2021/10/23

エゾクロツリアブ♀:産卵前の尾端接地行動?

 

2021年7月下旬・午前11:40頃・晴れ 

里山で砂利の敷かれた山道をエゾクロツリアブ♀(Anthrax jezoensis) が低空で忙しなく飛び回っていました。 
短い出会いを1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
地面に繰り返し産卵しているのかと撮影中は思いました。 
しかしエゾクロツリアブの寄主は借坑性のマメコバチOsmia cornifrons)とのことで、だとすればこんな不毛の砂利道なんかに営巣するはずがありません。 (※追記参照)
山麓の果樹園まで下れば、大量のヨシ筒束がマメコバチの巣として用意されています。
関連記事(3ヶ月前の撮影)▶ リンゴ園でヨシ筒の巣箱に出入りするマメコバチ♀【HD動画&ハイスピード動画】
寄主の巣への産卵行動でなければ、産卵前の尾端接地行動かもしれません。 
この仲間のツリアブは産卵前に、卵がべたつかないように予め砂粒でコーティングするのだそうです。 
そのために腹端を砂やゴミなどに擦り付ける行動をするらしく、「sand chamber」と呼ばれる部位に砂を貯えておくらしい。
他の方のブログでは「尾端接触行動」と呼んでおられますが、「接触行動」では曖昧なので、「接地行動」と呼ぶことを素人ながら勝手に提唱します。 
関連記事(1、9年前の撮影)▶  
スキバツリアブ♀:産卵前の尾端接地行動 
ビロウドツリアブ♀がホバリング飛行しながらお尻を地面にチョンチョン
動画撮影の直後に私の履いていた迷彩柄のズボンにしばし止まってくれました。 
前翅の特徴的な黒紋からエゾクロツリアブ♀と判明したのです。

※【追記】 
別の可能性として、エゾクロツリアブの寄主はマメコバチに限らないのかもしれません。
掘坑性のコハナバチやヒメハナバチの巣ならこういう山道にあっても不思議ではありません。
だとすれば、今回のエゾクロツリアブ♀は寄主の巣に産卵していたのでしょう。
見下ろすアングルだけでなく、横からも撮影したいところでした。


アブラゼミ♀を庭木の枝の刺に突き刺して捕食するモズ♂(野鳥)

 

2021年7月下旬・午後14:45頃・くもり 

郊外の住宅地で何か茶色の獲物を運んで飛ぶモズ♂(Lanius bucephalus)を目撃しました。 
そのままモズ♂は、民家の庭に植栽された針葉樹の茂みに飛び込みました。 (映像はここから。) 
止まり木はイチイのようです。(秋に赤い実がなるかどうか、要確認。ヒマラヤスギやモミかも?) 
針葉がついてない枯枝の部分に止まってくれたので、撮影しやすくて助かりました。 
ちなみに、イチイ?の手前に見える低い針葉樹はドイツトウヒ(別名オウシュウトウヒ)です。 

今回の捕食メニューはアブラゼミ♀(Graptopsaltria nigrofuscata)でした。 
モズ♂はイチイの尖った枝先に獲物の胸部を背面から串刺しに固定し、茶色の翅を嘴で毟り取っていました。 
アブラゼミはもう既に死んでいて、全く暴れません。 
アブラゼミの腹面に発音器官の腹弁が見えなかったので、餌食となった個体は♀と判明しました。 
てっきり樹上で鳴いている声を頼りにセミの♂を捕食するのかと思いきや、鳴かない♀とは意外でした。
モズが一体どうやって捕まえたのか、興味があります。
飛んでいるアブラゼミ♀を素早く掴まえたのでしょうか?
それとも路上でよく転がって死んでいるセミの死骸を拾ってきたのかな?(スカベンジャー)

