2022年10月下旬・午後16:30頃・くもり
山麓のスギ林の林縁で若いニホンザル(Macaca fuscata fuscata)が塒入りする直前まで採食しています。 地面から黒くて丸い物体を次々に拾い上げました。
どうやらオニグルミの果実が熟して落ち、辺りにいくつも転がっているようです。 実際に、オニグルミの大木がスギ林に隣接する土手のあちこちに自生していました。
ニホンザルはオニグルミの落果を拾うと、黒い果皮を手や口を使って器用に剥がしています。
ここまではヒトのクルミ拾いと似ています。
オニグルミの果皮にはタンニンが多く含まれますから、渋くて不味いはずなのに、果皮を口にしても猿は平気な顔をしています。
果皮を剥いて中から硬い堅果を取り出しても、非力な若猿には歯が立ちません。
しばらく弄んでから食べられないと分かると、オニグルミの堅果をポイッと捨ててしまいます。
その間も遊動していますから、オニグルミの落果を拾った地点から捨てた地点まで数メートル運びました。
つまり、ニホンザルはオニグルミ種子の分散に貢献したことになります。
オニグルミの母樹から遠ざかる方向に移動したのか、逆に近づいてしまったのか、は偶然に左右されます(ニホンザルの気分次第)。
もし猿がスギ林の中に持ち込んでからクルミ堅果を捨ててしまうと、日照量の少ないスギ林床でオニグルミの実生が育つのは絶望的です。
オニグルミの主な種子散布者は野ネズミやリスで、彼らが堅果を貯食する習性を利用しています。
野ネズミやリスに拾われて地中に隠されたクルミ堅果のほとんどは冬の間に食べられてしまいますが、ごく一部の食べ忘れられたクルミ堅果から芽が出て種子散布に成功します。
つまり持ちつ持たれつの共生関係にあります。
一方、ニホンザルに対してオニグルミは何も報酬を与えていません。
一時の好奇心が満たされたこと自体が報酬なのでしょう。
今回クルミを拾ったニホンザルは、好奇心旺盛な若い個体ばかりだったのがポイントかもしれません。
年を取って経験を積むと、オニグルミの落果は拾う価値が無いと学習するはずです。
それでも暇つぶしや遊びとしてクルミを拾い続けるかな?
知能の高いニホンザルの好奇心を刺激する(拾いたくてたまらない)形状にクルミの果実が進化したら面白いですね。(猿の好奇心と遊び心を利用した種子散布)
【追記】
私は知らなかったのですが、ニホンザルの成獣の一部はオニグルミの堅果を歯で噛んで割ることができるようになるそうです。
参考:野⽣ニホンザルのオニグルミ採⾷⾏動を観察
クルミ拾いに飽きると、腕白盛りの若いニホンザルたちは林縁で追いかけっこしたり、スギの枝葉に跳びついてブランコ遊びをしたり、スギの木に登ったり降りたり、遊びながらスギ林の奥へ遊動して行きます。
猿の鳴き声が杉林からひっきりなしに響き渡ります。
ニホンザルの群れは、このスギ植林地で一夜を過ごすようです。
※ 映像があまりにも暗過ぎるパートは、動画編集時に自動色調補正を施して明るく加工しています。

↑【おまけの動画】 “Monkeys Use Stones to Crack Open Nuts” by National Geographic
当地のニホンザルがもしもクルミの硬い殻を石で叩き割って中身を食べることを覚えたら(道具使用、石器使用)、今度はオニグルミの種子散布者から種子捕食者になります。
日本のカラスが投げ落としによるクルミ割りをマスターしたのですから、ニホンザルがクルミ堅果を割れるようになっても不思議ではありません。
ヒトが石を使ってクルミの殻を叩き割るお手本を見せたら、すぐに学習するんじゃないかな?