8日ぶりの定点観察に来てヤエザクラ(八重桜)の樹洞内を赤外線の暗視カメラで覗いてみると、モンスズメバチ(Vespa crabro)の巣盤がほぼ完全に破壊され無くなっていました。 モンスズメバチの成虫は♀も♂も1匹も見つかりませんでした。
やはり誰かに蜂の巣を駆除されてしまったようです。
秋になってコロニーの解散が近づき、ワーカー♀による防衛力が衰えた途端に居候のヤマトゴキブリ(Periplaneta japonica)などが巣盤や外皮を一気に食害したのかもしれない…という可能性も無くはありません。 しかし、樹洞の底にモンスズメバチ巣の外皮の破片が散乱していたことから、物理的に巣を破壊・駆除されたと確信しました。
実は私が定点観察に通っていた期間中、営巣木の周囲に立入禁止のロープが張り巡らされて注意喚起の張り紙もしてありました。
黄色と黒の縞模様で危険を示すロープ(ベイツ型擬態)と注意書きが前回見に来たときには撤去されていました。
その寛大な対応は今どき珍しい神対応だと私は高く評価していたのですが、やはり誰かハチ嫌い(ハチ恐怖症)のヒトが一人でも強いクレームを入れると、残念ながら駆除せざるを得ないのでしょう。
モンスズメバチの巣が駆除されても、樹洞内に隠れ住む昆虫が全滅した訳ではありませんでした。
ハチの巣駆除にはおそらく殺虫剤を使用したはずです。
(殺虫剤を使わないでモンスズメバチだけ駆除したのだとすれば、難易度が高い方法なので大したものです。)
使用した殺虫剤に対して抵抗性を獲得しているのか、多数のヤマトゴキブリと1匹のゲジは樹洞内でしぶとく生き残っていました。 それとも駆除後に新たに樹洞内に侵入したゴキブリ集団なのかな?
殺虫剤が樹洞内に残留しているはずです。
今回新たに樹洞内で見つけた昆虫として、おそらくカラスヨトウ(Amphipyra livida corvina)の仲間と思われる中型の黒い蛾も1頭潜んでいました。 侵入したカメラに警戒して、樹洞内を走り回ったり少し飛び回ったりしています。
蛾の複眼がカメラの照明(赤外線または白色光)を反射して見えます。
文献検索でヒットしたPDFを斜め読みしてみると、
小蛾類も複数種が,夏季にはヤガ科のカラスヨトウ類も認められる. (亀澤洋. "甲虫の生息場所としての 「乾燥した樹洞」 について." さやばねニューシリーズ 11 (2013): 4-14.より引用)
との記述がありました。
鈴木知之『朽ち木にあつまる虫ハンドブック』によると、
チョウ目の多くの種は、朽ち木や朽ち木に発生したキノコを利用する。(p76より引用)
しかし、カラスヨトウなど見た目が似た蛾は掲載されていませんでした。
次に、森上信夫『樹液に集まる昆虫ハンドブック』を紐解いてカラスヨトウを調べると、
夏眠と呼ばれる活動休止期間がある、盛夏には一時姿を消す。(p25より引用)
八重桜の樹洞内でカラスヨトウ(の仲間)が夏眠していたのかもしれません。
樹洞内の画面左には、マイマイガ(Lymantria dispar japonica)の蛹が吊り下げられていました。 危険なスズメバチが居なくなったので、可視光の照明を点灯しても大丈夫です。
蛹の本体は焦げ茶色で、薄茶色の剛毛が疎らに生えていました。
マイマイガの幼虫は広食性で、食草・食樹リストにサクラが含まれています。
5年前には現場のすぐ近くのヤエザクラ(八重桜)の木でマイマイガ幼虫を撮影しています。
▼関連記事(5年前の撮影:ほぼ同じ場所)
桜の葉の中で繭を紡ぐマイマイガ幼虫(蛾)
ゴキブリやカラスヨトウ(蛾)など夜行性の昆虫は白色光を嫌って物陰にどんどん逃げてしまい、じっくり撮影できませんでした。 (蜂の巣が駆除されたことに落胆して、動画撮影が雑になってしまいました。)
撮影直後に外気温を測定すると、営巣木の周囲は17.7℃、湿度80%でした。
シリーズ完。
モンスズメバチ新女王の羽化を見届けることができず、残念無念です。
スズメバチの巣の定点観察はいつも不本意な形で強制終了してしまうために生態の解明が遅々として進まず、フラストレーションが溜まります。
それでもモンスズメバチの巣を定点観察するのはこれで2例目となり、新しい発見とささやかな喜びが得られました。