2021年3月中旬・午後12:22〜15:50・晴れ
雪山の池Hで冬眠明けのヤマアカガエル♂(Rana ornativentris)が岸辺にずらっと並んで混み合ってくると、隣同士で小競り合いが勃発するようになりました。
前回の記事:▶ 池の底から岸辺に続々と上がってくるヤマアカガエル♂の群れ
新たに♂が池の底から岸辺に上がってくる度に、既に岸辺で待機していた近くの先住♂が新顔に飛びつきます。
♀と抱接できる♂は早い者勝ちのようで、誤認でも良いからとにかくいち早く相手に飛びかかって捕捉する必要があるのでしょう。
動く物なら本当に何でも反射的に跳びついてしまうのか、実験してみたら楽しそうです。
例えば、魚釣りのルアーとして売られているゴム製のリアルなヤマアカガエルの模型が実験に使えそうです。
しかし、ライバル♂の背後から抱きついた♂はすぐに♀ではないと誤認に気づくようです。
体表の感触やフェロモンの匂いなどで、ヤマアカガエルは抱きついた相手の性別を知るのかな?
本当の(異性間の)抱接なら♂は前肢で♀をきつく抱きしめるはずですし、後脚を畳んで♀の背に座ります。
一方、誤認抱接した♂は前肢の抱きしめも緩く、後脚は大きく広げたままです。
本気の抱接ではないのに、ライバル♂にマウントした♂は背後から自分の体を何度も相手に打ち付ける(背後から体当たりのように相手を押す)動きを繰り返しました。
おそらく、この動きで彼我の体格差や体重差を比べているのでしょう。
♂の体格には個体差があります。
次に攻守を交代して再びバックハグの小競り合い(力比べ)が起こることもあります。
勝負がつくと(体格で?)負けた個体は水底へ逃げ帰ったり、相手から少し離れた岸辺に泳いで移動したりします。
逃げた先の岸辺にも別の先住者♂がいる場合、連鎖反応のようにそこでも小競り合いが勃発します。
ヤマアカガエルには鋭い角や牙、爪などの武器が何もありませんから、♂同士の「縄張り争い」もなんとも穏やかな(相手を傷つけない)闘争に見えます。
動物の縄張り争いでよくあるのは、既に縄張りを張っている者が挑戦者に勝つことが多いという「先住者効果」です。
岸辺で隣り合うヤマアカガエル♂同士で珍しくマウントされた♂が逃げ出さず、マウントを仕掛けた方が相手を蹴りながら離れて待機場所を明け渡したことがありました。
ライバル♂を背後からグイグイ押してもびくともしなかったので、体重で負けたと悟り退散したようです。
過去に観察したヒキガエルなら、誤認抱接された♂はリリースコール♪を発していました。(俺は♂だ、離せ!)
▼関連記事(9年前の撮影)
・排水溝でアズマヒキガエルが蛙合戦
・アズマヒキガエルの抱接と蛙合戦@沼ところがヤマアカガエル♂の場合は、誤認抱接でバックハグされても無抵抗で(なされるがまま)、滅多に鳴きませんでした。
たまに小声で短く鳴いているのがおそらくリリースコール♪なのだと思います。(求愛歌の鳴き声とは明らかに違います)
しかし頬の鳴嚢が膨らんでいないので、どの個体が鳴いているのかはっきりしません。
▼関連記事
※ 動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。
♂同士で文字通りマウントの取り合いと陣取り合戦が繰り広げられ、互いに牽制し合う結果、繁殖池の岸辺に独身♂がほぼ等間隔で並び、しかも池の外側を向いて♀を待ち構えるようになります。
この過程を引きの絵で微速度撮影したら面白そうです。
♀が一番やって来そうな産卵適地の岸辺を本当に一番強い♂が占有しているのかどうか、個体識別して確かめる必要がありますね。
例えば日陰だったり水温が低い雪解け水が流れ込む岸辺にわざわざ産卵する♀はいないはずです。
そんな悪条件の場所に追いやられた♂は弱い個体(小型の若い♂?)と予想されます。
どの個体を撮るべきか目移りしてしまうのですが、ただ漠然と眺めているだけでは、どうも♂は行き当りばったりで待機場所を決めているような印象も受けました。
小競り合いで負けた♂個体が(一見条件の良さそうな)日当たりの良い岸辺に逃げ込むこともあり、一体何を巡って争っているのか素人目にはますます混乱してきます。
