2023年6月上旬〜中旬
ニホンアナグマ♀(Meles anakuma)が2夜連続で大量の巣材(寝床・敷きわら)を繰り返し集めてくるシーンをまとめました。
画面に表示される気温はすべて異常値です。
シーン1・6/10・午後19:38・(@0:00〜)
晩に左の巣穴Lからアナグマ♀が外に出てきました。
暗視動画で左右の目の大きさが異なり(右目<左目)、右の首筋に白斑があるのが、この個体の特徴です。
この2つの特徴は、見る角度によって分かりにくいことがあります。
授乳期の♀は腹面に乳首が目立つようになります。
巣材集めは♀の仕事のようです。
ヘルパー♂が巣材集めをするのは一度も見たことがありません。
アクセストレンチを辿ってまっすぐ二次林に向かうと、木陰で立ち止まって自分の体を掻きました。
林縁の灌木に前足を掛けながら後足で立ち上がると、高いところにある枝葉を毟り取り始めました。
林床に落ち葉が足りなくなると、臨機応変に木の青葉(生葉)を調達するのです。
もしかすると、生葉の方がアロマ効果や防虫効果があるのかもしれません。
関連記事(同時期の昼間に撮影)▶ 後足で立ち上がって樹上の枝葉を巣材として集めるニホンアナグマ【トレイルカメラ】
シーン2・6/10・午後19:39・(@0:46〜)
別アングルで設置したトレイルカメラにも撮れていました。
しかしカメラの起動が遅れ、♀が後退しながら巣材を手前の巣穴Lに搬入したシーンは撮り損ねてしまいました。
すぐにまた同じ巣穴Lから外に出てきました。
今度は別の方角へ巣材集めに出かけます。
シーン3・6/10・午後19:39・(@1:12〜)
集めた巣材を前脚で掻き寄せながらアクセストレンチを後退し、最後は滑り込むように入巣Lしました。
次に出巣Lした♀は、獣道を左に向かいます。
シーン4・6/10・午後19:41・(@1:41〜)
またもやカメラの起動が間に合わず、後退での巣材搬入シーンをじっくり撮れていません。
次に出巣Lした♀は、アクセストレンチから奥の二次林へ真っ直ぐ向かいます。
途中で長い落枝をうっかり踏んでしまいました。
シーン5・6/10・午後19:42・(@2:33〜)
巣材を探して、夜の二次林をうろついています。
シーン6・6/10・午後19:42・(@2:54〜)
右奥の二次林から巣材を掻き集めてくると、後ろ向きで戻ってきました。
今回も落ち葉ではなく、木の青葉(生葉)を枝ごと採取してきたようです。
左の巣穴Lに巣材を運び込み、すぐにまた出巣Lしました。
前回とは違う方角へ向かったのですが、巣材集めではなく採食に出かけたようです。
シーン7・6/10・午後23:06・(@3:20〜)
次の巣材搬入までだいぶ時間が開きました。
巣穴Lから外に出てきた♀がアクセストレンチから真っ直ぐに林縁に向かうと、灌木の根本で落ち葉を掻き集め始めました。
後ろ向きのままアクセストレンチをスルスルと戻り、落ち葉を巣穴Lに運び入れました。
改めて出巣Lした♀は左へ向かいます。
採食に出かけたのかな?
シーン8・6/10・午後23:06・(@4:00〜)
同じシーンが別アングルの監視カメラでも撮れていました。
シーン9・6/11・午前2:03・(@4:42〜)
日付が変わった深夜未明に、♀がまた出巣Lしました。
アクセストレンチでちょっと座ってからすぐに立ち上がり、画面を横切って右下へ。
しばらくすると、前脚で落葉落枝を一緒くたに掻き集めながら、後ろ向きで戻ってきました。
落枝は巣材(寝床)として不適切だと思うのですが、わざわざ落ち葉を選り分けずに(細かいことは気にせずに)巣穴Lへ搬入します。
せっかく集めてきた巣材の一部が、アクセストレンチに放置された長い落枝に引っかかってしまいました。
それを前足で丹念に集め直しています。
邪魔な落枝を取り除けばよいのに…といつも思うのですけど、アナグマは横着なのか巣口の付近に放置したままです。
不審者の侵入を知らせる防犯効果があるのかもしれません。
シーン10・6/11・午前2:03・(@5:31〜)
同じシーンが別アングルの監視カメラでも広角で撮れていました。
シーン11・6/11・午前2:07・(@6:13〜)
数分後にも別の方角から新たに集めてきた大量の巣材を巣穴へ運び入れました。
巣材をずるずると引きずっていたので、蔓植物の葉っぱを毟り取ってきたようです。
今回は新しい巣材を巣口Lにも少し敷き詰めたのが、ちょっと珍しい行動です。
巣口Lを出入りする幼獣たちがアクセストレンチから転がり落ちても大丈夫なように、クッションとして置いたのかな?
次に出巣Lした♀は身震いしてからぐるっと回り込み、右側の巣口Rを点検しています。
その途中で長い落枝をうっかり踏みつけてしまいました。
巣口Lの横を通って左へ向かいます。
シーン12・6/11・午後19:54・(@7:14〜)
明るい日中は巣内で寝て、晩になると活動を再開します。
♀が大量の落ち葉を前足で掻き集めながら、右の巣穴Rへ後ろ向きで運び込みました。
しばらくして同じ巣穴Rから外に出てきた♀は、身震いしてから今度は右奥の林内へ向かいました。
シーン13・6/11・午後19:51・(@7:54〜)
ここだけ時系列が逆になってしまいました。
アナグマ♀がノソノソ歩いて画面の左下へ消えると、周囲の灌木が激しく揺れました。
カメラの死角でアナグマ♀の姿が見えませんが、おそらく後足で立ち上がり、灌木の枝葉を巣材として採取しているようです。
早回し映像に加工すると、立ち木の振動が分かりやすいです。
※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。
【考察】
アナグマは何年もかかって地中に巣穴をいくつも掘り広げ、セットを形成します。
子育ての時期は特に大量の巣材を巣穴に運び込みます。
巣穴を中心にあちこちに出かけては、林床の落ち葉を集めてきます。
林床の落ち葉が枯渇すると、こんどは青葉のついた枝や蔓植物を集めてくるようになります。
アナグマが巣材として集めてくる植物の種類をきっちり同定するには、どうしても巣穴を発掘調査する必要がありそうです。
おそらく巣内には大量の腐葉土が形成されて、そこにも土壌生物やキノコなどさまざまな分解者による生態系が形成されているのではないかと予想されます。
アナグマが掘った古い巣穴をタヌキやキツネ、イタチなどが乗っ取って再利用するそうです。
また、アナグマは決まった場所に通って溜め糞をするので、そこにも糞虫など独自の生態系が形成されます。
このように、ニホンアナグマは(ビーバーほどではありませんが)営巣地周辺の環境をかなり改変して生態系に大きな影響を与えています。
したがって、キーストーン種と言えるのではないかと個人的に思うようになりました。
(アナグマ・ファンの贔屓目かもしれません。)
大井徹『獣たちの森』という専門書によると、
野ネズミにとって落葉層は採食や隠れ場所として重要と考えられ、とくにアカネズミは落葉層と下層植生が発達した場所を好み、ヒメネズミは下層植生が疎な森林環境を好むと考えられている。(p132より引用)
つまり、アナグマが巣材集めをして落葉層が失われた森ではアカネズミが住みにくくなることになります。
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