飼育ケース内で暴れる羽音がするので中を覗くと、いつの間にかヒトリガ(Arctia caja phaeosoma)成虫が羽化していました。 ヒトリガの蛹は容器の底で6月上旬からずっと、長い眠りに就いていました。
羽化の予定日や前兆が分からなかったので、放置してしまいました。
それでも成虫まで無事に育ってくれて一安心。
左右の前翅の翅頂が変形してしまっているのは、翅伸展の際に足場となる止まり木を入れてやるのを私が忘れたせいで、翅先まで充分に伸び切らなかったのでしょう。(羽化不全個体)
2020年9月上旬・午前00:25頃・室温26.2℃、湿度55%
羽化してから2日後。
夜行性のヒトリガの飛翔行動を記録するために、赤外線の暗視カメラで撮影してみました。
深夜に様子を見ると、ヒトリガ♀はプラスチック飼育容器の内壁に上向きにへばりつくように静止していました。
Digital Moths of Japanサイトでヒトリガを調べると「触角は♂で櫛歯状、♀で歯牙状」とのことなので、この個体は♀のようです。
容器の蓋をそっと外して暗視カメラを近づけても、ヒトリガ♀は寝ているのか無反応でした。
蛾の翅に指で繰り返し触れると覚醒し、嫌々ながらも壁面を登り始めました。
容器の一番上に達すると、上縁に沿って歩いて移動します。
小休止の後に、翅を閉じたまま細かく震わせ始めました。
しばらくすると急に翅を広げて細かく羽ばたき、飛翔筋の準備運動が本格化しました。
後翅の眼状紋のような水玉模様が見えるようになりました。
容器に翅を打ち付ける羽音がパタパタパタ…♪と静かな室内で聞こえます。
どうも飛び立つには足場が不安定で気に入らないようで、少し移動しました。
準備運動を止めてしまったので疲れたのか?と思いきや、すぐに再開。
遂に羽ばたきながら飛び降りました。(@5:15)
「飛び立ち」というには程遠く、ほとんど落ちるように飛び降りただけでした。
床で暴れ回り、再び容器の外壁を登り、天辺で激しく羽ばたき続けます。
急に準備運動の羽ばたきを止めると、腹端から白い?液状便(蛹便・羽化液)を3滴ポタポタと排泄しました。(@6:11)
飛び立てないのを自覚して、軽量化のため排泄したのでしょう。
すぐにまた準備運動の羽ばたきを再開すると、床に飛び降りて暴れ回ります。
翅先が曲がっている羽化不全個体は、とにかく飛翔力が弱くて、残念ながらまともに飛び立てませんでした。
上手く飛べずにすぐに墜落してしまいます。
あるいは、多数の卵を体内に蓄えている♀は体重が重過ぎて、飛ぶのは苦手なのかもしれません。
交尾のために♂が飛来するのをひたすら待つのがヒトリガ♀の配偶戦略なのでしょう。
♀は性フェロモンを放出するコーリング行動をするはずですが、私は見逃してしまったのか、よく分かりませんでした。
最後に、白色LEDの照明を点灯しても、疲れ切ったヒトリガ♀は逃げませんでした。
指で前翅を広げると、後翅に眼状紋のような水玉模様があります。
蛾の目の前に私が左手を差し出すと、自発的に登ってきてくれました。
手乗り状態から腕を少し登り、活動停止。