2022/01/12

タヌキの溜め糞に集まり翅紋誇示と占有行動・誤認求愛を繰り広げるベッコウバエ♂の群れ

 

2021年10月上旬・午後16:30頃・くもり 

スギ林の暗い林床をトラバースする山道にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞を定点観察しています。
前回の記事:▶ タヌキの溜め糞で吸汁するベッコウバエ♂
前回の10日前に撮った動画です。 
話の都合上、実際の時系列とは逆になりました。 

私が近づくと、溜め糞に集まっていたベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)の群れが一斉に飛び去りました。 
私がじっと立ち尽くしてしばらく待つと、ベッコウバエは溜め糞に戻ってきて、互いに小競り合いを始めました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ(@4:19〜)すると、非常に面白いドラマが見えてきます。 
ベッコウバエの性別を正しく見分けられるようになったので、今度は行動をしっかり解釈できそうです。 

現場は昼なお暗いスギ林で、しかも時間帯が夕方でした。 
手持ち夜景モードで撮っても非常に暗くて画質が粗い動画になりました。 
かと言って、眩しい照明を点灯すると、昆虫の行動に影響を与えてしまいそうです。
動画編集時に自動色調補正を施したところ、ベッコウバエの体色がどぎつく不自然になってしまいました。 
私はベッコウバエの行動に興味があるので、見やすいように明るく補正したのです。 
(赤外線の暗視カメラで記録すべきでしたね。 )

ひたすら糞を舐めている個体もいますが、今回は小競り合いの行動に注目します。 
♂は閉じている翅をときどきパッパッと素早く開閉しています。 
翅を広げてくれたおかげで、腹背が黄色いことから♂と分かります。(♀の腹背は黒色) 
翅の斑点模様を誇示しているのでしょうか? 
しかし、翅紋に性差は無いので、♀を惹き寄せる求愛誇示ではない気がします。 
(虫の目で見える紫外線の下では翅紋に性差があるのかな?)
翅の開閉運動は、相手に飛びつく前の準備運動や闘争誇示なのでしょうか。
周囲にライバル♂が多いときにしか翅紋誇示はやらない印象です。 
♀は溜め糞上で翅紋誇示をしないだろうと予想するのですが、確かめたいところです。 

あぶれ♂は翅紋誇示をしながら別個体に歩み寄ると、素早く飛びかかって背後からマウントしました。 
しかし交尾には至らず、すぐに離れました。 
どうやら、あぶれ♂同士が互いに誤認求愛を繰り返しているようです。 
一旦離れてから、同じ相手にマウントをやり返すこともあります。 
ベッコウバエの交尾は早い者勝ちらしく、嫁不足で焦るあぶれ♂(独身♂)は目の前で動く仲間には性別を問わずとりあえず飛びついてみるのでしょう。 

ヒキガエルのカエル合戦のように、誤認求愛でマウントされた♂は「俺は♂だ離せ!」とrelease callを発するのかもしれません。 
ベッコウバエは鳴かないはずですから、独特の羽音がするのかもしれません。 
高性能のマイクで録音してみたくなります。
そんなことをしなくても、相手に触れると体表の化学組成で直ちに性別が見分けられるのかもしれません。

しばらく観察していると、どうも単純な誤認求愛では説明できないような気がしてきました。 
♂同士のマウント合戦は闘争行動も兼ねているようです。 
この点は、マウント行動で群れ内の優劣を決めるニホンザルを連想しました。
相手を傷つける武器を持たないベッコウバエ♂がどうやって勝負を決めているのが分かりません。
♂の体長にけっこう個体差があるので、おそらく単純に組み合った時の体格や体重で♂同士の優劣が決まるのではないかと思います。 
タヌキは溜め糞の上に次々と排便しますから、鮮度の異なる糞が積み重なっています。 
溜め糞の中でもベッコウバエ♀にとって産卵に最適な場所があるのでしょう。 
そのベストな糞を巡って♂同士がお山の大将のように争い、占有行動を繰り広げているようです。 
♂同士でマウント合戦を繰り返すと、体格の良い個体(α♂)がライバル♂を追い払ったり、劣位の小型♂個体が遠慮して(怯んで?)離れていく様子が見られました。 
結果的にα♂が最も質の良い糞塊の天辺に陣取り、産卵に来る♀を待ち伏せして交尾するのでしょう。 

ところが、占有行動だけでも説明できません。 
下剋上を挑むかのように、大型の♂に対して小型の♂が背後から飛びつくことがあるからです。 (@7:36)
♂が相手に飛びかかる行動はやはり、♀と誤認した求愛行動なのでしょう。 
小型♂でもかなりアクティブな個体がいて、性別問わず求愛アタックを繰り返しています。 
1匹の♂がライバル♂に飛びかかると、その動きに近くの別個体♂が反応して連鎖反応のように三つ巴のマウント合戦が始まることもありました。 

♂同士の小競り合いに気を取られていたら、いつの間にか1組の♀♂カップルが成立していました。 
求愛が成就して交尾を始める瞬間を見逃してしまい、残念無念。 
興味深いことに、必ずしも体長が最大の♂が♀との交尾に成功している訳ではありませんでした。 
おそらく♀に選択権は無く、早い者勝ちでカップルが成立してしまうのでしょう。 
交尾中の♂に対してもあぶれ♂は背後から飛びついてマウントを試みます。 (@7:50)
しかしあぶれ♂は連結した交尾器の間に割り込んだり♀を強奪することはなく、紳士的にすぐ離れました。 
飛びつかれた交尾中の♂は抗議の印として、中脚を高々と上げていました。(この行動は蜂やコガネムシでも見たことがあります。)
♀♂交尾ペアが少しでも身動きすると、近くで待機しているあぶれ♂が反射的に飛びついてしまうようです。 (@9:13)