獲物の翅を完全に除去するとモズはアブラゼミ♀を串から外し、珍しく右足で掴みました。(@0:55) 
すぐにまた獲物を咥え直し、初めの枝の刺にしっかり刺し直しました。 
食材の下処理が済むと、ようやく獲物を食べ始めました。(@1:12) 
アブラゼミ♀の肉片を少しずつ啄むと、美味そうに食べています。 
食事の途中で食べ残しを枝の刺に残したまま、モズ♂はなぜか下の枝に跳んで移動しました。(@1:55) 
捕食で汚れた嘴を目の前の小枝で拭っています。 
再び食卓に戻ると、食事を再開。(@2:17) 
食べ進めると串に刺したセミが不安定になります。 
獲物を串から外して咥え、改めて刺にしっかり刺し直しました。(@3:04) 
完食する前に、啄んだ獲物をうっかり下に落としてしまいました。(@3:39) 
モズ♂は慌てて取りに行くも、見失ったようです。 

しばらくすると同じ食卓に戻って来てくれましたが、空荷でした。 
さほど落胆した様子もなく、食後のモズ♂は嘴をあちこちの枝に念入りに擦りつけて汚れを拭い取っています。 
どんどん上の枝に登り、イチイの枝葉の陰に隠れてしまいました。 
私が長時間ずっとカメラを向けているので、警戒したようです。 
ようやく落ち着くと、辺りをキョロキョロ見渡しています。 
視界の開けた枝に移動すると、こちらにお尻を向けてから白い糞をポトリと排泄しました。(@5:41) 
排便後は再び枝葉の茂みの陰に隠れました。 
時おり遠雷♪が鳴り響き、今にも夕立が降りそうです。 

関連記事(5年前の撮影:獲物はトンボ?)▶ 虫を解体・捕食するモズ♂(野鳥) 
モズの捕食シーンを初めてじっくり観察できて感動しました♪ 
モズ♂は獲物の固定具として木の枝の刺を使ったことになりますが、これは一種の道具使用と言えるでしょうか? 
他の種類の肉食性鳥類なら足で獲物を押さえつけながら嘴で獲物を引きちぎって食べますが、モズは足を(ほとんど)使いませんでした。 
嘴の形状からモズは小さな猛禽と例えられますが、猛禽類と違ってモズは足の力が弱いのでしょうか? 
足の代わりに木の刺を道具として使っているように見えます。 
モズのくちばしは、先がとがっていてカギの形にまがっています。するどいまなざしはハンターのしるし。それにくらべると、足は細長くてかよわそう。(中略)えだにつきさし、ひきちぎってたべています。たしかに、あの足の細さでは、えものをおさえつけてひきちぎることは無理ですよね。えだにつきさすのは、えさをたべるためのモズの工夫だったんです。人間でいえば、はしやフォークを使うのと同じこと。(嶋田忠『モズ:不思議なわすれもの』p10〜15より引用)
枯枝の横から生えた短い刺は鋭く、まるで血塗られたように赤茶色でした。 
モズは食事の度に適当な刺のある枝を縄張り内で臨機応変に探すのかな? 
お気に入りの食卓として、この枝を繰り返し使っているのかもしれません。 
もしもモズ♂がイチイの枯枝を嘴でポキンと折って折口を鋭く尖らせたのだとしたら、予め食事の道具(フォーク、串、食器)を自分で作ったことになります。(道具作り) 
定点観察でこの枝を見張っていれば、モズの捕食シーンを繰り返し観察できそうです。 
センサーカメラを近くの樹上に設置して無人で監視したら…と夢は膨らみます。 

私はこれまでフィールドで「モズの早贄」を一度しか見つけたことがありません。 
関連記事(4年前の撮影)▶ モズ(野鳥)の早贄にされたコオロギ♂ 

今回の捕食シーンの観察を踏まえると、「モズの早贄」はただの食べ残し(忘れ物)ではないかと個人的には思うようになりました。 
しかし、近年になってモズが早贄を立てる理由(究極要因)が生物学的に解明されています。
その研究結果によると、貯食した早贄はモズ♂の栄養食であり、繁殖期に早口で歌えるようになった♂は♀にもてるのだそうです。(日本語版プレスリリースのPDFはこちら。)
Nishida, Yuusuke, and Masaoki Takagi. "Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success." Animal Behaviour 152 (2019): 29-37.

