前回の記事はこちら→「石灯籠に作った泥巣を訪れるスズバチ」2011年9月下旬
前回の観察から4日後に再訪。
スズバチ♀(Oreumenes decoratus)は営巣を再開したようで、泥巣全体が既に泥で閉鎖されていました。
この日もハチの姿は見られず。
泥巣を発掘してみることにしました。
生憎カメラのバッテリーが切れてしまい、発掘過程を写真で記録できませんでした。
マイナスドライバーで少しずつ泥壁を削っていくと、二つの同サイズの独房が隣接していることが分かりました。
スズバチの卵@独房壁面内側 |
右側の新しい独房は意外なことに空洞でした。
貯食物が全く運び込まれていないまま、独房内側の壁面にハチの卵が一個産み付けられていました。
他のドロバチ類の多くと同様にスズバチの卵は天井から糸で吊るされた状態らしいのですが、今回私は糸を確認できませんでした。
産卵は独房の完成直後に行われるそうです。
貯食されてなかったのは、私が巣口にしつこく草を差し込んだりした影響かもしれません。
産卵後の母蜂が悪戯を嫌って(?)営巣を切り上げ、貯食せず埋め立てたようです。
今後あの方法は差し控えたほうが良いかもしれません。
しかし、わざわざ巣口を泥で塞いでから廃巣するスズバチの律儀さ(融通性の無さ)に興味を覚えます。
左列は同一個体。右上は別個体。右下は発掘直前の泥巣とスケール替わりの一円玉。 |
次に左側の古い独房を暴くと、貯食物がぎっしり詰まっていました。
スズバチ♀の毒針で麻痺した3匹のアオムシが幽閉されていました。
孵化直後のスズバチ若齢幼虫が発掘作業中にこぼれ落ちてしまいました。
なんとか小さな蜂の子を拾って容器に移します。
保育社『原色日本昆虫図鑑』によると、築坑性のスズバチは
岩のくぼみなどに泥で四半球形の壺状の巣を10数個かためてつくり、全体がもう一層の泥壁で覆われている。獲物は毛の少ない鱗翅目の幼虫である。
そっと持ち帰ると、スズバチ幼虫は自力で獲物の背中に這い登り食いついているようでした。
アオムシは麻痺しているものの脱糞している途中のようです。
アオムシ体表に自らの排泄した糞が数個付着しています。
スズバチ♀は狩りの際に毒針で獲物の中枢神経系を刺して麻酔します。
しかしご覧のように麻痺は不完全で、ときどき痙攣したり大きく動きます。
歩脚でしがみ付こうとする反射も残っています。
さすがに徘徊することは出来ず、歩行時に尺取虫運動するかどうか不明です。
独房内でこのぐらい元気に暴れても蜂の子に危害は無いのだろうか。
次は拉致被害者の身元調査です。
アオムシは3匹とも同種の蛾の幼虫と思われ、大きさもほぼ揃っています。
いつもお世話になっている「不明幼虫の問い合わせのための画像掲示板」に投稿したところ、atozさんより以下の回答を頂きました。
アオスジアオリンガかアカスジアオリンガの幼虫です。
【追記】
『本能の進化:蜂の比較習性学的研究』p252によると、スズバチ(旧学名Eumenes decoratus =現 Oreumenes decoratus)の獲物はフトスジエダシャク(Cleora repulsaria)の幼虫と記録されています。明らかに今回のアオムシは全然違う種類のようです。造巣法は築坑型(四半球型)、獲物の貯蔵数は3-8、独房数は9。8壺の完成に16日間を費やす。
左:徳利状の巣口が泥で塞がれている様子を独房内側から。右:飼育開始 |
清潔なプラスチックのピルケースに貯食物と蜂の子を一緒に移して飼育を始めました。
ところが、やはり一度獲物から口が離れてしまうと致命的なようです。
やがて蜂の子は萎んでしまいアオムシも傷口から腐り始めました。
残る二匹のアオムシは麻痺状態のまま(生きる屍)しばらく生き続けています。
独房(右)壁に産み付けられたスズバチの卵も翌日には干からびてしまいました。
室内飼育でスズバチ成虫が羽化することを確認したかったのに、今回は残念な結果に終わりました。
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