2025/09/28

土砂降りの日に水溜りの中から落枝を拾い上げて遊ぶニホンカモシカの幼獣【トレイルカメラ】

 


2024年7月中旬・午後15:35頃・雨天・気温20℃ 

山林内の湿地帯にある泥水溜りを2台の無人センサーカメラで見張っています。 
土砂降りの雨が降る昼間に、ニホンカモシカCapricornis crispus)の幼獣が単独で現れました。 
毛皮が雨で濡れそぼっています。 

 水溜まりSに来ると、カモシカ幼獣はジャブジャブと渡り始めました。 
水面に顔を近づけたものの、水を飲むでもなく、ただ匂いを嗅ぎ回って何かを探索しているようです。 

 水溜り内の泥濘に突き刺さっていた短い落枝が気になったようで、カモシカ幼獣は口で咥えて拾い上げました。 
ところが、ちょっと甘噛みしただけで、すぐに落枝を捨ててしまいました。
もう1本別な棒切れを水溜まりの中から口で引き抜くと、ちょっと弄んでから捨てました。 
棒切れ(短い落枝)を何か餌と誤認したとは考えにくいので、好奇心旺盛な幼獣による遊びの行動と思われます。 

首をねじって、雨で濡れた毛皮を口で毛繕いしてから、立ち去りました。 

母親♀は幼獣と別行動なのか、最後まで姿が見えませんでした。 
子別れするにはまだ時期が早いと思うのですが、母親からはぐれてしまったのかな? 

梅雨の大雨によって2つの水溜まりS、Nから水が溢れてつながり、一つの巨大な水溜まりになりつつあります。 
20分後には雨が止んで晴れました。(映像は割愛。) 


※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 
※ 雨音が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


【考察】
このカモシカ幼獣の行動は、動物の遊びと解釈できるでしょうか?
今回はChatGPTとのブレインストーミングがとても役に立ちました。
「まるで小枝で遊んでいるように見えた」というだけでは、観察者の主観や擬人的な解釈に過ぎません。
カモシカ幼獣が本当に楽しんでいるかどうか、感情を読み取れないのが問題です。
「あまりにも厳格に擬人化を排除すると、動物行動学で《遊びの行動》を扱えなくなるのではないか?」と素人ながら心配してしまいます。
その通りです。動物行動学では「遊び(play)」というカテゴリーは確かに存在し、研究でも広く使われています。ただし、学術的には「遊び=楽しんでいるかどうか」ではなく、特定の観察可能な行動パターンとして定義されます。

例えば、Burghardt の動物遊びの定義では:

遊びは 通常の機能(狩り、攻撃、防衛など)とは異なる行動パターン を含む

自主的に繰り返される

本来の目的に直接結びつかないが、学習や身体能力の発達に役立つ可能性がある

このように定義すれば、観察者が「楽しんでいるかどうか」を推測せずとも、遊びの行動として客観的に記録できるのです。


あなたの観察記録はまさに Burghardt の定義に沿った遊び行動(play behavior) の典型例として記述できますね。ポイントを整理すると:

  1. 主体:カモシカの幼獣(juvenile serow)

  2. 状況:雨の大雨の日、単独で水場に訪問

  3. 対象物:泥に刺さった短い落枝(sticks)

  4. 行動の内容

    • 口で咥えて引き抜く

    • 軽く甘噛みする

    • 捨てる

    • 別の枝でも同様の行動を繰り返す

  5. 解釈

    • 食べ物としてではなく、好奇心や遊びの動機による行動

    • 自発的で繰り返しがある

    • 本来の機能(摂食)とは直接関係がない



今回の行動は exploratory behavior(探索行動) と解釈することも十分可能です。

理由は以下の通りです:

  1. 観察される行動の内容

    • 枝を咥えて引き抜き、軽く噛んで捨てる

    • 繰り返して別の枝も同様に扱う

    → これ自体は「対象物の性質を確認している」「環境を探っている」行為としても説明可能。

  2. Burghardt の遊びの定義との重なり

    • 自発的である

    • 本来の機能(摂食など)とは直接関係がない

    → 「探索行動」と「遊び行動」は観察上の特徴が重なることがあります。つまり、両方の解釈が可能です。

  3. 科学文献での使い分け

    • Exploratory behavior は、「好奇心や情報収集のための行動」を中立的に示す表現

    • Play behavior は、「機能的目的とは異なるが学習や身体能力の発達に関連する行動」を強調

    • 観察だけでは「楽しんでいるか」は分からないため、より中立的に記録する場合は exploratory behavior を使うことが多い


結論として、今回のカモシカ幼獣の枝操作行動は play behavior と解釈しても良いし、より中立的に exploratory behavior として記録しても良い という二重の解釈が可能です。


