2018年7月下旬
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コンクリートブロックを物色して営巣地を決めたスズバチ♀
駐輪所やゴミ集積場として使われている小屋の軒下に置かれたコンクリートブロック内でスズバチ♀(Oreumenes decoratus)が営巣を始めたので、定点観察に通ってみました。
ところが泥巣を少し作りかけただけで未完のまま放棄してしまったようです。
スズバチ♀の営巣開始を観察したのが7/10。
そのときはコンクリートブロック内に泥巣は全く作られていませんでした。
その3日後(7/13)および10日後(7/20)に作りかけの泥巣を写真に撮りました。
今回は18日後(7/28)の夜です。
暗い穴の底にある泥巣を写真で記録するのはピント合わせが意外と難しいので、今回は赤外線の暗視カメラによる動画で撮ってみました。
ストロボ写真で記録するよりも上手く状況を記録できました。
母蜂の活動する姿を見たのは初日だけです。
コンクリートブロックを採寸してみると、縦×横×高さ=39×19×10cm。
各ブロックに3つある深さ19cmの穴の断面は角が面取りされていて、長径×短径=8×4.5cmの楕円状。
面白いことに、コンクリートブロックに3つ並んでいる穴の奥底で、同じ深さの同じ位置(右下)に泥巣を3つも作りかけていました。
この辺りではスズバチの生息密度が高くないので、複数個体の♀が同じ場所で集団営巣した可能性は低いと考えています。
(集団営巣では3つの穴の同じ位置に泥巣が作られたことを説明できません。)
1匹のスズバチ♀が三巣並行営巣を試みたのでしょう。
実はこのような現象は他の種類の蜂でも結構よくあることです。
私は以前、キアシナガバチの女王蜂を個体識別して二巣並行営巣を証明したことがあります。(私が蜂の観察にのめり込むきっかけとなった忘れがたい事例です)
▼関連記事
・二巣並行営巣を始めたキアシナガバチ創設女王
・キアシナガバチ創設女王による二巣並行営巣の謎
【参考文献】
1. Kasuya E. Simultaneous maintenance of two nests by a single foundress of the Japanese paper wasp, Polistes chinensis antennalis (Hymenoptera: Vespidae). Applied entomology and zoology. 1980;15(2):188–189.
フタモンアシナガバチ創設女王による二巣並行営巣の報告です。
2. 牧野俊一, 山根正気. ニッポンホオナガスズメバチの創設女王で見られた2巣並行営巣行動の観察. Kontyû. 1979;47(1):78-84.
どうしてこんなことが起こるのでしょう?
複眼と単眼による蜂の視覚系は、ヒトの見ている世界とは異なります。
営巣地を決めた蜂は定位飛行をしながら周囲の風景を記憶しようと努めます。
その視覚記憶に頼りながら巣材を集めに何度も往復して、次第に巣が建造されます。
ヒトが作った人工物をたまたま蜂が気に入ってそこに営巣を始めたとき、その人工物が幾何学的な繰り返し構造になっていると蜂は混乱して正しく位置を記憶できなくなってしまうようです。
自然界には「規則正しい繰り返し構造」などという物は存在しませんから、長い進化の過程でも、そのような本能行動の過ちが修正される機会が無かったのでしょう。
今回の場合は、一つのコンクリートブロックに相同の穴が3つ並んでいたことがスズバチ♀の混乱を招く元となりました。
実はこの軒下には、同型のコンクリートブロックが4つ並べて置いてありました。
スズバチ♀はその中で左端のブロックを選んで記憶することは出来たようですが、そこまでが能力の限界でした。
(残り3つのコンクリートブロック内には泥巣は全く作られておらず、落ち葉やゴミが溜まっていました。)
蜂が選んだブロックの右隣のブロックはなぜか真ん中で真っ二つに割れていたので、蜂の目から見ても他と区別しやすかったのかもしれません。
現代人が団地や集合住宅などの人工的な繰り返し構造から我が家を難なく探し当てる能力があるのは、建物に表札やラベルを書いて目印にしたり、座標の概念を駆使して住所を記憶するからです。(何号棟の何階の何号室)
蜂にはこれが出来ないのです。(フェロモンで匂いの目印を付ければ良いと思うのですが…。)
写真を並べてみると、造巣は7/13以降になると全く進んでいません。
母蜂が何らかの理由で死んでしまったのかもしれません(殺虫剤で駆除されていないことを祈ります)。
あるいは、この「おかしな営巣地」を捨て新天地でやり直すことにしたのでしょう。
幾ら働いても造巣が一向に進まないので「おかしい」と気づいたスズバチ♀が「本能の落とし穴」から自力で抜け出せたのだとすれば、とても興味深いですね。(ファーブルが好きそうな話です)
コンクリートブロックの横に無人カメラを設置してスズバチ♀の行動を全て録画していれば貴重な記録になっていたことでしょう。
蜂の為を思えば、コンクリートブロックの余計な穴を塞いでやれば、造巣に専念できたかもしれません。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
スズバチ営巣地@コンクリートブロック(7/13) |
スズバチ未完泥巣a@コンクリートブロック(7/13) |
スズバチ未完泥巣b@コンクリートブロック(7/13) |
スズバチ未完泥巣c@コンクリートブロック(7/13) |
スズバチ営巣地@コンクリートブロック(7/20) |
スズバチ未完泥巣a@コンクリートブロック(7/20) |
スズバチ未完泥巣b@コンクリートブロック(7/20)ピンぼけ |
スズバチ未完泥巣c@コンクリートブロック(7/20) |
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