溜め糞上で翅紋誇示もせずにひたすら吸汁している個体(性別不明)に対しても遂にあぶれ♂が飛びついてマウントしたものの、すぐに離れました。(@10:02)

溜め糞上で繰り広げられるベッコウバエの小競り合いは、♂同士の誤認求愛でもあり、ライバル♂を追い払うための闘争行動(占有行動)でもあると分かってきました。
ベッコウバエも腹背の色だけで仲間の性別を見分けているのだとしたら、 翅を閉じている相手の性別は飛びついてみるまで分からないことになります。
溜め糞上でベッコウバエの性比は極端に偏っていて、深刻な嫁不足です。(♂に対して♀の数が少ない) 
♀♂カップルが成立して交尾を始める瞬間を観察するのが次の課題です。 
タヌキはほぼ夜行性で、溜め糞に排便するのは夜です。
早朝から溜め糞を終日観察してみる必要がありそうです。
ベッコウバエの♀は早朝から新鮮な獣糞に飛来して♂と交尾を済ませ、その場に産卵するような気がしてきました。

しばらくすると(@3:23〜)、♂同士の小競り合いは減り、群れは落ち着きました。 
あぶれ♂同士が適度な間隔を開けて溜め糞上に陣取り、翅紋誇示もやらなくなりました。
ベッコウバエにとっても暗くなり過ぎて、活動限界を迎えたのかもしれません。
そこへメタリックグリーンに輝くキンバエ(種名不詳)が飛来しました(@3:47)。 
別種のキンバエに対してベッコウバエ♂が飛びかかることはなく、無反応でした。 

溜め糞から少し離れた下草の葉に単独個体(性別不明)が乗って身繕いしていました。(左右の手足を擦り合わせ@4:06)
あぶれ♂が争いを避け、溜め糞の辺縁部で♀の飛来を待ち伏せする作戦なのかもしれません。 (劣位♂のスニーカー戦略だとしたら面白いですね)

 

2022/01/11

真夜中に池の水を飲むホンドタヌキ【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2021年10月中旬・午前4:20頃・ 

無人センサーカメラ(トレイルカメラ)を仕込んだ水場にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が登場しました。
真夜中にカメラ目線の両目が白く爛々と光って見えます。 
どうやらトレイルカメラの存在に気づいて警戒しているようで、頭を上下させて風の匂いを嗅ぎ、辺りの様子を用心深く伺っています。 
やがて急斜面を水辺まで降りて水場の水を飲み始めました。 
タヌキの飲水シーンは初見ですが、犬のように舌で水面をすくって飲んでいます。 
水面から波紋が広がるものの、水音は聞き取れませんでした。 
水面にタヌキの顔や光る眼が映っています。 
後ずさりで崖を登り返し、右岸をカメラの方へ近づいて来ました。 
丸々と太っている個体です。
画角の右端で再度、池の水を飲みました。 
どうもカメラの赤外線LEDを警戒しているような素振りです。 
(タヌキの目には薄っすらと赤く光って見えて怪しいのかもしれません。)
 ここで録画が一旦停止しました。 

44秒後にセンサーが再び起動したときには、タヌキは画面奥の対岸に戻っていました。 
つがいのパートナー(別個体)である可能性もありますね。
よほど喉が渇いていたようで、再び水を飲みました。 
ところで、タヌキは水浴しないのでしょうか? 
ようやく喉の渇きが癒えたタヌキは地面の匂いを嗅ぎながら左へ歩いて行きます。 
このとき遂に、私が池畔に置いておいた茹で栗の存在にタヌキは気づいたようです。 
しかし匂いを嗅いだだけで興味を失い、食べませんでした。 
林道を左へゆっくり立ち去りかけたところで録画終了(尻切れトンボ)。 

茹でた大きな栗の実を分かりやすく半分にカットしておいたらタヌキは食べてくれたかな? 
水辺に何日も放置していたので、もしかするとカビ臭かったのかもしれません。 
思いつきでやってみた給餌作戦は失敗です。 
給餌無しでどこまでやれるか、今季はストイックに野生動物の撮影に挑むことにします。 
餌付けしてしまうと野生動物のためになりませんし、観察された行動の解釈が色々と面倒になるからです。



サザンカ(白花)の花粉を舐めるオオクロバエ♀

 

2021年10月下旬・午後13:05頃・晴れ 

民家の軒下に植栽されたサザンカ(山茶花)に白い花がたくさん咲いていました。 
萎れた花にオオクロバエ♀(Calliphora nigribarbis)が訪れて雄しべの花粉を舐めています。 
晩秋〜初冬に咲くサザンカの花には様々な昆虫が千客万来で、私も目移りしてしまいます。(動画公開予定) 
オオクロバエ♀が飛び立つまでじっくり待てませんでした。

本来ツバキの仲間は鳥媒花ですが、サザンカは虫媒花でもあるようです。
(サザンカの)蜜は雄しべの付け根に丸い粒となって露出している(田中肇『昆虫の集まる花ハンドブック』p37より引用)

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