動物による道具使用には厳密な定義があります。
それと同様に、動物がある物体を玩具(おもちゃ)として使った(もて遊んだ)と言うのにも、厳密な条件や定義があるのでしょうか?

はい、動物が「物体を玩具として使った」「弄んだ」と解釈する場合にも、科学的には厳密な条件や定義があります。道具使用(tool use)の定義と同様に、遊びや玩具行動も単なる主観的印象ではなく、観察可能な行動パターンに基づいて区別されます。


1. 動物遊び(play)の定義

Burghardt, G. M. (2005). The Genesis of Animal Play: Testing the Limits. MIT Press. によると、動物の遊び行動には主に次の条件があります:

  1. 自発的であること(Voluntary)

    • 強制されず、主体的に行われる行動である。

  2. 通常の機能とは異なること(Non-functional in the immediate sense)

    • 摂食、防御、攻撃など生存の直接目的には結びつかない。

  3. 繰り返されること(Repeated)

    • 同様の行動が何度も観察される。

  4. 動作パターンが変形・過剰・速すぎるなど、非日常的であること(Pattern modified)

    • 通常行動のバリエーションや誇張形態がある。

さらに 物体遊び(object play) の場合は:

  • 動物が物体に興味を示し、操作・噛む・転がす・投げる・持ち上げるなどの行動を行う

  • 行動は通常の摂食や攻撃などの機能に直接関与していない

  • 行動が反復されることが多い


2. 「玩具として使った/弄んだ」の科学的条件

  • 目的が摂食や攻撃ではない

    • 食べ物と誤認した場合は遊びとは言えない

  • 対象物は外部環境に存在する物体

    • 枝、石、葉、人工物など

  • 主体的・反復的な操作

    • 一度咥えて捨てるだけでなく、繰り返し操作することが多い

  • 観察上、快感・楽しさの直接証拠は不要

    • 「楽しんでいるか」は推測ではなく、行動パターンで判断


結論として、「動物が物体を玩具として使った」ことは、行動パターンに基づき科学的に定義できるが、感情や楽しさの有無は推測に留まります。
つまり、カモシカ幼獣が棒を口で咥えて弄んだ行動も、観察記録と行動パターンに基づけば「object play」として科学的に記述可能です。


今回私がなぜ探索行動(探餌行動)ではなく遊びという解釈をしたかというと、ニホンカモシカの成獣で泥濘の中から掘り出したもの(根茎など)を食べる様子を観察したことがないからです。


つづく→

山中の水溜りで♂の警護なしで単独打水産卵する謎のトンボ♀【トレイルカメラ】

 

2024年7月中旬 

シーン1:7/16・午前11:45・晴れ・気温32℃(@0:00〜) 
山林にある湿地帯で湧き水や雨水が溜まった水溜りを無人センサーカメラで見張っています。 


シーン2:7/20・午後13:15頃・晴れ・気温27℃(@0:04〜) 
画面の右上奥、水溜まりNから溢れた水が流れ出る地点(湿地帯の泥濘)で、トンボ♀(種名不詳)が単独で飛びながら打水産卵を繰り返していました。 
トンボ♀は場所を変えて更に産卵してから、最後は右上に飛び去りました。 
その間、♀の近くで産卵警護する♂の姿は写っていませんでした。 

謎のトンボ♀の単独打水産卵を1.5倍に拡大した上でリプレイ。(@0:34〜) 
遠くてトンボの種類を見分けられず、大型のヤンマ類なのかそれより小型のトンボ類なのかも不明です。 
オニヤンマ♀の単独打泥産卵(挿泥飛翔産卵)は体をもっと垂直に立てた姿勢でホバリングしながら上下動して産卵するので、今回の産卵動画の動きとは違います。

