2021年10月中旬・午前9:40頃・晴れ
里山の水場を監視するトレイルカメラ(無人センサーカメラ)でまたもや衝撃映像が撮れました。
なんとホンシュウジカ♂(Cervus nippon centralis)が登場したので仰天しました。
ここ山形県では20世紀前半に絶滅したのに、いつの間にか復活していたようです。
山形県の最新版レッドリストからホンシュウジカは外されていました。
福島県から北上したのか、新潟県や宮城県から山伝いに来たのか、興味深いところです。
【参考文献】山形県で確認されたニホンジカ (Cervus nippon) の出自 : ミトコンドリアDNA多型に基づく推定 哺乳類科学 53(1), 131-137, 2013-06-30
晴れた午前中なのに、現場は鬱蒼とした雑木林に囲まれてかなり暗く、赤外線の暗視モードで録画されていました。
てっきりいつものニホンカモシカかと思いきや、頭部に立派な角があるのでニホンジカの♂と判明しました。
生きた鹿を見たのは昔、奈良公園に行ったとき以来なので、とても興奮しました。
せっかくのスクープ映像がモノクロなのは残念ですが、林道に浮かぶ鹿のシルエットが逆に幻想的です。
池の対岸で地面の匂いを嗅いで回り、下草や灌木の葉を採食しているようです。
池の水を飲むかと期待したのですが、なぜか水辺には近寄らず、何かに驚いて急に右へ跳んで水場から離れました。
トレイルカメラの立てる微かな物音に敏感なのか、それとも私が池の岸辺に置いた茹で栗に気づいて警戒したのかもしれません。
(ヒトの体臭を嗅ぎ取った? カビの生えかけたクリの存在が気に入らない?)
その後は林道を歩いて灌木の葉を採食しているようです。
角からボロボロに垂れ下がっているのは、角から剥がれかけた皮膚なのか、あるいは枯れ葉などのゴミが角に付着したのかな?
私の通うフィールドで見つかる蹄の足跡と言えば、かつてはカモシカだけでした。
見分ける必要がなくて楽だったのですが、最近は絶滅から復活したイノシシとシカもたまに出没するようになり、ややこしくなりました。
有蹄類の足跡の見分け方をしっかり勉強し直さないといけません。
オオカミが絶滅して以来、現代の日本の山林は捕食者の大型肉食獣が不在という歪な生態系になりました。
その結果、草食獣が増え放題となり、農作物の食害や山林の荒廃が生じるようになりました。
特にシカ問題はどこも深刻です。
山形県も対岸の火事ではなくなりました。
【追記】
古典的名著(バイブル)の誉れ高い、高槻成紀『北に生きるシカたち シカ、ササそして雪をめぐる生態学(復刻版)』を読んで北国のニホンジカについて勉強してみたら、私の認識に誤りがあることが分かりました。
奥羽山脈の西側に位置する山形県は日本海側の気候に晒される多雪地帯です。
多雪地帯に適応したニホンカモシカと異なり、ニホンジカは蹄の面積が小さくて深雪では活動が著しく制限されてしまうのだそうです。
草食獣としては同じでも、ウシ科のニホンカモシカは低木を食べるブラウザー(browser)的、シカ科のニホンジカはイネ科の草を食べるグレイザー(grazer)的とされ、解剖学的にも生理学的にも生態学的にも異なるのだそうです。
シカの主な食料である常緑の笹が雪の下に埋もれてしまうと、飢えた鹿は低地または寡雪地域に移動します。
したがって、山形県でシカの個体数が増える可能性は今後も低いでしょう。
山形県はシカによる深刻な食害問題から冬の豪雪によって守られているのです。
逆に、暖冬が続いてシカの目撃例が山形県で増えるようだと、地球温暖化の影響が非常に深刻であることを意味します。
・シカの分布は基本的に積雪50cm以下の地域に限られており、100cm以上の地域にはほとんどいない(p101より引用)・ニホンジカは多雪地域には進出できなかった。(p167より)・東北地方の山地性落葉樹林は積雪量に対応して、太平洋側にブナ-ミヤコザサ-シカ複合体が、そして日本海側にブナ-チシマザサ-カモシカ複合体がある。(p104より)
今回10月中旬に雄鹿の動画が撮れた意味もだいぶ分かるようになりました。
・8月下旬になると♂の角は伸び切り、皮が剥げるようになる。♂は角を藪に荒々しく打ち付けて皮を剥ぎ、その後、角を木の枝や幹にこすりつけて磨きあげる。(中略)♂の体毛がますます黒くなり、行動も猛々しくなる10月、いよいよシカの交尾の季節になる。(p133より引用)・10月をピークとする季節はシカの交尾期であり、この季節に成♂は体力を消耗させる。(中略)この時期の成♂は食物を摂ることも忘れたように猛々しくなり、♀を追い掛けまわす。(p150より)
つづく(1年後の撮影)→里山のトレイルカメラに写ったホンシュウジカの下半身