ヤマアカガエルは体が小さいので、広い池の全体を俯瞰で評価して最適な待機場所を選択するのは難しい気がします。
※ 観察歴の浅い私は未だ外見からヤマアカガエルの性別を見分けるのに自信がありません。
(カエルは)一般的に♀の体の方が♂よりも大きく、♂には婚姻瘤 (抱きダコ)があります。鳴嚢 があるのも♂だけなので、鳴くのは基本的に♂だけです。♂の前肢の指にある婚姻瘤は、繁殖で♀に抱接するときに滑り止めの役割をします。(『日本のカエル48 偏愛図鑑: 東大生・さこの君のフィールドノート』p19より引用)
今回の動画に登場する個体は、行動から全て♂だろうと判断しました。
♀が単独で登場したら周りの♂が放っておくはずがない、と思うのです。
(もし今回の動画に♀が混じっていたら、ご指摘願います。)
気になるのは、やや大型の個体が水中を泳いで来て、岸辺で待機している小型♂の真下をわざわざくぐり抜けるように泳ぎ去ったケースです。
小型の待機♂が慌てて抱接を試みるも間に合わずに捕まえ損ねて、大型個体はスルリと逃げてしまいました。
この大型の個体が♀なのだとしたら、♂が気づいて抱接してくれる反射神経を試す行動かもしれず、面白いと思いました。
(一般にヤマアカガエルの体格は♀>♂です。)
それとも♂同士の挑発行動なのかな?
♂同士の小競り合いは、いわゆる「蛙合戦」の前哨戦だったようです。
今回観察した♂同士の行動を私は「縄張り争い」と解釈したのですが、専門家の見解は違うようです。
雪国ならではの生態なのかもしれません。
平凡社『日本動物大百科(5)両生類・爬虫類・軟骨魚類』でヤマアカガエルの生態について調べると、
同じアカガエルの仲間でも、トノサマガエルやダルマガエルとは異なり、なわばり行動は示さない。卵をもった♀が現れると、♂はわれ先にと♀に抱きつきペアを形成する。(p36より引用)早春の池で出会った♀♂が抱接を始める過程を私は未だ観察できていないので、そこが今後の課題です。
♀はいつになったら、そしてどこから現れるのでしょうか?
【追記】
『動物たちの気になる行動(2)恋愛・コミュニケーション篇』という本(総説集)に収められていた福山欣司『田んぼに響く求愛コール:カエルの婚姻行動』を読み返しました。
筆者はアオガエル科の研究者なのですが、冒頭でカエルの婚姻システムについて概説していました。
少し長くなるのですが、どうして繁殖期のヤマアカガエル♂は縄張りを張らないと考えられているのか、引用させてもらいます。
一般にカエル類の婚姻システムは、繁殖期間の長さが1日から2週間程度しかない短期繁殖型と、1ヶ月以上続く長期繁殖型に大別されます。日本では、ニホンアカガエルのような早春に産卵するカエルのほとんどは短期繁殖型です。こうした種ではたくさんの♂と♀がほぼ同時期に出現していっせいに産卵が行われるのが一般的です。♂たちは、小さな鳴き声を発しながら泳ぎ回り、出会う相手に手当たり次第に抱きつきます。間違えて♂に抱きつくこともありますが、抱きつかれた♂がリリーシングコールと呼ばれる鳴き声を出すので、すぐに離れます。こうした婚姻行動は昔から「蛙 合戦」としてよく知られています。一方、田植えが近づくころに繁殖を始めるカエルのほとんどは長期繁殖型に分類できます。長期繁殖型では、一度にたくさんの個体が集中することはほとんどありません。先に繁殖場所に現れて鳴き出し、そこへ準備のできた♀から順に現れて産卵するというのが一般的です。♀はいつ現れるかわかりません。しかも一度にたくさんやってきませんので、♂たちは自分のなわばりをつくり、大きな鳴き声や美しい鳴き声を出して、♀を惹きつけようとします。もちろん、なわばり争いなど♂たちの競争も激しくなります。日本の長期繁殖型の代表としては、トノサマガエルやカジカガエルなどがあげられるでしょう。(p131〜132より引用)
専門家の理屈は分かりましたけど、今回の私の動画はどうしてもヤマアカガエル♂同士の縄張り争いに見えてしまいます。
雪山の池という特殊な環境の個体群では繁殖行動が変わってくるのでしょうか?
誤認に気づくと抱きしめた前足をすぐに離す |
0 件のコメント:
コメントを投稿