2011/01/02

コガタスズメバチ女王陛下の憂鬱





2010年6月下旬

この日は続けざまに招かれざる来客(シダクロスズメバチやチャイロスズメバチ)があったので、コガタスズメバチVespa analis insuralis)の創設女王は少し不安になっているようです。
巣材を咥えて巣口から出てきたのに、外被を点検して回っただけで増築作業を行わず巣内に戻りました。
この巣材はどうするのかと思っていたら、後に落ち着いてから外被を作りました。
また、外出の際に珍しく定位飛行を示しました(ホバリングして巣の位置を記憶する)。
ワーカーが羽化してくるまでの単独営巣期は女王蜂が全て独りで切り盛りしなければいけないので大変です。
巣の防衛に専念したくても、どうしても外役のため巣を留守にしないといけないのです。

つづく


チャイロスズメバチvsコガタスズメバチ女王





2010年6月下旬

本シリーズのエピソード#16で報じたように、軒下に営巣したコガタスズメバチVespa analis insuralis)の初期巣にときどきチャイロスズメバチVespa dybowskii)がやって来ます。
この日も一匹のチャイロスズメバチが巣の外被に止まり、乗っ取り先を品定めしています。
前回とは違い、コガタの創設女王が在巣でした。
巣内から創設女王が現れ、チャイロスズメバチ女王を撃退しました。
コガタ女王は戻ると少し外被を点検してから巣内に入りました。
しばらくするとまた巣口に現れ、なんと外被の首の先端を少し齧り始めました。
初期巣を独りで防衛するためには首が長いほうが良いのでは?と心配になりました。
怒り・興奮の刷毛口としての転移行動※だったのかも(虫の居所が悪かった?)。
あるいはチャイロの匂いが付着した部分を嫌って取り除く行動だろうか。 
※ 動物行動学において機能不明な非適応的行動の発現は「葛藤行動」として説明されることもあるそうです。『ダンゴムシに心はあるのか:新しい心の科学』p178より
首の先を落とした削り滓は地面に散乱しています。

チャイロスズメバチの女王はキイロスズメバチやモンスズメバチの巣を狙って乗っ取り、元の女王を殺すと寄主のワーカーに自分の子供を育てさせることが知られています。
コガタスズメバチが社会寄生の対象にならない理由の一つは、本種の初期巣に特有の外被の長い首でチャイロスズメバチの侵入を防いでいるのかもしれません。
ただし、チャイロ女王は寄主のワーカーが羽化するのを待ってから巣を乗っ取るらしいので、今回の小競り合いも本気ではなくただの偵察だったのかもしれません。
つづく


≪追記≫
この巣ではその後、コガタスズメバチのワーカーが羽化して巣の防衛力が上がるとともに、チャイロスズメバチの姿を近くで見かけなくなりました。



「チャイロスズメバチは何故宿主から攻撃されないのか?」という問題に対して最新の研究の興味深い解説がこちら()にあります。



≪追記2≫
『本能の進化:蜂の比較習性学的研究』 岩田久二雄・眞野書店 p318 において、
チャイロスズメバチが寄主としてモンとキイロの2種のスズメバチを選択する理由を考察していました。

1)同属(Vespa)種間の順位性
樹液の出る場所での、席次争いで強いものから弱いものへの順列は、オオ>チャイロ>コガタ>モン>ヒメ(スズメバチ)。
コガタは攻撃性が強いので、侵入者には不都合である。

2)創設雌の営巣開始時期
早いものから順に並べると
キイロ→モン→チャイロ→コガタ→オオ→ヒメ
となり、明白に選択根拠を示しているであろう。




コガタスズメバチの初期巣とシダクロスズメバチによる謎の訪問





2010年6月下旬

コガタスズメバチVespa analis insuralis)創設女王がしばらく巣口にぶら下がってから外出しました。
入れ替わるようにクロスズメバチの仲間が一匹飛来し、軒下を探索し始めました。
初期巣の外被にもときどき止まって徘徊しています。
虫の知らせで異変を感じたのか、コガタスズメバチ女王が巣材を咥えて帰巣しました。
以前も同様の事件があり侵入者の正体が気になっていたので(エピソード#15参照)、同定のため採集することにしました。
捕虫網を振り捕まえた蜂を容器に移していたら、なんと別個体のクロスズメバチが飛来しました。
千客万来です。
どうしてコガタスズメバチの初期巣にこれほど集まるのか不思議でなりません。

コガタスズメバチ創設女王が口に巣材を咥えたまま出巣しました。
ホバリングで定位飛行し、外被に止まりました。
外被を徘徊して点検するも、増築せず巣内に戻りました。
またすぐ出てきて外被を点検し、巣内に戻りました。
招かれざる訪問客が相次ぐので警戒しているのだろうか。
ようやく外被増築を開始。
梁との結合部を補強しています。気温25℃。


採集した蜂を持ち帰り標本を調べると、シダクロスズメバチ♀(Vespula shidai)と判明しました。
腹部体節が縮こまってしまいましたが、体長17mmは明らかにワーカーではなく女王蜂のサイズです。
期待していたような社会寄生種のスズメバチではありませんでした。
それにしても、単独営巣期のシダクロスズメバチ女王がコガタスズメバチの初期巣に一体何の用があって強い興味を示すのだろうか。
謎は深まるばかりです。
主が留守の間に巣内に進入して大胆にも幼虫や蛹を狩ろうとしているのだろうか。
ちなみに体格差は歴然としています(コガタ>シダクロ)。
もし侵入中に見つかって喧嘩になると、シダクロに勝ち目はないでしょう。
つづく
 


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