モズの『はやにえ』の機能をついに解明!―はやにえを食べたモズの雄は、歌が上手になり雌にモテる― (大阪市立大学の公式サイトより)


アブラゼミの翅を毟る
アブラゼミに腹弁が無いので♀
獲物を刺に再固定
食後の全景


2021/10/22

スギ幼木の葉裏に作った巣を守るキボシアシナガバチ♀の警戒態勢

 

2021年7月下旬・午前10:50頃・晴れ 

里山でヒトがあまり通らない山道(整備が行き届かず、ほぼ廃道状態)を薮漕ぎしながら進んでいると、前方にキボシアシナガバチPolistes nipponensis)の巣を見つけました。 
スギ(杉)幼木の葉裏に吊り下げられた巣上でこちらを威嚇している蜂に気づいた私は焦って立ち止まり、蜂に刺されずに済みました。 
幸い小規模なコロニーで、在巣の個体は3匹の♀だけでした。 
残りのワーカー♀は外役に出かけているのでしょう。 

巣の周囲の茂みを軽く揺らすと、こちらを向いていた2匹のキボシアシナガバチ♀が半開きにした翅を震わせて威嚇の姿勢(臨戦体勢)になりました。 
神経質そうに大顎を開閉させたり、持ち上げた足先をピクピク震わせたりしています。(武者震い?) 
巣盤の陰にいるもう1匹の個体は私の姿が見えてないのか、無反応でした。 
左下の個体は複眼が黒いので、羽化直後のワーカー♀と分かります。 
右下の個体は大型で複眼が茶色なので、これが女王蜂(創設女王)かもしれません。 

巣盤の中央部の育房は黄色い繭で蓋がされています。 
これはキボシアシナガバチの特徴の一つです。 
外側の育房には幼虫が育っています。 
巣柄付近の巣盤天井部だけ黒いのは、タール状のアリ避け物質を塗布してあるからです。
アシナガバチの天敵はアリです。 

巣を刺激しなければ、アシナガバチが私に対して飛びかかって刺しに来ることはありません。 
今回はキボシアシナガバチの営巣木を揺らさないで山道を直進するのは不可能だったので、少し迂回しました。 
アシナガバチ♀が示すボディランゲージを正しく読み取って正しく対処すれば、無闇に恐れることはありませんし、無用な殺生(駆除)も不要です。 
私の場合、アシナガバチに刺されるリスクが一番高いのは、山中でガサガサと強引に薮漕ぎしているときです。 
アシナガバチの巣があると知らずにヒトが激しく揺らしてしまうと、怒った蜂に刺されてしまいます。(経験済み) 
今回は直前で巣の存在に気づいてラッキーでした。 
低い位置に営巣していたので、少し離れてからしゃがんで動画に撮りました。
山道も人通りが減り整備しなくなるとあっという間に雑草が生い茂り森林への遷移が進んでしまいます。

アシナガバチ巣盤の繭キャップは白いのが普通ですが、キボシアシナガバチおよびヤマトアシナガバチ※の巣では繭キャップが鮮やかな黄色でよく目立ちます。
これは巣にうっかり近づきそうになってしまった敵への警告色かもしれません。
ただし、これは各々が図鑑で勉強するか、一度痛い目に遭わないと学習できません。


※【追記】
私のフィールドでヤマトアシナガバチを一度も見かけた記憶がありません。
不思議に思っていたところ、小松貴『絶滅危惧の地味な虫たち (ちくま新書)』という本を読んでいたら疑問が氷解しました。
(ヤマトアシナガバチは)関東あたりから西の日本各地の平地に広く分布し、温暖な地域ほど普通に見られる。(p211より引用)

そもそも寒冷な東北地方には分布していないと知りました。

そして近年めっきり数が激減し、その原因が不明なことから、環境省のレッドリストでは情報不足にしていされているそうです。

 

 

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