2011/12/27

シラキトビナナフシ♀の死骸と卵

2011年11月下旬

某山寺の軒下でナナフシの死骸を発見。
仰向けに死んでいました。
同定のため、採集して持ち帰りました。



手元の本と見比べてみると(『ナナフシのすべて』p26)、初見のシラキトビナナフシ♀(Micadina conifera)と判明。
後翅を広げると鮮やかな赤色。
現場では見落としていたのですが、腹端の産卵弁から卵が一粒のぞいていました。
産卵中に寿命を迎えたのでしょう。



ナナフシの卵の実物を見るのも初めてです。
噂に聞く通り植物の種子に擬態しているようで、林床に落ちていても見つけられないでしょう。
ナナフシの種類によって異なる卵の造形美をじっくり観察するために♀の体から取り出そうとしたら、産卵弁にきつく締め付けられていて苦労しました。


堅い卵の表面は網目模様で刻印され、側面には切れ込みがあります。
虫ピンやピンセットを使って卵を摘出する際に堅い表面を誤って傷つけてしまったかと焦りました。
調べてみるとこの切れ目は精孔と呼ばれ、ここから精子が侵入して受精するのだそうです。
ただしシラキトビナナフシには♂の存在が報告されておらず、♀が単為生殖を行うらしい。
(従って未受精卵から幼虫が孵化する。)

採集した卵を容器で大切に保存し、外気に晒した状態で越冬させることにしました。
得られた卵はわずか一個のため春に幼虫の孵化を観察するのは困難だと思いますが、飼育してみるつもりです。
後で思うと、♀体内の卵巣に産み残した卵が残っていたかもしれないので解剖してみて採卵すればよかったですね。

※ 今日は珍しく動画ネタではなく写真のみです。


『日本動物大百科8昆虫Ⅰ』p116によると、

(ナナフシの)野外での産卵行動の記録は少ないが、飼育下での観察によると、産卵方式には「落下方式」と「粘着方式」がある。大部分の種類は、産卵の際に腹端を上下に振って卵を産出する落下方式である。



関連記事(11年後の撮影)▶ イヌツゲ灌木をうろつくシラキトビナナフシ♀ 




2011/12/26

松葉を舐めるクロヤマアリ♀



2011年11月中旬・気温14℃

里山の尾根に生えたアカマツの幼木で黒いアリのワーカー(働き蟻)も松葉を舐めていました。
クロヤマアリFormica japonicaだと思うのですがどうでしょう?
未採寸、未採集。

シダクロスズメバチ♂2匹も同様の摂食行動を示したので、松葉の表面がアブラムシ類の排泄した甘露で汚れているのではないかと予想しました。

2011/12/25

松葉を舐めるシダクロスズメバチ♂の謎



2011年11月中旬・気温14℃

里山の尾根道に生えたアカマツの幼木(樹高〜160cm)でクロスズメバチの仲間を発見。
松葉の茂みをかき分けるように枝を歩き回っています。
顔を見てシダクロスズメバチ♂(Vespula shidai )と確定しました。
観察を続けると、松葉にしがみ付きながら舌を伸ばして頻りに葉の表面を舐めています。
動画撮影後にこの個体♂aを採集。
しばらくするともう一匹のシダクロスズメバチ♂bが飛来し、同様の摂食行動を始めました。
初めて見る不思議な行動に興味を覚えました。

よく晴れた午後なので松葉にもう朝露は付いておらず、単なる水分摂取ではなさそうです。

松葉を集めると松脂なのか独特の芳香がします。
松葉に誘引されたシダクロスズメバチが今回♂だけである(n=2)ことが偶然でなければ、次の可能性として雄蜂が性フェロモンや性成熟に必要な成分を松葉から摂取しているのかと妄想しました。
ところがしばらくすると、黒アリ♀も同じ松葉を舐めに来ていることに気づきました(動画あり)。
また先日は別の場所で松葉に興味を示すキイロスズメバチ(性別不明)も観察しました。
これらはフェロモン説で説明できそうにないので、残念ながら却下。

晩秋の里山では蜜源植物もすべて枯れてしまい花は何も咲いていません。
飢えたスズメバチが必死で甘いものを探し求めているのでしょう。
松葉に蜜腺があるという話は聞いたことがないので、アブラムシ類の分泌した甘露が松葉の表面に残っているのではないかと予想しました。
松に寄生するアブラムシやカイガラムシの害がひどくなると「すす病」が発生するらしいのですが、この松葉にそのような症状は特に見られませんでした。
今思えば私も松葉を舐めてみて、本当に甘いのかどうか確かめるべきでしたね。
実は誰か糖尿病を患った爺様がここで立ち小便した結果、というオチかもしれませんが…。

【追記】
『スズメバチの科学』p97によると、
秋にマツ類につくカラマツオオアブラムシなどから多量に分泌される甘露は、多くのスズメバチ類の重要な餌資源となっており、カラマツなどの周りを飛び交う彼らの姿はよく観察される。


【追記2】
有名な小説家の井伏鱒二に『スガレ追ひ』(1974年)という作品があります。

何人もの蜂取り名人からクロスズメバチの採集法や飼育法を聞き取り調査してまとめた本です。
ヂバチ(地蜂)の見分け方が不十分でローカルな俗称しか書いていない点を除けば、生態に関する記述もおそろしいぐらいに詳細かつほぼ正確で、現在の蜂屋にも読み応えがある内容でした。
本に何種類も登場するスズメバチ類の正確な和名が分からないのですが、外見や習性に関する記述からおそらくあの蜂だろうと推測するのも楽しいものです。

その中に興味深い記述がありましたので引用します。

ただ一つ、わかってゐると云へるのは、ヂバチが唐松の木に関わりを持つやうになると、幼虫の色に急に艶が出ることである。
しかし、なぜ唐松の木に関りを持つとさうなるか、蜂が唐松の木にたかって来て何をしてゐるかはわからない。
ただ結果として、はつきりと幼虫に艶が出て油つこくなることは確かである。食べてみて味がいい。
「蜂の子と唐松の木は、きっと何か取引関係を持ってゐる。唐松は蜂を優秀にする。なかでも、八ヶ岳の唐松と関係を持つたのが最高だ。」
ヂバチが自発的に唐松の木に寄って来るのは、九月の初めから十一月にかけての間である。
葉が分かれてゐるまはりを這ひまはり、何を食べてゐるか何を嗅いでゐるか不明だが、とにかく夢中になって歩きまはってゐる。
もうそのころ、唐松にたかるやうになつたものは、スガレ追ひの蛙の肉は見向きもしない。
蛙よりも唐松の方に気を取られてゐる。
一方また、唐松の木に来ないで草のなかなど舞ってゐるやつは、遅蒔ながら蛙の肉にたかつて来る。
これは同じ巣へ帰るにしても、木の屑を選ぶのは木の屑を運び、餌を運ぶのは餌を運び、自分の仕事がそれぞれ違つてゐるためだらう。
それぞれが専門部分に分れて働いてゐる。(『井伏鱒二 全集第25巻』p393~394より)



動画の一匹目♂aを捕獲して持ち帰り、蜂蜜を与えてみました。

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