2021年7月下旬・午前6:20頃・くもり
里山の苔むした山道の道端にコンクリート製の境界標が点々と打ち込まれており、その1つにスズバチ(Oreumenes decoratus)の初期巣を見つけました。
ここには築坑性の狩蜂がたまに泥巣を作るので、通りかかる度にチェックしていたのです。
関連記事(6年前のまとめ記事)▶ 境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察:2015年境界標(12cm×12cm×40cm)の東側面に「山形県」と刻印されています。
その「山」という文字の第1画の縦溝に沿って下端に小さな徳利状の泥巣がありました。
泥巣の一部は未だ湿っており(周囲と色が違う)、作りかけの状態と分かります。
巣口は地上30cmの高さで開口したままです。
泥巣内部を覗いても暗くて貯食物の有無は見えませんでした。
おそらく1番目の育房に貯食する前の造巣段階と思われます。
ストロボを焚いて泥巣の写真を撮ると、境界標の赤く塗られたコンクリート側面を巣の内壁としてそのまま使っていました。(巣材の節約)
私が定規を当てて泥巣を採寸していたら(横幅2.5cm×縦2.0cm)虫の羽音♪が聞こえ、振り返ると泥玉を咥えた母蜂が帰って来ました。
巣材集めから帰巣したようです。
動画では周囲の蝉しぐれにかき消されて、蜂の羽音は聞き取れませんね。
スズバチ♀は警戒して私の周囲を飛び回り、私に対して少し向かって来ました(動画撮り損ね)。
「すまん、すまん」と侘びつつ私が少し巣から離れると、スズバチ♀は境界標に着陸しました。
羽ばたきを止めるとスズバチ♀はまず泥巣全体を点検して回ります。
巣口の中も覗き込みました。
やがて巣材の泥玉を初期巣の外壁に少しずつ塗り始めました。
背側からでは肝心の造巣作業の様子があまりよく見えません。
母蜂の側面から撮りたかったのですが、私が下手に動くと逃げられそうなので、今回はこのまま背面から撮影します。
スズバチ♀は大顎の裏面と前脚の間に湿った泥玉を抱え込んでいます。
巣口を形成する徳利のくびれた首の部分の下面に巣材を追加しました。
次は泥巣の左端に巣材を追加し、境界標との境目の部分を強化しました。
造巣作業中は翅を斜めに広げています。
作業の途中に泥巣上で少し羽ばたいたのは、巣材の泥を乾かしているのでしょうか?
ヒメクモバチ♀とは異なり、スズバチ♀は腹端を左官のコテのように使うことはありませんでした。
大顎(および前脚?)だけを使って左官屋の仕事をしています。
関連記事(6年前の撮影)▶ 山形県に泥を塗るヒメクモバチ♀【10倍速映像】ろくろも使わずに徳利状の泥巣を一から作り上げるドロバチ類の本能行動には感嘆します。
持って来た泥玉を使い切ると、スズバチ♀は飛び去りました。
巣の位置は既にしっかり記憶しているらしく、定位飛行はやりませんでした。
スズバチは私のフィールドでよく見かける普通種です。
♀が巣材集めする行動は散々観察してきました。
念願(悲願)の造巣シーンを初めて観察できて、感無量です。
こんな早朝から巣作りするとは知りませんでした。
※ 現場はかなり薄暗い林縁なので、手持ち夜景モードで動画撮影しました。
苔むした山道の両側に境界標が点々と(非等間隔で)並んでいます。
今季ドロバチ類の泥巣が作られたのは、そのうち1箇所だけでした。
同じ規格サイズの境界標が並んでいる繰り返しパターンなのに、帰巣時に母蜂が迷子になってないことを示唆しています。
境界標が等間隔に並んでないことがミソのようです。
営巣地となった境界標の周囲の茂みの様子などをスズバチ♀は正確に記憶しているのでしょう。
次は造巣の過程を微速度撮影で横から記録しようと、境界標の近くに三脚を立てて母蜂の帰りを待ち構えます。
また、寄生蜂(オオセイボウやキアシオナガトガリヒメバチなど)や寄生バエ(ドロバチヤドリニクバエなど)が寄主スズバチの泥巣を物色に来るのではないか?と期待しました。
ところが、待てど暮せどスズバチ♀が帰って来ません。
泥巣が乾くまで待っているのかもしれません。
素人目には1番目の育房は未完成ですけど、獲物(蛾の幼虫)を狩りに出かけたのでしょうか?
ヤブ蚊の襲来に閉口した私が虫除けスプレーを噴霧したせいだとしたら、痛恨のミスです。
私なりに気を使って営巣地から少し離れた所でスプレーを掛けたつもりなのですが、虫よけのきつい匂いを繊細なスズバチ♀は嫌ったのかな?
スズバチを待っている間、頻繁に飛来するカノコガ(Amata fortunei)が紛らわしくて仕方ありません。
蜂にベーツ型擬態している蛾なので、毎回ドキッとします。
群飛というほどではないものの、多数のカノコガが低空で辺りを飛び回っていました。
暇を持て余した私は他の被写体が気になり、少し現場を離れることにしました。
ススキの細い葉先をちぎり、目印としてスズバチの巣口に差し込んでおきます。
もし私の留守中に母蜂が帰巣すれば、邪魔な障害物を取り除くはずです。
しばらくして私が戻って来ても、巣口の草葉はそのままでした。
実は現場から少し離れた渓流沿いの崖で、採土していたスズバチを目撃しました。
同一個体の母蜂かどうか不明です。
営巣地の近くでも巣材の泥や水飲み場は豊富にありそうなので、こんなに遠出するかどうか疑問です。
私が余計なことをしたばかりに、巣口の異物を警戒した母蜂が造巣を中断し泥巣に近づかなくなってしまったのでしょうか?
せっかく作りかけのスズバチ泥巣を見つけた千載一遇の機会を逃すまいと、無理して数日後にも現場を再訪したのですが、残念ながらスズバチの造巣行動は二度と観察できませんでした。
母蜂の身に何かあったのかもしれません。(天敵に捕食された?)
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