2012/10/27

ヤマジガバチの労働寄生#1:巣坑閉鎖中の蜂を個体標識



2012年7月下旬

ヤマジガバチが労働寄生(盗み寄生、托卵)する一部始終を動画に記録する機会に恵まれました。
かなりの長編になりますが、この夏一番感動した事件なので集中連載します。

数日前に見つけたジガバチの営巣地に朝から登りました。
山道(裸地、標高600m)の横の林縁で、雑木林に一段上がる緩い斜面になっています。
マンサクとリョウブの低潅木の下でやや薄暗く、地面はコケに覆われています。
この日も一匹のジガバチ♀(※サトジガバチまたはヤマジガバチ)がジージー♪と鳴きながら地面の穴に頭を突っ込んで何やら作業中でした。
前回観察した蜂と同一個体かどうか定かではありません。

関連記事はこちら→「林縁で閉鎖した巣穴を押し固めるジガバチ♀:前編」、「林縁で閉鎖した巣穴を押し固めるジガバチ♀:後編
※ 後日、同じフィールドで捕獲した♀♂はヤマジガバチと写真鑑定して頂きました。

蜂の行動をしばらく眺めていると、貯食・産卵を済ませた後で巣坑の本閉鎖を行っている途中だと判明。
巣口の周囲から大顎で削り取った土塊で巣坑を埋め戻すと、顔で強く押し固めています。
説明の便宜上、以降この個体をジガバチ♀H(host)と呼ぶことにします。
突然そこへ2匹目のジガバチが登場し、作業中の♀Hに背後から忍び寄るとちょっかいかけて格闘になりました。(@0:13)
2匹はもつれ合うように斜面を転がり落ちました。





スローモーション(1/5倍速)↑で確認してみると、襲いかかった蜂の顔色は確認できないものの(頭楯が白なら♂)、体長差が無いことから、交尾目当ての♂ではなく、巣の乗っ取り目当ての♀P(parasite)だと思われます。
小競り合いはすぐに終わり、戻った蜂は作業再開。
この時点では個体識別はできていません。
しかし、先住効果から巣の持ち主♀Hが喧嘩に勝ったと考えるのが自然でしょう。

しばらくしてふと気づくと、別個体のジガバチ♀が近くの落ち葉に居座っていました(@3:07)。
まるで隣人が巣穴を閉鎖する進捗状況を見張っているようです。
先ほど追い払われた♀Pが性懲りもなく戻って来たのでしょうか?

隣の山道(裸地)ほど多くはありませんが、この林縁にも働き蟻が徘徊しています。
クロアリが巣穴に近づくとジガバチ♀Hは追い払いました。
アリがジガバチ♀Hに噛みつき、驚いた蜂が飛び去り一時巣を離れることもありました。(@6:34)

映像後半は三脚にカメラを固定して撮り続けました。
観察も長期戦になりそうです。
ジガバチ♀Hも力仕事に疲れたのか小休止しています。

先程のジガバチ2匹の小競り合いと♀Pの存在が気になります。
どうも胸騒ぎというか虫の知らせがするので、個体識別のため蜂をマーキングすることにしました。
一時捕獲して麻酔下で標識するのも面倒ですし、蜂が身の危険を感じて営巣を中断し二度と戻って来ないかもしれません。
頭を穴に突っ込んで作業中(頭隠して尻隠さず)のジガバチ♀Hに油性ペンで腹背にそっと白点を打ちました。(@11:02-)
不意打ちに驚いたハチは飛んで逃げました。
この程度の悪戯で狩蜂が怒って刺してくることはありません。
以降はこの個体をジガバチ♀H白と呼ぶことにします。


つづく

頭隠して尻隠さず。


林縁の営巣地をやや引きの絵で示す。
【追記】

『札幌の昆虫』p341より
ヤマジガバチと近似種サトジガバチの違い
サトジガバチでは♂の交尾器の外葉先端部の幅が狭いこと、胸部の各所の点刻が皺状になることなどの特徴があるが、中間型も存在し、その他多くの点を総合的に見て同定する必要がある。(中略)一般に、本州では山地にヤマジガバチ、平地にサトジガバチが生息しているようである。

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