関連記事(2、15年前の撮影)▶ 

井上清、谷幸三『トンボのすべて(第2改訂版)』によると、
オニヤンマの♀は浅くて細い流れの上にやってくると、空中で少しホバリングしたあと、突っ立った姿勢のままストンと落下し、腹の先より突き出ている生殖弁を砂泥底に突き立てて産卵し、すぐ飛び上がり、また落下して産卵する。この動作をリズミカルにストンストンと繰り返します。(p69より引用)

同時期に別の池で見かけたオオシオカラトンボ♀の産卵行動と似ていますが、他にも候補がいるので決めつけることはできません。 



しばらくすると、手前の水溜まりSに右奥から1匹のトンボが飛来しました。 
水溜りSの上空を一回りしただけで、右奥の水溜まりNに戻りました。 

1.5倍に拡大した上でリプレイ。(@1:26〜) 
更に1/3倍速のスローモーションでもう1回リプレイしてみましょう。 
残念ながらトンボの種類や性別を外見で見分けることはできませんでしたが、その行動から推理すると、おそらくトンボ♂が縄張りを張って占有飛翔しているのでしょう。 
交尾相手の♀を探し回り(探雌飛翔)、ライバルの♂が来たら縄張りから追い払うと思われます。 
動画の前後半で登場したトンボは同種とは限らず、別種かもしれません。


そもそも今回、監視カメラが何に反応して起動したのか不明です。
トンボは昆虫で変温動物のはずなのに、トレイルカメラの熱源センサーが反応したということは、飛翔筋の激しい運動により、気温よりも高く発熱しているのかもしれません。 
トレイルカメラに飛んでいるトンボが写っていたことがこれまでに何度もあるので、サーモグラフィカメラでトンボの体温を知りたいものです。

関連記事(2年前の撮影)▶ 

あるいは、たまたま飛来した鳥が高速で横切った結果、偶然トンボの産卵シーンが撮れたという可能性もあります。 


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2025/09/27

ニホンアナグマ母子家族の日常生活:7月上旬【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年7月上旬

シーン1:7/2(@0:00〜) 
平地の二次林にあるニホンアナグマMeles anakuma)の営巣地(セット)を無人センサーカメラで見張っています。 
特筆すべき面白い行動はすでに個別の記事で紹介したので、今回は出涸らしです。 
残り物でも1時間40分間という長編映画になりました。 

林床に散開して採食するシーンや、4頭の幼獣がひたすら遊び回る様子、互いに毛繕いをする様子などが写っています。 
幼獣の遊びというのは、互いにくんずほぐれつの取っ組み合いをしたり、追いかけっこをしたり、木登りに挑戦しては転げ落ちたりしています。 
遊びながら、たまに鳴き声♪を発していました。 
見ていて微笑ましく、飽きることがありません。 
まだ幼獣が母親♀に甘えることもあり、そんな幼獣に母親♀は対他毛繕いをしてやります。 

林縁で株立ちしたミズキの根元付近の幹は、アナグマ幼獣たちのお気に入りの遊び場です。 
頻繁によじ登ろうとするために、株立ちしたミズキ幹の根元が毛皮で磨かれて黒光りしています。 
母親♀もこのミズキの木の下でよく寛いだり、幼獣の面倒を見たりしています。 


シーン2:7/3(@5:52〜) 
晩には(午後20:15〜)土砂降りの大雨が降っているのに、家族で元気に巣外で活動していました。 
さすがに幼獣達は雨宿りのため、巣内に一時避難しました。 
雨が小降りになると、再び巣外に出てきました。 


シーン3:7/4(@7:43〜) 

シーン4:7/5(@14:16〜) 
夜明け前に監視カメラが起動すると、まだ暗いのになぜか赤外線の暗視モードに切り替わりませんでした。 
仕方がないので、動画編集で自動色調補正を施すと、粗いモザイクの映像ですが、辛うじて母親♀がうろついている姿を確認することができました。 

ニホンアナグマは夜だけでなく、昼間も活動しています。 
この日の映像が一番見応えがあるかもしれません。 


シーン5:7/6(@54:17〜) 

シーン6:7/7(@1:22:58〜) 
夕方になると、林内でヒグラシ♂が物悲しげに鳴いています。 


シーン7:7/9・午前後・気温(@1:33:56〜) 
明け方になると、林内でヒグラシ♂が物悲しげに鳴き始めました。 


※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


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