうでしょう。
やっぱり発掘調査してみればよかったかなー?
【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p45によれば
アナバチ類には、多数の♀が小地域にかたまって集団で巣をつくる習性がある。このことが労働寄生を始める契機になったと思われます。
【追記2】
遠藤知二『すれちがいの生態学:キオビベッコウと小道の虫たち』という面白い本を読みました。
クモバチ科のキオビベッコウも同種内で労働寄生(托卵)を頻繁に行うそうです。
昼間に獲物のクモを狩ってきたキオビベッコウ♀は夕方から穴掘り、貯食、産卵、埋め戻し(偽装)をするそうです。
穴掘り中に同種間で獲物の盗み合いがよく起こるらしい。
ジガバチとは異なり興味深いのは、翌朝になるとキオビベッコウ♀の行動パターンががらりと変わる点です。
営巣地で別の♀が産卵した巣穴を探索して労働寄生(托卵)を始めるらしい。
フィールドで蜂に個体識別のマーキングを施して調べています。
とぼけた挿絵の児童書だと侮ることなかれ。
私が知る限り、単独性狩蜂の労働寄生をテーマにした日本で初めての本です。
クモと狩蜂の生態学を書いた三部作の完結編ということで、まとめて一冊の本にして頂けるよう熱望します。(前二作は『まちぼうけの生態学』、『おいかけっこの生態学』)
37日後(9月上旬) |
観察当日(7月下旬)。右端の穴が巣坑 |
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