2022年6月中旬・午後14:30頃・晴れ
里山から流れ出る沢の上空を美しいゼフィルスが激しく乱舞していました。
渓流と呼べるほどではありませんが、沢の水を砂防堰堤でいったん堰き止めた後の細い流れです。
周囲は雑木林で、比較的自然豊かな環境です。
沢沿いに生えた灌木や草むら茂みの上で長々と繰り広げられる卍巴飛翔を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@1:14〜)
1/8倍速のスローモーションにすると、羽ばたきがしっかり可視化されました。
翅表は美しいメタリックグリーンで、翅裏はシルバーに見えます。
そのため、羽ばたくと裏表2色の翅がチラチラと点滅して見えます。
なんとなくメスアカミドリシジミ♂(Chrysozephyrus smaragdinus)ではないかと思うのですが、動画を優先したら同定用の写真を撮れませんでした。
互いに相手の周りで円を描くように飛び回るので、卍巴飛翔と呼ばれています。
途中でイチモンジチョウと思しき蝶が飛来して近くの草むらに着地しました。
しかしゼフィルス♂は異種の乱入に惑わされずに、ひたすら卍巴飛翔を続けました。
この行動は♀を待ち伏せする♂同士の縄張り争いと言われているのですが、空中戦の勝敗が着くまで(片方が疲れて逃げ出すまで)見届けられませんでした。
2頭♂は乱舞しながら渓流沿いの土手を少しずつ降下し、茂みの陰に隠れて見えなくなってしまうのです。
♂が♀を待ち伏せして縄張りを張る止まり場(おそらく沢に張り出した灌木の枝葉)も見つけられませんでした。
【参考書籍】
この読み応えのある名著の第2章は、まさにメスアカミドリシジミ♂の卍巴飛翔を若き筆者がフィールドで研究した経緯を熱く語っています。
実は飛んでいるメスアカミドリシジミ♂が同種でも相手の性別を見分けられず、ライバル♂でも何でも全て♀と勘違いしてひたすら誤認求愛を続けてしまう結果、卍巴飛翔になってしまうのだそうです。
これは従来の定説に反するパラダイムシフトです。
本書を読んで私も筆者の実験データには納得しましたし、蜂など他の昆虫の♂が誤認求愛する様子を私自身が何度も動画撮影しています。
しかし、どうしても「蝶が相手の性別を見分けられない」という点が信じられません。
出会い頭はうっかり勘違いしても、じきに間違いに気づきそうなものです。
配偶行動に関わる重要な局面で相手の性別をいつまで経っても見分けられないなんて、あり得るのかな?
ミドリシジミ類の翅表の色は分かりやすい性的二型です。
♂は金属光沢に輝く青緑色であるのに対して、♀は地味な茶色です。
もし「蝶が飛んでいる同種個体の性別を複眼の視覚で見分けられない」のであれば、どうして翅の「性標」が安定な形質として集団中に固定されているのでしょう?
チョウの性標は、ヒトの蝶愛好家に鑑賞してもらったり生物学者に性別判定してもらったりするために進化した模様ではありません。
もし蝶自身にとって性標がどうでも良い形質であるならば、世代を重ねると中立変異によって集団中で薄まってしまうはずです。
この点を説明できないのは、仮説として問題があると思います。
性標が効いてくるのは♂の探雌行動の際ではなく、求愛する♂を♀が選ぶ際なのですかね?
本を1回通読しただけなので、勘違いや読み落としがないかどうか、もう一度読み返してみます。
筆者も似たような反論を散々されまくり、論文が受理されるまで非常に苦労したと述懐しています。
Takeuchi, et al. "Territorial behavior of a green hairstreak Chrysozephyrus smaragdinus (Lepidoptera: Lycaenidae): site tenacity and wars of attrition." Zoological science 22.9 (2005): 989-994.Takeuchi, et al. "The erroneous courtship hypothesis: do insects really engage in aerial wars of attrition?." Biological Journal of the Linnean Society 118.4 (2016): 970-981.
↑【おまけの動画】
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