2021/11/22

キアゲハ幼虫は触られた側の臭角を長く伸ばす?

 

2021年8月下旬・午前7:30および午後12:35頃・晴れ 

山麓の道端の草むらでキアゲハPapilio machaon hippocrates)の幼虫を見つけました。 
模様が黒っぽい個体です。
食草(セリ科植物)の葉柄?に乗ってじっと静止しているだけでした。 
この植物はオオハナウドかな?と思ったのですが、蕾が咲きかけで花も葉も見れず、しっかり同定できませんでした。 
昼間に目立つ葉表で堂々としていて、天敵(捕食者や寄生者)が怖くないのでしょうか? 
キアゲハ幼虫の体表に私が触れる度に、上半身を仰け反らせながらオレンジ色の臭角をニョキっと伸ばしました。 
フォーク状に突出した臭角から独特の異臭を放ち、威嚇しています。 
しばらくすると海老反り姿勢から戻り、臭角も引っ込みます。
関連記事(8年前の撮影:飼育個体)▶ 臭角を伸ばすキアゲハ終齢幼虫
面白がって繰り返していると、面白いことに気づきました。 
伸びた臭角の長さが左右非対称なのです。 
軽度の奇形なのかと思いきや、触られた側の臭角が長く伸びることが判明しました。 
幼虫の右側面に触れると右の臭角が長く伸び、左側に触れると左の臭角が長く伸びるのです。 
正中線(背中の真ん中)に触れたら臭角は左右対称に伸びたかな?
体の左右に同時に触れたら、臭角はどう伸びるでしょうか?
(臭角の)内部は体液で満たされており、それの圧力増減によって臭角を出し入れすることができる。(wikipediaより引用)
お祭りの縁日でよく売っている玩具の笛の「吹き戻し(ピロピロ笛)」と同じ原理です。 
体性感覚(触覚)と臭角がリンクしていて、フォーク状の臭角のつけ根の部分(分岐点)には左右への体液分配をコントロールする弁のような仕組みがあることになります。
幼虫は少数の単眼をもつだけで目がほとんど見えませんから、視覚ではなく触覚で敵の位置を察知しているのでしょう。
そんな複雑な機構を想定しなくても、幼虫が触られた側に体を曲げたことで内圧に左右差が生じ、受動的に臭角の伸展も左右非対称になるのかもしれません。

5時間後、帰り道に現場を再訪しました。 
おそらく同一個体のキアゲハ幼虫が少し移動して蕾の上に乗っていました。 
何度も実験を繰り返すと、同じ結果が再現されました。 
しつこく繰り返すと接触刺激に馴れて反応が鈍くなります。
他の個体でも同じなのか、更に追試して確かめる必要があります。 
とりあえず、8年前の飼育個体で試してみた実験映像を見直してみましょう。
当時は気づかなかったのですが、やはり刺激された同側の臭角が少し長く伸びていて、背中の中央(正中線)を触れられると左右均等に伸びていました。
ただし、私の利き手の問題でキアゲハ終齢幼虫の同じ側(左側)ばかり突いていました。


撮影中に狩蜂が飛び回っていました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみると、その正体はミカドトックリバチEumenes micado)でした。 
幼虫の背後で一瞬ホバリングしただけで、狩らずに飛び去りました。 
狩りの決定的瞬間が見れずに残念でした。 
狩蜂に襲われたら幼虫は臭角で応戦したはずです。 
ミカドトックリバチ♀が獲物として狩るイモムシ(蛾の幼虫)の種類には好みがあり、アゲハチョウ科の幼虫は狩りの対象外なのでしょう。 
(キアゲハ幼虫の臭角から発する匂いに強い忌避効果があり、ミカドトックリバチ♀が狩らなくなったという可能性も考えられます。)

【追記】
学研の写真図鑑『チョウ:くらしとかいかた』p27によると、
(アゲハチョウ類の)幼虫の出すくさい角は、人には通じてもアシナガバチなどにはききめがない。角にかまわず食べてしまう。
藤丸篤夫『アゲハチョウ観察事典』によれば、
 臭角は、敵から身を守るためのもので、とくにアシナガバチにたいしてきくといわれています。(中略)臭角があれば、かならずアシナガバチから身を守れるとはいえないようです。(p16より引用)

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